いざリウキウへ!
『改めまして皆さん、おはようございま~す!』
ステージの上に立ったパークガイドのミライさんが、拡声器越しにそう挨拶をした。
「「「おはようございま~す!」」」
それの返事として、参加者の皆さんとそのペアのフレンズたちが挨拶を返していく。
「おはようでち!」
右手を高らかに挙げて元気にそう言ったジョフさんは、やはり可愛い。何度でも言うけど、可愛い。ここからじゃ後ろ姿しか見えないけれど、多分笑顔なんだろうなぁ、と想像を膨らませてみたり。
『はい、ありがとうございます! 昨晩も言いましたが、皆さん今回は、当ジャパリパークの旅企画にご応募頂きありがとうございます。この旅では、皆さんが希望なされたフレンズさんと共に、私ミライの案内の元、パークやフレンズさんに触れて頂き、パークを知って貰おう、と言う企画となっております。では、私からの挨拶は一旦……ここまでとしまして、今回の企画の主催者であり園長の継月さんに旅のプランを説明して頂きましょう! お願いしまーす!』
ミライさんがそう挨拶を終え、ステージ脇から登ってきた継月さんに場所を譲る。
継月さんはその手に持ったマイクを口に近づけると、少し苦笑いをした。
『……主催者ってどっちかって言うとこの話持ってきたミライさんじゃないかと思うんだけどなぁ……』
あ、企画自体はミライさん主導なんですね……。
『まぁいいや。改めて皆さん、おはようございます』
さっきと同じように、挨拶の返事が返っていく。
ジョフさんはさっきよりテンション高めで、小さくぴょんぴょんと背伸びもしながら元気に挨拶を返していた。後ろからでも目が輝いているのが分かるくらいのテンションである。可愛い。
『……ご丁寧にどうも。えー、ご紹介に上がりました、今回ミライさんと共にこのツアーを企画させて頂き、皆さんと旅を共にさせて頂きます、継月です。どうぞ宜しく。まぁ園長といっても、まだオープン前なので、仮のという状態なんですけどもね。えー今回はですね……──』
継月さんは、このツアーの裏話を織り交ぜながら、主なプランとスケジュールを淡々と説明していく。五泊六日って結構長いよね。
『──では皆さん、是非フレンズのみんなとの楽しいひと時をお過ごしください。以上で、私からの挨拶とさせて頂きます』
『はい、ありがとうございました。それでは最後に、現在は主にこのキョウシュウエリアの守護を務めておられますスザクさんからのご挨拶で終わりたいと思います。スザクさーん、お願いしまーす!』
ミライさんはそう言うと、ステージ脇に目線をやる。……が、その後にすぐ何かを探してきょろきょろと周りを見渡した。
『あれっ? スザクさーん?』
そう言いながら右往左往するミライさん。……というのも束の間、ステージの上の空から、ばさばさと羽音を響かせながらゆっくりと降下、そして着地した赤い鳥のフレンズ。
優雅な動きでマイクを手に取ると、目をゆっくりと開けて、
『皆のもの、待たせたの』
と決め台詞を口走った。
『目立ちたがり屋かっ! 普通にそこから上がってくればいいじゃん!』
ステージ横を指さしながら、息を荒げて諭す継月さん。
『いやぁこれでも守護けものじゃし〜、一度ちょっとそれっぽい登場をしてみたくての?』
一気にゆるくなった……。
『お茶目かっ! もう……、余計な事しないでいいから早く皆に挨拶してよ』
口角を上げながら、すこし笑いの混じった声でそう促した継月さんは、後ろ歩きでステージ脇に下がっていく。
『むぅ……今日はつれないのぅ。いつもならもう少しはのってくれるというのに……』
守護けもの? って結構偉い存在じゃなかったっけ……? スザクさんだけだと思うけれど、すっごいゆるいのね、色々……。
『とまぁ継月に怒られてもうたし、茶番はここまでとしておいて……皆のもの、よくぞこのジャパリパークに来てくれたのぅ、歓迎するぞ。我こそは、ジャパリパーク南方守護者のスザクじゃ。昨日ミライからも話されたと思うが、このジャパリパークでは、皆がパークの外にある「どうぶつえん」とやらで見慣れた動物のフレンズやまだ見たことのない、知らない、そして本来触れ合うことすら不可能な筈の動物のフレンズもおる。是非とも、そんなフレンズ達と心通わせ、良き楽しい思い出を作ってくれたら幸いじゃ』
と笑顔で挨拶の言葉を口に出していたスザクさんは、なにやらその表情を崩して一転、険しい顔をして、続ける。
『……とはいえ、自然やフレンズを無闇に傷付けるような粗相はするでないぞ。お主らなら大丈夫だとは思うがのぅ。昨晩も、フレンズを連れ去ろうと考えると不届きな輩が忍び込んでおったからの』
あー、やっぱりいるんだ。密猟者的な人たち。
全世界の動物の保護管理を目標に掲げているジャパリパークは現代でいうノアの箱舟的存在で、敷地面積と管理下にある動植物の展示数ももちろん世界一。普通に生息している動物ならまだしも、絶滅種までいるとなれば格好の標的だよね。普通の動植物園と違って街中じゃなく海の上の島だし。
まあでも、ちゃんとそこら辺は対策取られているって聞いたことがある。なんか専門の組織があるらしい。すごい。
と、長々と想像を膨らませていた矢先、とん、と背中を軽く押された。顔だけ振り返ってみると、そこには涙目のジョフさんが私の胴に腕を回してしがみついていた。
……もしかして、さっきのスザクさんの内容が怖かった? 確かに狙われる側としたらとんでもない話だってことは分かるけど……これほどとは……感受性高すぎません……?
『まぁとはいえ、そやつらは早朝に我等が全員捕まえてきっちりとっちめておいたからのう。今頃は本土でお灸を据えられておろう。このパークにはもうおらぬだろうから、皆安心して旅を楽しんでくれ』
私は悶々と考えを巡らせていた最中にも、スザクさんの話は続いていたらしい。普通に聞き逃してた。おうふ。
スザクさんが『不届き者は発見次第ボコボコにする』的なことを言った途端に、ジョフさんのしがみつきが少し緩くなった気がした。
『それでは、良い旅をの! 我からは以上じゃ!』
そう締めたスザクさんはステージから降りていく。入れ替わりにミライさんがステージに上がって司会を続ける。
『……はい、ありがとうございましたー』
とてつもない苦笑いである。
『それではですね、今から日の出港へ移動しま〜す』
ミライさんはそう言うと、ステージ裏から出てきたネコ科のフレンズと……フクロウ? のフレンズにマイクを託し、ステージを降りて私たちを先導する位置につく。どこからともなく手持ち旗を取り出して、高くそれをはためかせると、
「それでは皆さん、ついてきてくださいね〜」
慣れた手つきと掛け声で、みんなを誘導していく。
継月さんがペアのペンギン……えっと、確か日本ではだいぶメジャーなフンボルトペンギン……のフルルさんだ。二人は一緒にミライさんの後ろに続く。
それを皮切りにして、みんなはペアのフレンズと一緒に歩き始める。
私も歩き出そうとジョフさんの方へ視線を向けると、いつの間にか、ジョフさんは背中から離れて私の右腕を抱きしめてくっついていた。
どうやらさっきの話がまだ抜けきってないみたい。
そんなジョフさんの頭を、ぽんと優しく撫でてから、ゆっくりと私たちは歩き出した。
日の出港。名前の通り、日の出を拝める西側沿岸に設けられた港に横付けされた一隻の船。クルーザーとは聞いてきたけれど、想像以上に大きかった。定員二十五人らしい。ひええ。
座席についた私たちは、船の出航を待つ。運転席には一体のラッキービーストが鎮座していた。あれがAI界隈で噂のLBシステムの端末ですか……。自動運転もこなせるんだねすごい……。
「それでは皆さん準備はいいですか! ジャパリパーク一周の旅に、レッツ」
「「「ゴー!」」」
「でち!」
特徴的な語尾を隣で聞いた私は、窓の外を見つめて、旅の始め特有の高揚感に浸っていた。
……ただ、複数人で行く旅はとても久々で、特に──。
「おー……!」
夢中で外を見続ける小さな子を膝の上に乗せての始まりは、ちょっと想像がつかなかったかな。
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