2章 最悪の再会

異形の右手のパンチを食らったときに確かにある。痛みが…おかしい。私は虚無の力を持っているからどんな戦いにおいても相手が虚無の力か創造の力がないとダメージはないはず。それに彼女からはどちらの力も感じられない。彼女は不敵に笑うだけ。今の私には助けてくれる人はいない。少し試してみたが、相愛の糸も束縛の鎖も効かなかった。これじゃ虚無の瞳も効かないかな。

その時、お兄ちゃんとエクスバースちゃんが言っていたことを思い出した。お兄ちゃんは“行動を起こすことは簡単って思いがちだが人は行動を起こせないんだ。それはとても勇気がいる。未離、もしお前が行動できるならしたほうがいい。何かに後悔する前にな。”って教えてくれた。エクスバースちゃんは“そうだな、決めつけるのは楽観的な行動じゃない。どちらかというなら逃げの行動だな。何かから怯えて逃げる、幸せを失いたくないから逃げる。そういう考えに基づいて決めつけなんて考えに至る。楽観的っていうのはさ、その行動一つ一つに対しての最適化なんだ。確かに逃げも一つの行動だ。まあ、それが最適なんて私は言わないがな。”って言ってエクステラちゃんとエクルちゃんに怒られてたっけ。まあ、試してみるしかないよね、あの暴走の時から怖くて使ってなかったけど…行動するしかないよね。私はあの時のように右手で左目を隠した。もう私は虚無にとらわれない。その意思が虚無の瞳に振り回されないための…すべてを虚無にいざなう最凶の存在として在るためのただ一つの道標になる。

私はあの最凶の姿で戦った。でも今は負けている。私には外傷はない。でも、確かな痛みはある。

「あぁ、やっぱりつまんないや。でも、あなたには私が会いたい人に近づくために必要な分の力を感じる。だから絶対に何があってもあなたを食べるヨ。それじゃ…」

そう言い彼女は右手を変形させ大きな口が現れ私を飲み込もうとした。

“ごめんなさい、お兄ちゃん、未愛…私はもう…”

その時、誰かが私を助けた。

「大丈夫か!」

薄れゆく意識の中そんな声を聴いた気がした。



“フフッ、やっとやっとお兄ちゃんとお姉ちゃんに会える力が手に入る。”

そう思うだけで気分がよい。私はこのためにすべてを代償にささげてきた。

その時、誰かに私の最高のエサを取られた。普段ならば気づかれた時点で認識されないように逃げるのだが、このエサだけは誰にも渡さない。私はすぐさま戦闘態勢に入った。

「誰?私の最高のエサを横取りしたハイエナは…」

その姿を見たとき私は焦った。

「そんな…まさか…」

もうこの際最高のエサなんてどうでもいい。私はとっさに逃げ、あの時とどまった私を恨んだ。



「俺たちはいつから間違えちまったんだろうな。」

一人で教会を後にしながら私に問いかける。

「別に俺は姉さんたちを救いたかっただけなんだ。もう生まれた時から救いなんてなかったんだろうな。俺たちみんなあいつの糧として生まれてきたんだ。その時点で間違えたのかな?なぁ、姉さん…」

問いかけても返答なんてあるわけない。そう思っていると強い力を感じた。そしてそこへ駆けつけた。そこには倒れた未離とその未離を食べようとしている少女を見つけた。すぐさま未離を助け出した。

「大丈夫か!」

未離に問いかける。

「そんな…まさか…」

逃げ行く少女には見覚えがあるなんてものじゃない…そう、あれは俺たちが危険から遠ざけようとした結果孤独にしてしまった、悪魔の使いと言われたとても繊細な少女…俺は少し戸惑ったがすぐに未離を虚無空間へと運んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る