第80話 マシンメア=ハーツ。

 リンゴを擦り下ろした感じのドリンクを飲みながら。


 目の前の彼はハクア・マウアーと名乗った。


 医師であり介護士である彼、この施設を維持する為自ら志願して残ったのだという。


 自身のクローンに意識を移しつつもう千年、こうして生きて。



 寂しくなかったの?


 そう聞いてみた。でも彼、定期的にこうして誰かを起こしてきたから話し相手には困らなかったんだって。


 たまにこうしてリハビリ希望した人限定だけど、ね。


 ずっと眠ったままを希望した人も当然居たから、そういう人は起こさないでいるっぽい。


 いつまで?


 地上が人が住めるようになるまで?


 外宇宙に出かけていった人々がここに帰って来るまで?


 その判断はここにあるマザーAIに任せてあるらしい。


 ほんと、不思議な話。


 まだちょっと実感がない、かな。


「アリシア・ローレン。貴女がそんなこと言うなんてね。名高いSF作家だった貴女が」


「え? あたし、そんな、だった?」


「VRの影響ですかね。確か記録では、マシンメア=ハーツの世界にいた筈ですけど、そこでの記憶はありますか?」


 ましんめあ、はーつ……。


「貴女の小説をベースに作られたVR世界です。けっこう人気でここで眠ってる人の多くが参加している筈ですよ?」


 え? なにそれ……。


 あたしのおはなし……?




 ふっと。


 意識がすこし晴れて。



 ああ。思い出した。マシンメア=ハーツ。



 機械神、デウス・エクス・マキナを崇拝する魔導王国。


 しかしそれは偽りの世界。


 人がマザーによって管理されるようになってから数千年、その支配から逃れる為、人の人としての尊厳を取り戻すために戦うマシン=マスター、ラギ・レイズ・マギレイス。


 彼女は魔導王国の王女だったのだけれど、ある時真実に気がつき、みずからが使役する魔・ギアを駆使してマザーと戦うのだ。



 彼女の兄、ラス・レイズ。


 彼はマザーにその身体をも支配され、ラギを襲う。


 そして……。





 あああああああ……。


 うそ、


 あたし、


 夢をみていただけなの?


 自分で思い描いたはずの世界で、夢に浸っていただけ、なの?



 そんなの……。




 ラギレスとしての人生。


 ミーシャとして生まれたこと。


 レイア……ノワ……。


 嫌、全部、ゆめ? VRの中の出来事だったっていうの? いや、いやー!



「大丈夫!? アリシア!」


 ハクアのそんな声が聞こえたきがするけれど。


 そのまま意識が遠くなっていった。

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