カクヨムユーザージャパリパーク旅行記・風庭雪衣視点
風庭 雪衣
旅立ちの集い
出発当日の朝、午前七時半ごろ。
ジャパリパークの最西端に位置するキョウシュウエリアは遊園地。
そこには、今回のパーク一週旅行に参加するヒトとフレンズが集まっていた。
街中では感じることがあまりできない、自然の中特有の心地よい朝の空気に触れ、私は大きく深呼吸をした。うん、懐かしい匂い。
郷愁を感じながら周りを見渡すと、ステージ近くにはこの企画の発案者である継月さん。その隣にはパークガイドのミライさん。それと、名前はわからないけれどペンギンのフレンズと、鳥? のフレンズ。四人が何やら話し合いをしていた。関係者同士の話し合いってやつかな。
あと遊園地の広場付近に散らばる感じで、今回の旅行参加者であるペロさんとキタキツネさん。平城山松前さんとアードウルフさん。タコ君さんとコウテイペンギンさん。けもさんとサーバルさん。あんかけさんとオオミチバシリことG・ロードランナーさんが既にコミュニケーションを取り始めていた。みんなはやい。
今取られているこの時間は、先ほどアナウンスされた通り『今回一緒に行動するフレンズさんとコミュニケーションを取りましょう』というもの。
私が一緒に行動する予定のフレンズは……書類を見ると『ジョフロイネコ』と書かれている。
書類に書かれた事項を確認していると、正面から軽い足音が聞こえてきた。レンガ特有のコツコツとした音とともに私の前に現れたのは、黄色と茶色を基調とした猫目の少女──いや、フレンズだった。私より頭一つ小さい。
「お、おはようなのでち!」
少し緊張を感じる挨拶をかけてきたのは、紛れもない、正真正銘のジョフロイネコさんだった。書類の顔写真とも完璧に一致。私のカワイイセンサーも思いっきり反応している。
「おはようございます、ジョフロイネコさん。私がペアの
この場にありえないほど合わない丁寧な挨拶をしてしまった。実を言ってしまえば私も緊張している。だって、ねぇ。言葉にできないのがもどかしいくらいの複雑な気持ちです。
ばっちり四十五度のお辞儀を癖でやってしまった私は動揺しながら顔を上げた。驚かれてないかな……。
「ジョフはジョフロイネコでち! 気軽に『ジョフ』って呼ぶでち!」
ジョフさんは腕を組んで自慢げに自己紹介をしてくれた。ありがたく呼び方まで。
どうやら、さっきの挨拶は好印象だったみたいだ。よかった。
「ジョフは大人でちから、ど~んと頼っていいでち!」
やっぱり書類通り『子供扱いは×』らしい。
「よろしくでち、ゆいたん!」
なっ、たん付け、だとっ……⁉
これは予想してなかった。書類にも書いてない。上目遣いも相まって愛らしさが溢れ出ている。かわいい、かわいすぎる。やばい。
「あっばっ、よ、よろしくお願いします。ジョフさん」
なんとか冷静を取り戻した私は、しどろもどろながらもなんとか会話を繋げられた。初対面から印象最悪は絶対ダメだって面接練習で教わったもんね。よしよし。
一通りの挨拶を終えた私とジョフさんは、当然その場に立ち尽くす。私も会話を振るのはあまり得意ではないから、こうなるとなかなか難しい。
手に持っていた書類をバッグに仕舞った私は、ジョフさんと再度目を合わせた。
ジョフさんはさっきからずっとこちらを観察するように見つめ続けており、たまに首を傾げたりしている。うん、かわいい。こうなると、やっぱり──。
「……でちっ⁉」
頭を撫でたくなるよね。うん。なでなで。
撫で始めた途端に、ジョフさんは顔を俯かせてしばらく私の手に身を任せた後…………突然ハッと思い出したかのように勢いよく顔を上げて叫んだ。
「あっ、頭なでなでするなでち~‼」
「わっごめんなさいぃぃ!」
反射的に謝ってしまった。
さっと避けた手の向こうには、顔を赤らめて頬を膨らませたジョフさんが、柳眉を逆立てている。怒り顔も可愛すぎる。
「……ここではジョフの方がお姉ちゃんでち。だから、なでなでするのはジョフの方なんでち」
と、冷静な言葉使いでそう言ったジョフさんは、つま先立ちで手をまっすぐ上げた。けれど、私の頭には届いていない。もうちょっとというところだ。おしい。
なんとか状況を察した私は、その場にしゃがんで少し俯く形でジョフさんに頭を向けた。すると、
柔らかくて優しい、それでいて撫で慣れていない少々の雑さが感じられる手の感触が伝わってきた。
子供の手のような、小さくて暖かいあの感じ。
どんな顔をして撫でているのかは見えないけれど、十分想像で補うことができるほど、たっぷりの感情が手から伝わってくる。
あっ、これだめだ。かわいい、かわいすぎる。というかもうとうとい。カワイイセンサーこわれた。あっおわった。私の旅行はここで終わりですオイナリサマ──
「ゆいたん⁉ どうしたでちか⁉」
ジャパリパークに伝わる神様の名前を唱えた昇天寸前の私を、素早く察知したジョフさんは肩を揺すってなんとか引き留める。
……こんな子と一緒に行動するなんて、これから一体どうなるんだろう。予想できなさすぎる。
『あーあー。マイクチェック、ワンツー。参加者の皆さーん! そろそろ出発のお時間ですので、ステージ前への集合をお願いしまーす!』
遊園地全体に、拡声器を通って広がるミライさんの声が響き渡った。
それを聞いたジョフさんは、ステージの方を見て、
「呼んでるでち! さ、行くでち!」
しゃがみ込んでいた私の手を取ったジョフさんは、ステージに向かって駆け始めた。
私はそれに引っ張られる形でジョフさんに続く。
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