02:規則と僕
「やめてください、ご主人様……」
裸にされた女性型バイオロイドは涙を流していた。
両手首を手錠で拘束され、そこから伸びる鎖は天井の固定具に連結されいる。
壁を背に床に座らされた状態で、腕を降ろす事が出来ない。
両脚は大腿部で切り落とされ、断面近くを細いベルトで縛り、止血されている。
窓もなく暗い室内は血の匂いが充満し、吐き気を催すレベルだ。
しかし、そのバイオロイドの声に抑揚はなく、感情と言うものが読み取れない。
映像と音声がちぐはぐで言い知れない恐怖を助長していた。
「黙れ、お前は俺の所有物だ。どう扱おうと俺の勝手だ!」
全身血まみれの男が上ずった声で叫ぶ。
男の手には大振りの鉈とノコギリ。
疑いようもなく、この惨状はこの狂人の仕業だ。
「やめてください……」
「黙れって言ってるだろ!」
狂人がバイオロイドの顔を平手打ちする。
パシンという乾いた音が室内に響いた。
狂人は乱れた呼吸のまま、血と涙と汗で濡れたバイオロイドの身体を舐め回す。
「やめて……ください……」
狂人は無視して乳房を貪る。
「やめっ……あっ……」
バイオロイドが喘ぎ声を漏らす。
「なんだ?バイオロイドの癖に感じてるのか?」
そう言って、狂人はバイオロイドの勃起した乳首を摘み上げた。
「やめて……あぁっ……、ダメ……」
まるで感情がこもっていない声を漏らすバイオロイドに、狂人は更に興奮している様だ。
着ていた服を全て脱ぎ捨て、自らの陰茎をバイオロイドに咥えさせる。
「おら!しっかりしゃぶれ!ちゃんとやらねーと、片目潰すぞ!」
バイオロイドの頭を両手で押さえ込み、乱暴に腰を前後させる。
嘔吐しようが関係なく腰を振り続ける狂人。
情けない声を発しながら、バイオロイドの口内に射精した。
「おら……、飲め……。全部飲むんだよ!」
吐き出しそうになるバイオロイドに上を向かせ、無理矢理飲み込ませた。
「やめて……」
「うるせぇ!綺麗にしろ!」
狂人はもう一度バイオロイドの口内に陰茎をねじ込む。
「まぁたやってんのか」
一人の男が部屋に入ってきた。
「あぁ?おめぇもやるか?」
バイオロイドに咥えさせたまま、気色の悪い笑顔で振り返る狂人。
「その遊びも大概で辞めろ。バイオロイドが何体いても足りねー。金は俺が出してんだぞ」
「いいじゃねーか!」
狂人はいきり立った陰茎をバイオロイドの口から抜き、女性器に這わせる。
「良くねーよ、バカが。死体の処理も大変なんだぞ!」
「
そう言いながら、せっせと腰を振っている。
「バイオロイドの内臓は安いんだよ!人間への移植は可能だが、耐久年数が短い」
「へぇ~、そうなのか」
「だいたい、お前に回してるのはメーカー表示がない裏物だ!死体の処理がどれだけ大変か分かってんのかよ……」
「うるせぇなぁ。粉砕機に突っ込んで海にでも撒きゃいいじゃねーか」
「あのなぁ……。もういいわ……」
男は頭を抱えたまま部屋を出て行った。
「アイツがここでバイオロイド相手に
そう言って男は去っていった。
「ったく、俺は邪魔されるのが一番嫌いなんだよ」
男はそう言って、床に置いていた鉈に手を伸ばした。
「イヤ……、やめて……」
何かを察知したバイオロイドは暴れ出す。
「おっと、大人しくしろよ……?じゃねーと、変なとこ切っちまうぞ?」
ニヤニヤしながら鉈の刃で腕や乳房を撫でる。
傷口から鮮血が溢れ出してくる。
「イヤ……、痛い……」
「そろそろ仕上げるか……」
狂人はそう言って、鉈をバイオロイドの鳩尾に力一杯突き立てた。
「ゴボッ……」
バイオロイドが吐血する。
「知ってるか?急所を突かれると筋肉が収縮するんだよ。勿論、アソコのもな。これがたまんねぇんだ!あぁ!締まる!最高ぉ!!」
パンパンという激しく腰を打ち付ける音が響く。
その音を聞きながら、バイオロイドの瞳孔がゆっくりと開いていった。
§
そのカフェは雑居ビルの7階にあった。
外に看板も出ていない、目印も何もない店だ。
「ホントにここ?」
僕は不安になって親友の方を見た。
「住所の通りだと、ここで間違いないんだが……」
目の前の扉は防火扉の様だった。
端の方は錆びついていて、出入り用のものには見えない。
「これもカモフラージュ?」
「さぁ?とりあえず入ってみようぜ!」
親友は意気揚々と扉を開けた。
中に入ると窓を全て塞がれた薄暗い店内を特殊なライトが照らしている。
「いらっしゃーい。あれ?学生さん?」
店の奥に設置されたダーツ台でダーツをしていた女性が僕たちに気付いた。
どうやら店員のようだが、その左上腕には例の腕輪がある。
「開店時間ちょうどにお客さんが来るなんて珍しい!どうぞ入ってぇ~」
やる気なさげな喋り方だが、その口調には抑揚があり、バイオロイドとは思えない。
「え?バイオロイド……?」
僕は思わず言葉にしてしまった。
すると、店員の女性バイオロイドの笑顔が一瞬にして怖いものに変わった。
「初めてだから今のは見逃すけど、店内では『バイオロイド』って単語は禁句だからね。それと、入店時にはこれを着用するように」
そう言って、ホログラムの腕輪を渡された。
「え?」
「どういうこと?」
僕と親友は顔を見合わせた。
「これ、外に置いてあったでしょ?」
そう言って扉を指差す店員。
「あぁ、確かに……」
「入店の際にはこれを着用する事。誰に聞いたか知らないけど、ウチを利用するんだったら規則を守ってね」
やはり笑顔が怖い。
従わない場合は追い出されるのだろう。
僕らは仕方なく腕輪を付ける。
「開いてる席にどうぞー。注文する時は呼んでね。ダーツはいつでもやっていいから。
そう言って店員は再びダーツ台の方へ向かう。
「なぁ」
店員の後ろ姿を見ていた僕に、親友が小声で話し掛けてきた。
僕らは顔を近付けてヒソヒソ話し始める。
「どう思う?」
周りを見渡しながら親友が言う。
「どうって?」
「この店だよ。あの店員もだけど」
「う~ん」
僕は少し考えたあと、まとまり切れていない考察を口にした。
「ここって『バイオロイドとデート出来る店』って言うより、『人もバイオロイドとして利用できる店』なんじゃない?」
「みたいだな。外に置いてあった腕輪、最初に見た時は客のバイオロイドがあの場で腕輪を外してるのかと思った」
「僕もだ。まさか逆だとは……」
「バイオロイドが腕輪を外せば御法度だが、人間が腕輪を付ける分には適応される法律はまだない」
「まだって事は、今後作られる可能性があるの?」
「公表されてないが、そういう法案が作られてるって親父が言ってた」
「マジか」
親友の父親は元官僚の国会議員だ。
しかも、バイオロイドの社会進出に否定的な会派にいる。
その為、親友の家にはバイオロイドがいないのだ。
代わりに、数人のお手伝いさんを住み込みで雇っているらしい。
いつもはおちゃらけた性格の親友だが、成績は優秀で弁護士志望だ。
「じゃあ、今のところこの店は違法ではないんだね」
「今のところはな。でも、これじゃ他の客が人なのかバイオロイドなのか分からねーな」
「規則」
店員が僕らの背後に立っていた。
「うわぁ!」
「脅かすなよ!」
「注文取りに来たのー。一応、カフェなんでね」
やはり笑顔が怖い。
「えぇっと!」
僕は急いでメニューに目を通す。
「あれ?紅茶しかない……」
「え?あ、ホントだ……」
「コーヒーは身体によくないのよ?」
店員がニッコリと笑う。
目で「察せ」と訴えている。
バイオロイドの身体は、人間の身体よりもデリケートだ。
刺激物を摂取するとすぐに体調が崩れる。
その為、バイオロイド専用の食事が存在するのだ。
この店のメニューは全てそのバイオロイド専用の様だ。
「じゃあ、アイスティーで」
「俺も」
「アイスティー二つ」
そう言って、店員が背中を向けた。
「先に忠告しておくけど、ここで他のお客さんのプライベートを詮索するのも御法度だからね。気を付けて」
やけに低いトーンの声だった。
妙な店に来てしまったと、後悔し始める僕だった。
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