毒にも薬にもならない作品レビュー

第一回 アニメ「メイドインアビス」

　本日より不定期連載を開始する『毒にも薬にもならない作品レビュー』その第一回で取り扱うのは、「メイドインアビス」と言うアニメである。非常に大雑把に噛み砕いて説明すれば、伝説的な探検家のライザを母に持つ少女・リコが、ロボットの少年・レグと共に、その地で命を落としたとされる母を探しに人知を越えた「遺物」の眠る「奈落」、「アビス」を探検するという物語である。

　私はこの作品を昨夜、Netflixにて見終えたばかりだ。先週より視聴を始めて、時を忘れては熱中したこの作品。単刀直入に言えば「とても面白かった」。全編を見終えると、「何故リアルタイムで視聴しなかったのだ」と言う後悔が沸いて出た。本作が放送していた2017年、大学2年生の頃だ。リアルタイムで視聴する事は十分に可能な環境だったにも関わらず、私は当時、目もくれなかった。そんなあの頃の私が恨めしく思える。「メイドインアビス」は、これまで私が見たアニメ作品の中で、五本の指には入る好きな作品と言える。

　しかし、だからと言って他人に積極的に薦められる作品かと言えば……断じて「否」だ。人を選ぶ作品、と言わざるを得ない。何せ、あの可愛らしいキャラクターデザインからは想像もつかぬ、非常にグロテスクな作品である為だ。凄惨で猟奇的な描写が数多く見受けられ、人間の内臓が食い千切られるシーン、リコの腕が折れるシーン、ミーティという少女が非人道的な人体実験により「成れ果て」と呼ばれる異形な生物へと変貌するシーン、等々……。これでも氷山の一角、目も当てられないようなグロテスクの山。到底、積極的に薦められる代物では無い。

　けれども、これら目も当てられないグロテスクも「メイドインアビス」の魅力を形成する要素であると私は思う。「メイドインアビス」は確かにグロテスクだ。だがそれが無闇に怖がらせる為の物かと言えば、断じて「否」だ。「メイドインアビス」のグロテスクな描写は、しっかりとした意味を持っている。

　例えば先述の、ミーティという少女が「成れ果て」と化すシーン。この凄惨なシーンがあるからこそ、ナナチがレグに懇願し、怪物のような姿となってしまったミーティを殺す事で、魂を解放するシーンが深い意味を持つようになる。私はそのシーンを、涙無しに見る事は出来無かった。このシーンは、グロテスクな「成り果て」と化すシーンが口頭での説明で終わっているような事だったのならば、涙を流すような事は無かっただろう。何せ、グロテスクなシーンがあってこそ、ミーティが藻掻き、苦しんでいたと言う事が理解できるのだから。本作のグロテスクは、それ自体に大きな意義があるのだ。

　また、「メイドインアビス」は童心に返り、ワクワク感を感じながら見る事の出来る作品でもある。魑魅魍魎の潜む、どこまで続くとも知れない大穴。地の底で生きているかも知れない、まだ見ぬ母親の影。人知を越えた力を持つオーパーツ「遺物」等々。大人になって失った「ワクワク」を満たしてくれる、王道冒険物語としての要素が満載であり、世界の謎に近づく展開を見る度、心を踊らせてくれる。

　目も当てられないような、しかししっかりとした意味を持つグロテスクと、童心に返って楽しむ事ができる、心躍るワクワク。この2つこそ、このアニメの魅力であり、根幹であると私は考える。そして、それらこそが私を熱中させたものの根源であろう。

　アニメ「メイドインアビス」は非常に人を選ぶ作品であり、軽易に薦められるものでは無い。しかし、このアニメを観て私は大変な感銘を受け、熱中したのは紛れもない事実だ。今後、原作の漫画も読み、未アニメ化範囲も追いたいと思った次第だ。

　また余談になるが、本作は「盾の勇者の成り上がり」や「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」等の作品でも知られるアニメスタジオのキネマシトラスによる息をのむ秀麗な作画と、リコ役の富田美憂やレグ役の伊瀬茉莉也、ナナチ役の井澤詩織ら声優陣による「名演」と呼ぶ他無い、気迫のこもった演技の光る作品であり、制作陣、及び声優陣に対して最大限の敬意を払いたいと思う。彼ら、彼女らの尽力があってこそ、作品の魅力が最大限まで発揮されたのであるから……。