常に迷える子羊なわけではありません
結局、三人で荷物を等分に持ち、お好み焼きを食べて帰った。
帰りの時間は決まっていなかったので、倫太郎たちはまだ席をとっておらず、壱花も一緒に三人で乗ることになった。
動き出した新幹線から景色を少し眺めたあと、
「それにしても、美味しかったですね~、お好み焼き」
と壱花が言うと、冨樫が、
「今日は一日、お前の美味しかったを聞いていたような気がするな」
と言う。
満足な一日だったろう、という嫌味が込められているようだった。
ええまあ、確かに。
見知らぬホテルで目覚めたときにはどうしようかと思いましたけどね、と思う壱花の左横で、倫太郎が呟く。
「お好み焼きか。
お好み焼きのある駄菓子屋もあるよな」
「やる気ですか? 社長」
と壱花は笑う。
しかし、あの狭い店でお好み焼きを焼いたら、店内すべてがあの強烈な匂いに汚染されそうな気がするが……と思ったとき、右隣の冨樫が倫太郎に訊いていた。
「駄菓子屋って、お好み焼き出すところもあるんですか。
もんじゃがあるところは見ますけど」
「えっ?
冨樫さん、普段、駄菓子屋とか行くんですか?」
とちょっと驚き訊いたが、
「いや、子どもの頃、覗いたことはあるが。
当時もそんなには行ってなかったな。
近くのコンビニとかスーパーに駄菓子はあったし」
と言ってくる。
「あー、まあ、そうなりますよねー」
まあ、スーパーとかで買う方が買い物のついでに買えるから便利だけど。
私はやっぱり、昔ながらの駄菓子屋が好きだな、と壱花は思う。
天井や壁から吊るされているあやしげなオモチャやグッズ。
クジ付きオモチャの台紙が変色してたり、うっすらホコリをかぶってたりするのもなんか好きだ。
そんなことを思いながら、
「でも、もんじゃに駄菓子入れると美味しいですけど、お好み焼きだと駄菓子入れても、ソースに駄菓子の味が飲み込まれそうですよね」
と言って笑った。
「もんじゃに駄菓子ね……」
と呟く冨樫に、
「もんじゃはやってないですけど。
冨樫さんも、またぜひ迷い込んできてください」
と笑って言って、
「……どうやって迷い込むんだ。
迷い込まないとたどり着けない店の立地ってどうなんだ」
と散々に突っ込まれる。
冨樫はまだあそこを普通の駄菓子屋だと思っているようだった。
そのとき、身体にぴったりしたスーツ、ウェーブのついた長い髪、という出で立ちの美女が通路を歩いてきた。
なにかが気になるな、と思い、見つめていると、ぼそりと横から倫太郎が言ってきた。
「……あれはキツネだ」
お前もたまにあの面をかけるからわかるようになってきたんだろ、と小声で言う。
そのキツネの美女はこちらに気づいたように足を止めた。
魅力的な微笑みを浮かべ、倫太郎を見る。
「おや、駄菓子屋の店主じゃないか。
また寄らせてもらうよ」
そして、壱花を見て笑って言った。
「お嬢ちゃん、いいねえ。
両手に花で」
通路を入ってきた順に座ったので、窓側から倫太郎、壱花、冨樫の順になっていた。
両手に花か。
確かにな……とキツネが去ったあと、壱花は左右を窺った。
女の私より、この二人の方が花っぽい、というか、華がある。
「そういえば、なんでみんな私を化け化けって呼ぶんですか。
よく考えたら、花花じゃないですか。
花が二個ですよ。
もっと華やかなイメージのあだ名を……」
「喉乾いたな、珈琲でも飲むか」
「そうですね」
というまったく壱花の主張など聞く気のない二人に、話を途中でぶった斬られる。
「……じゃ、珈琲買ってきま~す」
そう言いながら、下っ端の壱花は寂しく立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます