第106話 三毛猫デューク。

 あれはルークがまだ四つでセリーヌがまだ八つになったばかりの頃。


 庭先に迷い込んできた黒猫が子猫を産んだ。


 全部で六匹。


 その子猫達が母猫の周りをチョロチョロ動くようになった頃、庭先は賑やかになった。


 それでも人が近づくと警戒して隠れてしまうし両親も姉も使用人までもがその猫に近づこうともしない事が不思議で。


 黒と白のハチワレ。鯖トラ白。グレイっぽい鯖。頭の模様がくっきりの濃い目の鯖。白に黒のブチ。そして三毛。


 一匹だけ黄色い毛が混じっているその子が妙に気になって。


 ルークはある時ふっとその子を捕まえて抱き上げてしまった。



 シャーっと尻尾を大きく膨らまし、怒る母猫。


 怖くって。


 母猫に威嚇され、泣き出したルーク。


 気がつくと。


 猫たちは何処かに行ってしまっていた。ルークの腕の中の三毛の子を残して。




「まあルーク。触ってしまったのね」


 いつのまにかそのルークのそばに居たのは金色の髪をふわふわさせた姉、セリーヌだった。


「姉様。お母さん猫が怒って……」


「そうね。怒られちゃったわね。しょうがないわ。貴方がこの子のお母さんの代わりをしなくちゃね」


「え? どういうことですか? 姉様……」


 セリーヌはルークの腕の中の三毛の子猫を優しく撫でながら。


「野良の猫はね、人間の匂いのついた子猫を育てることを辞めてしまうのよ。このままお母さん猫にこの子を返したとしたら、たぶんこの子は死んでしまうかも。だからね。お家で育てましょう? わたくしも手伝ってあげますから、ね?」


 そう言って優しく微笑んでくれた。


 つられて笑顔を取り戻し。


「はい! ぼく、がんばります! がんばってこの子のおかあさんします!」


 そう答える。


 柔らかい手がふっと頬に当たるのを感じて。


「うん。いい子ね。ルーク。大好きですよ」


 そうこちらを覗く碧い瞳がとても優しくて綺麗だったのを、ルークは覚えている。



 それからというもの。


 しばらくは子猫につきっきりだった覚えがある。


 幸い、お乳じゃなくても柔らかいごはんなら食べれるしおしっこだってちゃんと出来る。手間のかからない賢い子だった。


「まあ珍しい。この子、男の子ですよ」


 そうお母様がおっしゃって。


 なんだか弟が出来たような気分になりルークはその子猫にデュークと名付け可愛がった。


 寝る時も一緒。


 遊ぶ時も一緒。


 その三毛猫デュークもルークになつき、本当の兄弟のように仲良く育っていったのだった。

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