第4話

 私は正体を明かさず、近衛として彼の側で復讐の機会を待つ事にした。


「他にないだろう、このように愛おしく、優しく、とても心地よき、木の陰よ……こんな感じか。よし、彼女へ贈る詩はこんなものか、どうだ、アリステラ?俺の才能は素晴らしいだろう」


 ナローシュは仕事もしないで、何の変哲もない木を眺めては、あーでもない、こーでもないと、思案していた。


「誠に比類なき才能かと、何も無い場所に静寂という詩情を見出すとは恐れ入りました。また、素朴で簡素な言葉に簡潔な味わい深さを感じさせます」


 総評。そんなんでときめいてたまるか、ヘボ詩人。

 

「ふはは、そうだよな!」


 この人には皮肉が通じないらしい。


「……ああ、しかし、嫉妬で狂いそうだ」


 突然、何を言ってるんですかね、この人。


「……あの娘には、思い人がいるんだ」


 なんとまあ、件のお相手は浮気の上に横恋慕らしい。


「俺の好意は別な男のために侮辱され」


 私は別な女の所為で、裏切られてますが。


「そして、俺の誠意は裏切られた」


 何をしたか知らないけど、先ず、私の誠意がコケにされているのですが。


「嫉妬は俺の苦しみだ」


 何が嫉妬の苦しみだ、いい気味ですよ、全く。


「辛い残酷な運命だよ、本当に」


 真に残酷なのは、貴方なんですけどね?


「はぁ……全くの裏切り者ですね」


「ああ、その通りだ」


 あ、しまった口に出てた。


 適当に誤魔化……いや、少しやり返しとこ。ムカつくし。


「(貴方は) 全くの不実者で、実に愚かです」


「ああ、そうだな」


「(私が) 尽くしたのに、裏切るのですから」


「しかし、よく知っているな」


「はい、それはもう、昔からの知り合いですので」


「奇遇な事もあるものだ」


 ダメだ……まだ、笑うな、最後まで耐えるんだ……けど……


「私は、幼少の頃から知っていますよ」


「ほう、その頃はどのようだったのだ?」


 案外、気が付かないものだなぁ。


「(貴方は) 昔は聡明で、非常に可愛らしいお姿でした」


「ふっ、だろうな、今も変わらないのだろう」


 丸々としたお顔で、キリッと言わないでください。私の腹筋を破壊するつもりですか。


「……そんなことありません、昔は少し痩せていました。後は、正直者で素直でした」


「なるほどな……昔はそうだったのか、知らなかったな」


「それが今や、不実者に裏切り者、自分の選択の愚かさに気が付かない程、浅慮な人間に」


「全く嘆かわしい事だな、昔から知る者なら尚更、思う所があるだろう。時の流れというのは残酷なものだな」


 嘆かわしいのは貴方の頭ですけどね。こんなにも面と向かって罵倒しているというのに。


「ええ、──その所為で私は傷を負いましたので」


 心にね。


「傷を……?それは痛ましいな……?ああ、すまない。あとで話をしよう。大事な用がある。またすぐに戻れるように、あまり離れるなよ」


 一瞬、疑問符を浮かべたナローシュだったけど私の後ろに誰かを見つけたらしく、追い払われた。


「ええ、すぐに戻りますとも」


 ……貴方を懲らしめに、ね。

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