6章 闇をも飲み込む欲望
「その頃の私は不安定で、記憶があいまいだったり、気づいたら別の場所にいるなんてこともよくありました。」
「それはこの前ミナが言っていた暴走だな。」
「はい、後で私も知ったけど、私には神代家を終わらせる役目があったみたいで、本当はもっと獣のように暴走していたはずだったのです。おそらく私はお姉ちゃんの光に導かれたおかげで私を見失わなかったんだと思います。そして問題はお姉ちゃんがいなくなった後です。」
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「お姉ちゃん、どこですか~。」
お姉ちゃんがどこを探してもいなくて困った。昔、お姉ちゃんに会いに来たっていう怪しい人が言っていたことを思い出した。
“君は…そうか。今から言うことをよく覚えておくんだ。後に君の助けになるだろう。ふぅ…。汝は闇に産まれし者、悪意を飲み込むだろう。辿る道は光か闇か、決めるのは汝の欲望だ。その欲、すべてを飲むだろう。汝の渇きを潤すように、汝の欲のままに動くがよい。”
私には意味が分からなかったけど、お姉ちゃんがいなくなったのはあの人のせいに違いない。あんな変な帽子で顔を隠していたから不審者なんだ。私は最後に来ちゃいけないと何度も言われた教会の方へ行った。そこにはお父さんとあのへんな人を殺しているお兄ちゃんがいた。お兄ちゃんはお姉ちゃんを抱えていた。私はただ見ているしかなかった。そして、倒れていた謎の言葉の人が消えていったあと、お兄ちゃんはお姉ちゃんを抱えたままどこかへ去ろうとしていた。待って、と言って追いかけようとした瞬間、お父さんにまだ意識があることに気づいた。そしてお父さんは笑いながらお兄ちゃんたちに銃口を向けている。それを見た瞬間、意識が堕ちた。
あれからどれくらい経っただろう。長いこと放心状態だったのだろうか。私はお父さんだったナニカを後にお父さんが持っていたカギが使えるだろう地下書庫へ向かった。そこには大量の書物がある。しかし、その部屋の中にもう一つ扉があるのだ。この鍵はちゃんと鍵穴に合ってくれた。そして扉を開けるとそこには真っ暗な空間があった。その中にたった一つだけ本が置かれていた。それはなんでも願いを叶える悪魔の本だった。そこに書かれている悪魔の召喚方法はいたって単純で魔法陣を描き円周の五角に対応した左右手足の血を一滴ずつ、そして中央にはお腹の血が数滴で呼べる。私はすぐにそれを実行した。
“願いを言え”
そう聞こえた。私は精一杯の想いでそれを言った。
「お姉ちゃんの愛が欲しい。もっとお姉ちゃんに愛されたい!」
その瞬間、私の右手がはじけ飛んだ。
「えっ…。」
呆然としている私にその声は答えた。
“お前には他のつながりが見えない。代償はお前だ。しかし、お前の願いは我と同じになりつつある。”
その後、私に何かが入ってくる感じがして、私の口でその何かが答えた。
「安心しろ。お前の願いと共に私の願いを叶えるものとして私がこの体を利用してやる。」
私の願いは…いや、違う。私は愛されたいんじゃない、私が…私だけが愛されたいんだ!
「なんだ、この力は…。まさか…。」
「あなたが愛される必要はない。私だけがお姉さまの愛を独り占めしたいんだ。だから、あなたが…“私の願いの犠牲になって…!”」
そしてあの悪魔の力を取り込んだ私はそれを制御するために地獄へ行くことにした。その通り道に死者が溢れている商店街がある。その外れに死者にしては希望が尽きていない少女が出している花屋があった。その少女は私に話しかけた。
「あれ、あなたもまだ死んでいないのですか。」
「は、はい。」
「ということはまだ何か未練が残っているのではないですか。」
「はい、私はいなくなってしまった姉に私だけを愛して欲しいんです。」
「それは立派な想いですね。…実は私は記憶喪失で、あまりはっきりとは思い出せないのですが誰かと逢うって約束したような気がするのです。顔も名前も何も思い出せないけど、この彼岸花はその人が好きだった気がする。これは再会の花…一つあなたにあげます。あなたはお姉さんに会えるといいですね。」
「…ありがとう。あなたもその人に会えるといいですね。」
「お互いに頑張りましょうね。想いが強ければ死すらも乗り越えられます。その想いを絶対に無くさないでくださいね。それは真っ暗なあなたの心を導くたった一つのかがり火だから。」
私はその彼岸花を懐にしまい、その言葉を胸にしまい、お姉ちゃんに会うための力を手にするためにさらに深い地獄へ向かった。あの人はすごくいい人だったな、あの時の変な人とは大違いだ。私はどんな罪を犯してでもお姉ちゃんに会いたい。たとえ私が人でなくなっても、私だけを愛してね、お姉ちゃん。
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