ぼくのペットはネコマタのマタヲです。

竹神チエ

本編

第一話 人生最大の苦難

「じゃあ、また明日な」

「うん、バンバイ」

 いつもの十字路。ぼくはカズヤに手を振り、彼が角を曲がって見えなくなるのを待った。

「……はあ、よし」

 あたりを見回す。電信柱のかげ、ブロック塀の上。屋根や電線も確認。

 最後に足下と背後も確かめた。

「今日はいないみたいだな」

 ぼくはほっと胸をなでおろした。


 小学五年生になったばかりのぼくは、人生最大の苦難に襲われている。

 始業式が終わり、新しいクラス、新しい担任の先生になったとき、ぼくは自分が幸せいっぱいの小学生だと思っていた。

 親友のカズヤとは同じクラスになったし、学校一かわいい女子、白浜ユメは、ぼくのとなりの席だ。担任も若くて人気のある青山ミク先生で、家ではおこづかいがアップした。

 そんなぼくの幸せいっぱいな日々も、あいつのせいで絶望へと急降下だ。

 あいつとは、マタヲのことだ。

 見た目は白黒のハチワレ猫で、モフモフの長い毛。短足ぎみで、ドスドスと歩く姿は、ちょっとだけタヌキに似ている。

 マタヲの正体は妖怪ネコマタだ。

 元々は、ぼくのご先祖さまが飼っていた普通のハチワレ猫だったらしいけど、長生きして妖怪ネコマタになったそうで、尻尾が二又にわかれている。

 長い長い修行の末、マタヲはネコマタ協会正会員となって、

「いやいや、よろしく頼んます。ぼく、マタヲと申しまして、今後は、トモキくんといっしょに暮らすことになりましてん」

 と、勝手にぼくの家に住みついた。

 マタヲはビンに入った不思議な花を大切にしている。『ダチダチの花』というらしい。まだ花は咲いておらず、つぼみの状態だ。

「この花が見事に咲いたとき、ぼくはネコマタとしてランクアップすんねん」

 マタヲはそう誇らしげに話していた。

『ダチダチの花』は、パートナーの人間とのあいだに、「燃え盛る友情パワーが、超絶極まる」と開花するそうで、マタヲはぼくに、

「トモキくん、いっしょに花を咲かせましょう!」

 と、黄色の目をピカピカと輝かせていた。

 ぼくは知らない間にマタヲのパートナーになっていた。

 契約した記憶はない。

 マタヲはぼくのご先祖さまに「言葉にできないほど世話になった」そうだが、それはそれ、これはこれ。ぼくはぼくで、先祖は先祖である。

 それなのにマタヲは、

「あのご恩はいつか返さないかんと思っとったの。そいつがいまやで!」

 そう、メラメラと燃えている。

 迷惑である。ものすごく、迷惑だ。

 ぼくは、この妖怪猫にいますぐ出て行ってもらいたかった。

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