第107話 アスターニャ。
「デューク、デューク、ほらほらおいで」
棒の先に鳥の羽根を結びつけた猫じゃらし。
パタパタと振りながら時々きゅっと手元に引くと、デュークのかわいい前足がちゃっと伸びてくる。
時々お尻をフリフリしてちゃっと飛びかかって来たりもするのがかわいい。
にへら、と笑みが溢れるルーク。
そんな姿を眺めながら微笑んでくれるセリーヌ。
「姉様、ほら、デューク上手でしょう?」
「そうね。賢い子ね。いい子だわ」
セリーヌがいい子と声に出すたび「にゃー」と答えるデューク。
こんなまったりともふもふしていた日常。
思えばあの頃が一番幸せだったな。ルークはそう独りごちた。
☆☆☆
「父、バーンは姉セリーヌを古の魔道王国の女王、ラギ・レイズ・マギレイスの生まれ変わりだと信じていた」
「ええ。義父様はほんとうセリーヌ様がお好きですものね」
ベッドの上で妻アスターニャがそう相槌をうつ。
慈しむように微笑むその姿。
愛おしいな。
そう感じながら、彼女の頰に触れた。
ケンタウリ大森林の大爆発よりすでに半年が過ぎた。季節も秋になろうとしているそんな時期。
消えてしまった山や森の木によって被害を受けた者への救済や後始末も大方かたがつき、懸案の魔も消失した今、ルークにも少し時間ができるようになってきた。
アスターニャとこうしてゆっくりできるのも一ヶ月ぶりだった。
別に姉上の話がしたい訳ではないのにな。
言葉に迷いついつい話題に出してしまった父と姉の事。
ルーク・ヴァインシュタインはかぶりをふり、アスターニャの瞳をまっすぐに見据えた。
「あまり構ってやれなくてすまないな」
「いえ。旦那様が息災でいてくださるだけで
アスターニャが少し身体を起こしてこちらを覗き込むようにみて微笑んだ。
金色の長いウエーブのかかった髪が柔らかそうなその胸にかかる。
しばらくぶりに見るその肌は、ふんわりと柔らかさが増したように見え。
じっとみていると。
「いやですわ。そうじっと見られると恥ずかしい」
そう言いながら顔を隠すアスターニャ。
その両手の隙間からいたずらな瞳を覗かせ、
「
そう耳許に口をつけて囁く彼女。
ルークはそのまま無言でその彼女を抱きしめた。
抱きしめたまま。ベッドに転がって。
「ありがとう。アスターニャ」
そう一言だけ囁いたのだった。
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