09:Trace×Seeker
男達は例の喫煙スペースの前にいた。
「この辺りですか?」
警備員の1人が男に聞いた。
「ここから1時間くらい歩かされた。複雑な道順で覚えられなかったが……」
「……、手掛かりは何かありませんか?」
男は少し考えこんだ後、ある事を閃いた。
警備員が使うタブレット端末を取出し、現在地の周辺地図を出した。
「この周辺に設置されたカメラの場所と、その向きまで分かりますか?」
「向き、ですか……?ちょっと待って下さい」
1人が自分のタブレットを操作する。
「複雑に歩かされたのは、カメラに映らないようにです。カメラの位置と向きが分かれば、場所の特定が出来る筈」
「なるほど。カメラに映らないルートを検索するプログラムなら、すぐに組めます。監視システムを使った追跡システムを応用すれば……」
1分と掛からずに2人のタブレットからファイルが送られてきた。
男はその2つを駆使し、割り出されたルート上の建物の外観を虱潰しに確認していく。
「1時間程歩くとなると、距離的にこの辺りですかね?」
警備員の1人が指し示した場所周辺を、タブレットを使って道沿いの風景を見る。
あの看板があった。
「ここだ!」
「ここだったら、車で5分もかかりません!行きましょう!」
全員が再び車に乗り込む。
「行ったところで、無駄足かもしれない……」
男がボソリと呟いた。
「弱気にならないでください」
男が手に持っていたタブレットから女の声がした。
「我々は、何も分かっていない現状です。どんな些細な事でも手掛かりになります。無駄などありません」
タブレットを男に渡した眼鏡の警備員の声なのだろう。
「俺がテロリストと接触した事、その事を隠していた事には何も言わないんですね」
「今、それを追求した所で、何の意味もありません。現に、貴方も彼らの計画に関しては何も知らなかった。貴方が出頭して、尋問を受けた所で、今回の件は防げなかったでしょう」
「この件が終わった後、追及される可能性は?」
「多少の追及はあるでしょうが、司法取引という形で不問とする事にします。ただし」
「ただし?」
「その時にルナシティが存続していればの話です」
そうだ、今はルナシティの存亡の危機なのだ。
地球を覆うデブリ帯に穴が開き、地球との行き来が可能になれば、地球から攻撃される可能性もある。
外敵などいなかったこの200年余のお陰で、軍も武装警備隊もデモや暴徒の鎮圧に特化し過ぎてしまった。
武器を持たない市民の鎮圧には慣れていても、武器を持った兵士との戦闘は未経験なのだ。
勝ち目などない。
蹂躙されるのがオチだ。
「着きました!」
運転してた警備員の声を合図に、男達は車から降りる。
そこは確かにあの店だった。
☽
案の定、隠れ家の中はもぬけの殻だった。
人がいた形跡すらほとんどない。
放置された場所にしては埃がないと言う以外、ただの空き家にしか見えない。
「何も残っていませんね……」
「まるで人のいた形跡もない……」
男は煙管の女の部屋へ入る。
やはり、何もない。
「隠れるにはいいが、本当にここにいたんですか?」
「間違いない……。数日前までいた筈だ」
そう言って、男は食堂の方へ歩いて行った。
やはり、
大きなテーブルさえもなくなっている。
「徹底してるな……」
男がボソリと呟く。
他の警備員達はそれぞれが手分けして探すが、何もない。
「あとは、この部屋だけか」
そこは男も入った事のない部屋だった。
ドアを開けると、そこは個人用の部屋よりも少しだけ広かった。
ここには机などの家具が置いてあったのだろう、痕跡も残っている。
「ここには人がいた形跡はありますね……」
警備員達が中に入り、中を捜索する。
「うん?」
男は、壁に不自然な箇所を見つけた。
10㎝四方のプレートが取り外せそうだ。
「これ……」
「開けてみますか」
警備員の1人がナイフを取り出し、プレートを剥ぎ取る。
中には小さな空洞があり、その中には煙管の女が使っていた巻物の様な煙管入れだけがあった。
「なんですか、これ」
男がそれを手に取り、中を開く。
例の煙管一式と、小さな紙が出てきた。
『薬を飲ませたのは私じゃないわ』
表にはそれだけしか書かれていない。
裏返すと、煙草屋の名前と電話番号。
「どういう事ですか?」
警備員達が男の顔を覗き込む。
「……、あ」
男はある事を思い出し、急いで自分の勤める会社に連絡を入れる。
「あ、もしもし!」
「なんだ、お前か」
「先輩!数日前、受付の子が突然変わったのは覚えてますか!?」
「なんだよ、こんな時に!俺も逃げる準備してるところだって!」
「穴が開いたら何処に逃げても同じです!それより、覚えてませんか!?」
「受付の女の子……?ああ!」
先輩も思い出したようだった。
「あの子がどうした?」
「あの子の身元なり何なりが分かる資料って、会社にありませか!?」
「え?人事課に聞けば分かるかもしれないが……。あの子がどうした?」
「あの子が今回の一件に関係しています!俺は今、武装警備員に協力して打開策を探ってる所なんです!」
「はぁ!?と、とりあえず人事課の知り合いに聞いてみる!あの子がテロリストだったって事か?」
「その一味です。おそらく、俺の監視の為にウチの会社に潜り込んだんだと思います」
「お前の監視!?」
「説明はあとでいくらでもしますから!何か分かったら連絡ください!」
「おい!ちょっ」
男は一方的に通話を切る。
「監視が付いていたんですか?」
「尾行まではされていないと思いますが。とにかく一度本部へ戻りましょう」
「手掛かりはなかったですけど、潜伏していたのは確かでした」
男達が塒を出た時だった。
タブレット端末に通信が入る。
「今から言う場所にすぐに向かって」
それは眼鏡の女の声だった。
「そこは、港ですね?」
「恐らく、その港から船を出したんだと思われる。急いで!」
「了解!」
男達を乗せた車が再び走り出した。
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