第81話 アリシア・ローレン。

 ラギ


  ラギ



     ラギ




         ラギ




 欲しい


     欲しい


          欲しい


               欲しい……




 ああ、またあの気持ちの悪い声。


 ラスレイズと名乗るあの声。



 あれ、あの時の、魔?


 自らを神と呼んだ、あいつ?




 意識の奥でそんな声が響く。




 は!


 っと、飛び起きた。あたし……。



「大丈夫? アリシア。急に倒れたからとりあえずベッドに運んだんだけど」


「ああ、ハクア……」


 笑顔の彼。


 あたしは冷や汗をかいて、ちょっと身体、冷えてきた?


 ぶるっと震えると、ハクアがふわりと毛布をかけてくれた。


「ありがとうございます……」


「もしかして、記憶、戻った?」


 実は、ほとんど戻ってる。


 でも。


 まだ実感は無い。


「戻ってる、かも、なんです。でも……」


「まだ混乱してるみたいだね。まあ、良くあるんだよ。VR世界が本当の現実だと思い込むことでこの現実では不安定になる。まあ、こうしてたまに起きることで回復する人が多いのだけどね。ずっと寝てる人はその分多くの人生を送っているからね。めざめた時には全くの別人になってないと良いのだけれど」


 ああ。


 そうか。




 あの世界で何度も何度もいろんな人生を送ると普通の人は記憶をなくす、のか。




 ああ、でも、なんで?


 なんであたしは……。





 ううん。そう、遥香の世界は?


 あれは、どういうこと?




「ねえ、ハクア。あたし、マシンメア・ハーツ以外のVR世界にも入ってました?」


「ああ。確か前回起きたあと幸せな世界がいいとおっしゃって。流石にマシンメアの世界は殺伐としてましたからね。1980年台の日本っていう国が舞台の世界に入っていましたよ。たぶん、人類が一番幸せだった時代だと、常々おっしゃってましたしね、アリシア」


 ああ。



 じゃぁ。


 やっぱり……。




 あたしはアリシア・ローレン。


 この世界で、家族の中でただ一人、ここのカプセルに入ることができて。



 あたしが書いていたおはなし世界をベースにしたVR。


 マシンメア・ハーツの世界で主人公ラギとして生きた。


 戦いの中で、疲れ果て。


 そして。



 次の世界は幸せな平凡な世界で幸せな人生を過ごした。


 筈、だった。


 まさか、流行病で死ぬなんて。


 そんな筈、無かった。



 あの世界であたしはそんなに早く死んじゃう筈は、なかった。


 そう。


 何か、変だ。



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