第99話 事象の特異点。

 ただただまあるい存在だったあたし。


 ああ。なんだかあたし、混じってる?


 自分の中にミーシャやラギレスが混じってる気がする。


 それはそれで、ほんわかと嬉しい。




 嬉しくないのはあれ。


 ちょっと浸食してきてる? 気持ち悪い。


「初めてのアクセスでしたから……」


 うん。勝手がわからなかったよね。ごめんね。


 ここの世界の子達には外の世界はわからない。


 外にあるのが一体どんな世界なのかも知らないのだ。


 それは無理ってものかな。




 イメージは海岸。


 海と空が分かれているのかつながっているのかわからないような、そんなグラデーションの世界。


 あたしはそこにポッカリ浮かんでる。


 ただただまあるく。


 まるで太陽か月のようにまあるく海と空の間に在る、そんなイメージで。


 そんな地上のイメージで語ってはみたものの、別に地上があるわけでもない。空だってそう。光だって、存在はしていない。


 ただ、お外ってどんな所なのですか?


 そう昔々リンネに聞かれた時にあたしがイメージした姿でしかないのだけどね。



 外にはあたしみたいなものは何も無かった。


 少なくとも以前には無かった。


 だけど、これは……。



 浸食してきているのはある種の「場」ではあった。


 どこか「魔」にも似た。


 それよりももっとエネルギー値の低い、「場」


 まるで、「ゼロ」だ。



 泡のように産まれる空間世界、brane。そのbraneが生まれる時にその中心に存在する「場」、それが、「ゼロ」だ。


 あたしの内なる世界を埋め尽くすマナ。そのマナに包まれるbraneの表面ではエネルギーのバランスがちょうど保たれ、物質が絶えず誕生しては消えている。

 そもそもbraneの歪みが重力として物質として観測されているに過ぎないのであるから、って。こんな話は聞きたくないよね?


 ようするにそのエネルギーがゼロである場、真のエネルギー値ゼロの状態を保っている場の事だ。



 そんな、「ゼロ」に酷似した「場」が、このあたしの内なる世界の中心に浸食してきているものの正体だった。




 どうしよか。


 切り離して消滅させるのはそれほど難しくは無いかもしれない。


 でも。


 これがどうやってここに入り込んだのか。


 あたしがいない間にもしこれがもっとたくさん増えていたら。


 ここはあらゆるマナが一点に吸収され逃げ出せなくなる状態、事象の特異点になりかねないところだったかもしれなくて。



 ちょっと不味かったかも。だよね。

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