第2話

 強い陽射しの下に熱砂を巻き上げ、雑多な民族が入り混じった兵士の列は、捕虜を連れ、敵から奪った軍旗を掲げて続く。


 市民からは、勇ましく見えるのだろうけど、その中にいる身としては、ただただ男臭くて、砂煙が煙いだけだ。


 まあ、荒野と草原を渡るこの長旅で、散々味わったから、もう慣れたものだけれど。


「我らは戦い、すばらしき勝利を得た」


「はい将軍、大変すばらしいことです」


 初老のダリオン将軍は、私の男装にも気が付かず、偽造した私の国の推薦状を鵜呑みにして、私を側近にしていた。


 ナローシュに内緒で、安全に旅するにはこうするのが一番楽だった。


「ナローシュ様の栄光は常に増す事だろうな」


 軍楽隊が鳴らす管弦は、人々を道行く軍隊の物見に呼び集め、金管の音色は優しい調べとなって、勝利を鳴り響かせる。


「長旅ご苦労であったダリオンよ!」


 隊列は王宮の広場で止まり、兵士達は壇上で待っていた青年に跪く。


 金の髪と瞳を持つ美青年。


 ナローシュだ。相変わらず外面の対応だけは、まともに見えなくもない。


 ただ、この二年間であまり痩せなかったらしい。見た目はあまり変わらない。


「顔を上げよダリオン、お前の剣は常に勝利をもたらす、抱きしめたいくらいだ」


「全ては陛下の御名の威光あってこそでございます」


「よせ、苦労をかけた褒美として、お前の娘に、王家に等しい者の婿をとらせると約束しよう」


「恐れ多い事です、そんな大胆な夢の様なことは、考えてもみなかったことです」


 将軍の言葉は、遠回しに断りの文句を言っているように聞こえた。


「いいや、言わせてもらう!ダリオンよ此度の戦、見事であった!」


 ……でも、ナローシュには分からなかったらしい。


「……ありがたくお受けいたします、ありがとうございます。して、ナローシュ様。頼みたい事があるのですが」


「言ってみろ、可能な限り叶えてやろう」


「前へ」


 ダリオン将軍は、私を前に呼び寄せる。


「はい」


「こちらの者を近衛として推薦したく存じます」


「その者は?」


「は、隣国より友好の証として、送られてきた将校にございます。なんでも陛下の近衛、ひいては参謀として推薦すると」


「お前、名はなんと言う」


「"アリステラ"、そうお呼びください」


「……顔を上げよ」


「は!」


 歩み寄ったナローシュは、まじまじと私を見つめる。


 かなりジーッと見てくる。


 これは、バレたかな。


 ……まあ、髪の毛切って口元隠すくらいじゃ流石にバレるか。


 バレたらバレたで、普通にお祝いしてあげよう。その為に来たんだし。


「……随分と小綺麗な面構えをしているな、まるで娘のようではないか、何故顔を隠す?」


……気がついたわけじゃないんかい。


 そこは、"目元ですぐに君とわかった"とか、昔みたいに気取ったこと言って見せなさいっての……無理か。


「日の光に弱いもので」


……いや、これはフェイントで、実は気づいていた……とか?


「……まあ、よい。明日から宮殿に勤めることを許す、配属は追って沙汰しよう」


……ダメだ完全に気がついてない。


 まあ、私の男装が完璧なんだろう。


 そう言う事にしておこう。

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