第108話 世界を産む種。

 王宮から呼び出しがあった。


 もちろんあたし宛じゃなくてノワール宛てだけどね?


 でも、暗にあたしを連れてこいって感じのことを言われたというノワ。


「猫がいるんですってね。貴方の猫、見てみたいわ」


 そう王妃さまが言ったという。


「ねえ。あたしのことばれたのかな?」


「そうかもしれないけど、もういい加減隠れるのやめにしない?」


「え? ノワール……」


「俺、正式にねえさんと結婚したいと思ってる。そうしたらセリーヌ・マギレイス・ラギレスだってバレるよ? 猫に転生したとかそんなのたぶん関係なしに、向こうはねえさんの事ラギレスだって思ってるだろうし?」


「まあ、そうだよね……」


「それに、もう魔王は居なくなったんだし。これ以上戦う必要はないよ? 俺だっている。ねえさんはまったりすごしてくれればいいのさ」




 ありがとう。ノワール。うん。嬉しいよ。




 あたし、ミーシャ・ラギレス。


 いろいろあって三回目の転生が猫だったっていうちょっと変わった経歴の持ち主。


 実はこの世界の神様みたいな存在だったあたし、この自身の内なる世界からインナースペースの一部を切り離し小説家アリシア・ローレンという女性に転生した。


 このあたしの内なる世界、というのは、言うなればこの世界そのものだ。


 世界、宇宙はシャボン玉の泡のように、産まれては消え、消えては産まれる。


 それは人の命と同じように、円環によって再生されるのだ。


 人の心を構成する内なる世界、インナースペースというものは、大なり小なりいろいろあるけれど、結局の所この宇宙そのものと同じものだったりもする。


 そして。


 人の心からもまた、世界は産まれ。


 その世界にまた、人が産まれる。




 幾つもの世界が人の心から産まれ。そしてそこでまた物語が産まれる。


 あは。


 それってなんて素敵な事なんだろう。





 アリシアに転生したあたしはそこで、


 アリシアが書いた小説、マシンメア・ハーツというおはなしをベースにした仮想現実、VRの世界を体験した。


 王女、ラギ・レイズ・マギレイスという主人公としての人生を体験し、その後また別の世界20世紀後半の日本、江藤遥香の世界を何度か繰り返すうち。


 あたしの心は迷子になった。


 自分が死んでしまったと思い込んだらしいのだ。


 そして。


 マシンメア・ハーツの世界が生み出した世界。そんな異世界にラギレスとして転生を果たす。


 この辺がちょっと説明し辛いんだけど、


 さっき言ったようにこの世界っていうのは産まれては消え消えては産まれてくる。


 シャボン玉のようなものだ。


 人の心の中には、そんな世界を産む種が眠っている。


 想像力が創造の種となり、新しい世界をも産むのだ。


 え? そんな人の心なんて世界の時間に比べたら一瞬の出来事だって?


 うん。それはそう。当たり前のことだよ。だけどね?


 それは、その人の心の中では一瞬の瞬きするような時間かもしれないのだけど、その世界が誕生して消えるまではその産まれた世界ではまた違った時間軸となるの。


 時間なんて、何処でも一定に流れているものでもないからね?



 ラギレスとしての人生。


 セリーヌ・マギレイス・ラギレス。


 セリーヌ・ヴァインシュタイン、としての人生は、あたしにとってあまり嬉しいものでは無かった。


 だからかな。


 次の人生はまったりもふもふ暮らしたい。


 そう願ったのだ。

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