5章 破壊衝動
あれは確かに見間違いなんかじゃなかった。あれは私が求めたすべて。私の頑張りは無駄なんかじゃなかった。姉さまにまた愛されたい。そのために全て黒く染まってしまった。もっと、力を…姉さまの愛を独り占めできるほど強く。しかし、見られてしまった。黒く染まってしまった私を。これでは避けられてしまう。…そうだ。もっと強い力を集めて姉さま自体を独り占めしてしまえばいい。
こうして今日も私は狩りへ向かう。目的は定まった。いつもよりも努力して早く姉さまに愛されるために。
今日もたくさんの血肉を食らった。私の中には今まで手なずけたたくさんの魔物や魔獣を飼っている。そして、私の体として、夢への手段として一緒に歩んでいる。しかし、力を食らうたびに私も獣の本能に染まりそうなくらい私を徐々に染めている。だから、早く姉さまの愛が欲しい。狂ってしまう前に、私が私である時に。
あれから細心の注意を払いつつ狩りをするようになった。最近では、たまにこの世のものではない力が突然現れることがある。あの時の少女もそうだ。…そうか、この力のもとへ行けば姉さまに会える。あれ?私っていつからお姉ちゃんのことをお姉さまって呼ぶようになったっけ?その時、強い二つの力を感じた。考え込むのを止め、私はすぐさまそこへ向かった。
そこには、どこかで見たことがある人と黒い人がいた。その人は言った。
「やぁ、久しぶりだね。君のお姉ちゃんとお兄ちゃんにお世話になってたミロクっていう僧だ。覚えてるかい?」
そうだ。この人はお姉ちゃんがいなくなる前によくお姉ちゃんと会っていた人だ。この人のせいでお姉ちゃんは…
「あなたのセいでお姉ちゃん…ハ…。絶対にユルサナイ。」
私は魔獣の爪で彼女を引き裂こうとした。その時、隣の黒い人がそれを阻止した。そして質問してきた。
「お前はなぜ破壊をする。」
「そんなの…あれ?どうしテ、なニか忘レて…なんだっケ?」
分からない。もう私は私ではなくなっていく。行き場を無くした私を私の中の闇が飲み込んでいく。
「…ミロク…悪いがワタシは作戦を降りる。コレはワタシの破壊対象だ。」
ヤミは歩みだした。ミロクは思った、これは大変なことになったと。しかし彼女にはどうしようもなかった。アレを…本気の破壊神を止める力なんてありはしないからだ。そして激しい戦いが始まった。もとから激しい戦いを想定していたミロクは事前にかなり強力な結界を張っていた。こういう形としては想定していなかったが、ヤミが本気を出すことは分かっていた。しかし、このままでは末離ちゃんの体も心も取り返しのつかないことになる。早くしてくれ、未無、今度はお前が手を打つ番だ。
思ったより戦いは長引いた。神であるヤミには見られないが、末離は明らかに衰弱しきっている。これも呪われた定めなのか、はたまた…。私は尽きる覚悟でヤミの前に出た。
「もうやめたらどうだ、ヤミ。明らかに彼女に戦う力はない。」
「どけ、言っただろう?彼女は衝動に呑まれている。ワタシは破壊神だが、破壊の衝動に呑まれたものは絶対の破壊対象だ。何かを失う前にワタシが破壊せねば…」
ヤミは岩をとても鋭利なものに変形させ飛ばした。それは私をかわし末離へ向かう。
「しまった…」
「もう終わりだ。」
その時、末離を光が包み込み護った。そしてヤミを光が穿つ。
「やっとか…しかし、私が見たより早いな。…おかえり、我が…いや、私の唯一の理解者。」
そう、そこにいたのはかつての聖女と神託者だった。
私は真っ暗な空間にいた。もう私が何のためにいたか、それすら分からない。いや、分かっていた。私が求めたものは過去にしかない。もう手に入らないことなんて。でも、そうでなければ早々に自分を見失っていた。もう終わりなんだ。あれが別人でも良かった。最後に一目見れただけで。その時に真っ暗な空間に光が射し込んだ。懐かしい光だった。
「どうだ?久々の2人は…。まぁ、せっかくの再会を私が邪魔しちゃ悪いか。ところでヤミ、何か申し開きでもあるか?」
「ないよ。まったく手荒いな。」
「姉さん、大丈夫か?どこか不具合でもあるか?」
「ううん、大丈夫。未無、あなたが私のことを思って、この体や私を守っていてくれたおかげだよ。それより、未無の体の方が心配だよ。」
「わた…俺のことなんていいんだ。まったく口調まで移りかけたよ。」
その時、気絶していた末離が目を覚ました。
「お姉ちゃん…なの?」
「うん。ずっと私のことを追いかけてくれたんだね。ありがとう。でも、悪魔の力に手を付けたことは後でお説教とお祓いだからね。」
「…大丈夫、お祓いは。だってこの子たちと離れたくないもん。今みたいに私を危ない形だとしても守ってくれたし、何よりお姉ちゃんがいない孤独感を埋めてくれたから。…本当に会いたかったよう、お姉ちゃん。」
「よしよし、もう大丈夫だからね。」
そこへミロクに抱えられたヤミが来て質問する。
「ではもう一度聞く。お前は何のために破壊をする。」
「お姉ちゃんに会うためだった。だけど、今度はお姉ちゃんを護るため。」
「…ふぅ、大正解だ。破壊することは悪いことではない、その目的がどんなことであれだ。しかし、それに意味や目的がなければ破壊衝動に呑まれていることになる。それはワタシが思うに最も悪い破壊だ。」
傷ついたヤミと末離は虚無邸の研究室へと運ばれた。そして療養室の中で末無と末離の歓迎会が行われた。エクスバースが言った。
「全く驚いたよ。まさか末離の力に虚無の力が紛れ込んでいたなんて。」
エクルと有間が答える。
「“孤独に満ちた女神は再会のため、自らの力を正と負に隔て、感情を種にした。”そう、負の力は私とエクリールさんで封印した。」
「それが呪いの悪魔書となって神代家に伝わった。うすうす気づいていたがエクルとエクリールは俺や未離より前にも存在していた。そうだろ?」
「正解です、お兄様。負の力や負の感情は再会には必要ない、だから私とエクリールさんはもとより自由が与えられていた。しかし、負の力は必要なかった。だから、どこかに別の神として存在しているお兄様を探すため、現世にその力を横流しにしたのです。それがこのような結果になってしまうなんて…皆様本当にごめんなさい!本当にどう償えば…」
「こら、また悪い癖出てるぞ。まぁ、それでみんな苦労してきたのは分かる。でも、そんなきっかけがなければこんな幸せな生活はなかったと俺は思うぞ。」
「お兄様…えへへ。」
そこでエクスバースが末離に話を切り出す。
「それで末離はどうしてこんな力を得たんだ?未無の話だと前兆はあったが、ここまでの力は出ないと思うのだが。」
「それは…」
「大丈夫だ、ここに記憶や過去を写す機械がある。悪い癖でな、気になってしょうがないんだ。」
「はい、それは…周りのみんなの雰囲気が変わった頃でした…」
そして画面にはこの前のミナの記憶と同じ教会が映し出された。
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