08: Ideal×Gun

「それじゃ、また戦争になるじゃないか……」

 男はボソリと呟いた。

「俺の事は留置所にぶち込んでくれてもいい!アンタ達は早く本部に戻って戦闘配置につけ!」

 男の剣幕に尻を叩かれた武装警備員達はワタワタをし出した。

「どうしますか!本部に連絡を?」

「本部もこの放送を見てるだろ!それより、現場の俺達はどう動けば!?」

 男を取り押さえていた2人は焦っている。

「落ち着け!とりあえず、この男を車に乗せろ。本部に戻る」

 そう言われた部下は手錠を取り出すが、焦り過ぎて床に落とす始末だ。

「手錠は後で良いでしょ!暴れる気もない!それより早く車に!」

 男が立ち上がり、警備員に檄を飛ばす。

「うむ、とにかく車に乗れ!」

 そうして、男達4人は武装警備員用の車に乗り込んだ。

「とあるコロニーってのは、恐らくこのコロニーの事でしょうね」

 後部座席の真ん中に乗せられた男が喋る。

「宙域戦闘が可能な船舶はありますか?」

「そんなものは我々にも軍にもない。例の戦争以降、散発的に小規模なテロはあったが、大規模な戦闘は起きていない。宙域戦闘など想定外だ。全て戦後すぐに処分されている」

「武装換装できそうなものも?」

「まず、宙域で使用できる兵器をルナシティをはじめ、軍も、我々武装警備隊も持ち合わせていない……」

「そんな……」

 車内に嫌な沈黙が流れる。

「そうだ。奴らの宇宙船が出航したと思われる港は特定出来ますか?」

「監視システムと洗えば、分かるかも……」

 男の右側に座った警備員が呟く。

「すぐに特定させてください!出航した時刻における、コロニーと地球の位置をシミュレートすれば、船舶の予定航路が割り出せる筈です」

「本部に連絡します!」

「うむ……」

 部下が男の指示で動く事に、少し不快感があるのかもしれないが、その指示は的確だった。

「予定航路の終点と思われるデブリ帯周辺に、出来る限りレーダーを集中させてください。が開けられた後、何が飛んでくるか分かりません」

「ルナシティと軍へ申請します!」

 左側の警備員も動く。

「貴様、本当に奴らの仲間じゃないのか?」

 運転をしながら、男に問いかける。

「話した事があるのは事実です。でも仲間じゃない。俺はルナシティの中で生活してる。戦争なんてまっぴらだ!」

「……、我々に協力する気はあるか?」

「生活を守ってくれるのなら!」

「貴様を臨時的に現場指揮者として迎える。部下を何人か付ける。とにかく食い止めるぞ」

「俺に!?」

「お前は奴らが特別と思った人間だ。頭も切れる。力を貸せ」

 予想外の申し出に戸惑った。

 しかし、先程の警備員達の狼狽を見るに、土壇場で使える人間は少ないと見える。

 それもそうだろう。

 戦争なんて100年以上も昔の事だ。

 それ以降、外敵といえる存在はなく、戦闘などの経験もない。

 安定した所得が目的で、武装警備員になったものも多いだろう。

 使える人間がいない訳ではないだろうが、極めて少ないと思われる。

「俺でいいんですか……?」

「1人でも多くの人材が欲しい」

「……、分かりました。協力します」

「無線端末とタブレットをその男に渡せ。お前たち2人は原時刻をもって、彼の指揮下に入る」

「了解!」

「俺はルナシティや軍との連絡と支部全体の指揮に徹する。お前達は自由に動け」

 支部に到着した。

 そこはもうてんやわんやだった。

 全く秩序がない。

「落ち着かんか!」

 運転席から降りた瞬間に、怒号の様な声。

 支部一瞬にして静かになった。

「状況は!」

 タブレットを片手に、眼鏡姿の女性が走り寄ってきた。

「支部長、お待ちしておりました」

「御託はいい、状況は?」

「はい。現在、監視システムを洗い、出航したと思われる港を探しております。それと同時進行でルナシティ及び軍本部へ、緊急回線を使用してレーダーの申請を行っている所です」

「所内の半分を街の治安維持に投入しろ。あの放送で街が殺気立っている」

「了解!」

「それと、そこの2人!」

 近くにいた警備員2人を呼び寄せる。

「お前達も彼の指揮下に入れ、別動隊だ。何か分かった時はすぐに彼女に連絡しろ。直通回線を開かせる」

「了解!」

「他の者は俺に付いてこい!他のコロニーとの連絡も密にしろ!地球に一番近い場所に対策本部を構える!急げ!」

 支所内が再び忙しくなった。

 しかし、先程とは違い、それは統率された動きになっていた。

「支部長だったんですね……」

 男がボソリと呟く。

「隠していた訳ではない。言う必要がなかっただけだ」

 男は少し考え、口を開く。

「奴らが寝泊まりしていた場所を知っています。既に全員出払っているでしょうが、何か手があるかも……」

 その言葉に、支部長は一度怒りの眼差しになったが、すぐに考えを改めたようだった。

「すぐに向かえ。止める術はもうないかもしれないが、奴らが地球と何かしらの連絡を取っていた可能性もゼロではない」

「はい」

 男と部下たちは再び車に乗り込んだ。

 運転は先程右側に座っていた隊員が担当する。

「俺の運転は荒いので、しっかり捕まっててくださいよ!」

 そう言うとアクセルをベタ踏み。

 後輪が激しくスリップしながら、車は何かに弾かれたように発信した。

「念のために、これを」

 助手席に座った隊員から、拳銃を渡された。

 『QSZ-92』

 92式手槍と呼ばれる、旧中国人民解放軍で正式採用されていた拳銃だ。

 しかしそんなこともよく分からない男にとって、この拳銃と煙管の女が持ってた拳銃が違うものである事すら気付かなかった。

「ここで狙って、安全装置セーフティを外して、引きトリガーを引いてください」

「……分かった」

 人を殺傷するための黒い銃。

 小さく溜息を吐いた男は、それを隠すように、背中側のベルトに刺した。

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