第98話 三度目の転生は猫だった。

 デートリンネと手を繋いであたしは跳んだ。世界の中心へ。


「ごめんなさい。リンネ」


「いいえ。わたくしが必要ならいつでも吸収してください。貴女の為、わたくしは在るのですから」


 真っ白な白亜の神殿。そんなイメージのこの場所。


 あたしの趣味? だったはず。



 中央にしつらえられた椅子に座り、あたしは世界と自分とを接続した。


 この内なる世界。


 いわば、あたし自身の本当のインナースペース。


 今までのあたしはそのうちの一部。


 インナースペースのほんの一部を切り離し、そしてこの内なる世界にあるおはなし世界の一つ、アリシア・ローレンの世界に転生したのだ。

 アリシア、と、して。



 うん。そうだ。


 全て思い出した。



 最初は、ただ、ちょっとした興味、だった。


 人の人生をただただ眺めている事に飽きたあたしは、どうしてもその人生っていうものを体験してみたくなった。


 だから。


 ちょうど良かったのだ。


 幾多の世界を幾多の人生を体験できるVRのある世界。



 アリシアの世界はそんなあたしの希望を叶えるのにうってつけで。



 体験をしている間に迷子になった。


 心が迷子にっておかしいけれど、それがたぶん一番正しい。



 何度も何度も人生をやり直している間に、すべてを忘れて。


 あるきっかけで今の人生が現実じゃないと気がついてしまったあたしは、その世界からズレてしまったのだ。



 そして。


 途中までの遥香の記憶だけを持って、ラギレスとして生まれ変わった。


 流石に円環には吸収されなかったあたしはその規格外のインナースペースを持ったままラギレスとして生き。


 規格外ゆえに悲しい思いもし。


 世界を救う為だと自分を偽って、死んだのだ。


 自分の命を全てマナに変換して。



 あの時だって、他に方法があった筈で。


 きっと生きることに疲れきっしまったあたしが自身の死を望んでしまったのだろう。


 だから死んだ。


 生命としては完全に。





 そして。


 三度目の転生は猫だった。


 ミーシャとして生まれ変わったあたし。



 デートリンネはここで完全にあたしのことを見失ったのだという。



 ノワと一緒に魔界に行った時、そこに残していた彼女の残留思念がやっとあたしをキャッチしたのだと言うことで。




 デートリンネはデートリンネで、数多の世界あたしの関連する世界に入り込みあたしを探していたのだという。


 多重存在をあちらにもこちらにも置き、あたしが来るのを待って。


 苦労かけたんだね。


 ほんとにごめん。


 あたしはそうリンネに謝って。





 そうそう。


 あたしには元々名前なんて無かった。


 人のようにあたしに名前をつけてくれる存在は居なくって。



 だから、あたしはレイアに執着しているのかもしれないな。


 あたしに、ミーシャって名前をつけてくれたあの子に。

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