第8話
◆◇◆◇◆◇◆◇
ナローシュ様の執拗な求めには、ほとほと困ったものです。
私には心に決めた人がいると言っても聞いてくれないのですから。
でも王宮を追放されてから、未だ連絡の一つも寄越さない人の事を思っていて、一体何になると言うのでしょうか。
もしこれが私の誠実さや、愛情を試す試練なのだとしても……
ナローシュ様は本当に自分本位です。
正式な後宮でも無いのに、王からちやほやされているような女を、一体誰が助けてくれると言うのでしょう。
もはや……私に味方などいないのだと思って諦めていましたのに。
「ならば、私はここで死にます!その意味を問うまでもなくお分かりでしょう!」
彼は自らの命を懸けてナローシュ様の横暴から私を守り、そして差し向けられた屈強な兵を、軽やかな一撃で往なすのです。
「……私の胸のうちに燃える炎のために、です。私はその為にこの国へ来たのですよ。お嬢さん」
なんと……情熱的な言葉だったことでしょうか。どこで縁があったのかは、わかりませんが、彼は"私の為にこの国まで来た"というのです。
私の曇る心に、光が差してしまったような気がしてしまいました。
あの人とも、ナローシュ様とも違う。
皮肉屋で細身の騎士は、その言葉だけは直截的におっしゃったのです。
隣国から変わった方が取り立てられたとは聞いていましたが、あのような方だったとは。
私は思わず、彼を味方にする為の媚びた行動を取ってしまいました。
男性ならどのような方でも、そうすれば言いなりになるというのに。
騎士様は、私のした事にはまるで反応もしません、むしろ嫌がっているような気配で……それもそのはず、あの方は宦官だったようですから。
まるで仇花のような人です。
見目は麗しいのに、その愛は実を結ばない事を知っているのですから。
私があの人へ向けている感情と同じように。
もしかして、彼なら。
私をここから連れ出してくれるかもしれない、そんな事を考えてしまいました。
私には、心に決めた人がいるというのに。
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