第10話 アカツキVS大隊選抜人員模擬戦・中編
・・10・・
凄まじい。
エイジスが独自判断で行う
「んなっ!?」
「えっ!?」
「は――」
「うそっ?!」
僕が身体強化呪文の『瞬脚』を唱え、相対距離五百メーラ先の正面への吶喊を行うと同時に彼女が狙ったのは、左右にいた四人。
彼等が驚いたのも無理はない。エイジスは無詠唱かつ極めて短い時間で呪文を発動したからだ。しかも彼女の上に現れた魔法陣は合計で二十四。初級とはいえ一人あたり六つの火属性魔法の火球が彼等を襲う。
「エルフ7、8、9、10を撃破確実認定ですマスター」
「いきなり四人もだと!?」
「初級魔法とはなんだったんだろうね、けど良くやった!」
初級魔法とは思えない威力を伴った二十四の火炎は左右に展開していた四人の魔法障壁をいとも容易く破り、攻撃すら許されず開始僅かで脱落となる。
相手がSSランクであるから覚悟していたとしても、あっという間に自身の戦力の約半数が沈められた事にマンノール少佐は驚愕し、僕は戦果を出したエイジスの凄さを実感して褒めつつさらに距離を詰めていく。彼我の距離はこの間に三百五十まで縮まりっていた。
だけど、相手だってやられっぱなしじゃない。
「全員散開! 広がりつつ准将閣下を各自狙え!」
『了解!』
「属性は風属性統一、最大火力を放て! 魔法銃使用者は杖に切り替えろ!」
マンノール少佐の命令に素早く反応し、身体強化術式で速力上昇させて離脱し召喚武器所有者三人と杖に切り替えた二人、さらにマンノール少佐の計六人が一斉に風属性中級の魔法を発動させる。
「エイジス、魔法を撃ち落とせ」
「イエッサー、迎撃します」
あちらの発動からコンマ数秒後に僕がエイジスに命じたのは魔法を魔法で撃ち落とすというもの。
これまでは絶対に不可能だった命令はしかし、エイジスだからこそ実現させる。
六人から放たれた風の刃は総計三十六。通常このような一斉攻撃を受ければ無傷ではいられないけれど、エイジスと共有している拡張現実画面はその全てをロックオンしていた。
「ワタクシは主の盾。一つ足りとも通しません」
抑揚の薄いエイジスの言葉と共に放たれたのは同じだけど撃ち落とすには十分な追尾機能が付与された初級風属性魔法が三十六。
風の刃と刃がぶつかり合うけたたましい音が練習場の中に響き、エイジスは相手の攻撃全部を迎撃させてみせた。
「なっ……!?」
「これがエイジスの能力の一つさ。僕も初めて知った時はそりゃもう驚いたよ」
まさにありとあらゆる攻撃から持ち主の身を守るアイギスの別名に相応しい光景にマンノール少佐は言葉を失う。彼我との距離は三百とさらに狭まる。
「けど、これだけじゃない。エイジス、ロックオンと補助魔法を頼むよ」
「了解しました」
「数多の焔は誰も逃さない。八重は二つ、四つへ。炎弾舞踏」
「並列詠唱。瞬脚、
これまではヴァルキュリユルの弾丸が分裂して行っていたそれは出来なくなったけれど、魔法陣から放たれるソレでも行える。
八つの魔法陣から発生した赤い焔は四分裂し、逃れられない三十二となって散開していたマンノール少佐達をそれぞれ狙う。
「なんて速さなのよっ! く、来るなぁ!」
「逃すわけないじゃないか」
併せてさらに自身を加速させる為の瞬脚三重展開。六人の内、一番右の外側にいた女性兵士に向かう。
以前なら身体に軋みは起きるけど今はない。エイジスの初級魔法には身体強化術式も含まれていて、今まで行えなかった身体そのものを強化させる呪文にも手を回せているからだ。
時速六十キーラは越えているだろう僕は直ぐに目標へ最接近。彼女は寄せ付けまいとアーチェリー型の召喚武器から一度に三発の風属性付与の矢を放つけれど、虚しくもエイジスの支援によって撃ち落とされてしまう。
「いやぁぁぁぁぁ!」
「そんなに怯えなくても……」
「土壁展開!」
「おっとそうくる? けどごめんね!」
女性兵士が急ごしらえで組成した土属性魔法の壁。だけどそれを僕は一度の跳躍を挟んで頂上に足を付けるとさらに体を浮かせる。
「魔法障壁はあるよね? なら痛くない、はず!」
「はぇ?! きゃぁああああ?!」
彼女の背後を取り側面にも魔法障壁が張られているのをちゃんと確認すると、足部に風属性の短い刃を纏わせて回転蹴りの一撃を与える。前世を含めた体術の経験とトリプルアクセルに加えて風短刀だ。魔法障壁は一発で破壊され女性兵士は吹き飛ばされた。うん、たぶん怪我はないはず。
「エルフ6、撃破」
「だろうね。じゃ、次!」
「俺ぇぇぇぇ!?」
「君以外にいると思う?」
「くそっ、ローレンを援護してやれ!」
回旋を終えると視線の先に捉えたのは僕から一番近いエルフ5のナンバーが表示されている濃い緑髪の若い男性エルフ。
右脚をバネにして急加速するとたかが三十メーラ程度だ。
「エイジス、一枚だけ残してあげて」
「サー」
エイジスの初級雷属性による支援魔法攻撃で五枚中四枚の魔法障壁が破られ、マンノール少佐が命じた支援攻撃も全てエイジスが迎撃。そして目の前には僕の姿。
「あ、悪魔かよぉぉぉぉ!」
「失礼、な!」
僕は濃緑髪の男性エルフ兵士を足払いで転倒させると、かかと落としで最後の魔法障壁を壊す。
「ま、参りました……」
「格闘戦も勉強しておくといいよ。自分の命を守る術になる」
「ひぇ……」
情けない声を出す彼にアドバイスを残すとすぐに次の目標へ。ここまで数秒の出来事で、残りは四人だ。さあ、どうしようかな。
「少佐ぁ! こんなの勝てっこないですってぇ!」
「ひ、怯むな! 准将閣下の隙を見つけ出せ!」
「どこにあるって言うんですかぁ!」
マンノール少佐から一番近くにいた、見た目は二十代後半の男性エルフ士官が悲鳴に近い主張を上げる。
「そろそろケリをつけようか、エイジス」
「同意。両側面二名はお任せを。学習対象に成りうるのはマンノール少佐だけのようです」
「辛辣だなあ。援護しつつよろしく」
「サー、マイマスター」
マンノール少佐は辛うじて平静をたもてているけれど、あとの三人は完全に恐慌状態だ。エイジスはその彼等を厳しく評価しつつも最も外側にいる二人に容赦無く多重ロックオンで魔法攻撃を浴びせ、一瞬で撃破認定にさせる。
その間に僕は行動を開始。目標はさっきの男性エルフ士官。相対距離は五十メーラ。数瞬で眼前に辿り着けるね。
「か、かかってこいです!! 自分にも矜持があるんですっっ!」
「なら情けない主張をしちゃダメだよ」
「そ、それ、あ、え、ひぃぃ! こ、降参ですっ!」
「ね? こんな感じになるからさ。口より先に魔法を出しなさい。それがダメなら手か脚かな」
「は、はいぃ……」
今にも泣きそうな表情になっている彼の首筋には、先程まで自身が帯刀していたはずで、今は僕が握っているサーベルがあった。下半身隙だらけだもん。
「君、名前は?」
「す、スーリオンです……」
「階級は、中尉か。スーリオン中尉、魔法能力者は近距離戦に弱い。対策を講じるように」
「りょ、了解です……」
「じゃ、これ返すね。――さて、マンノール少佐。後は貴方だけになったけど?」
最後の一人になったマンノール少佐の方を向く。既にエイジスによってロックオンされており、いつでも撃破するに十分な魔法が準備されている。ここに僕自身で魔法を発動すれば追い討ちにしかならないだろう。
けれども彼は、脂汗をかきつつも後ろに脚を動かそうとはしなかった。
「…………アレゼル中将閣下の訓練も大概ですけど、アカツキ准将閣下もえげつないですね」
「そう?」
「エルフの中にも変わり者で格闘術を学ぶ奴がいますが、アカツキ准将閣下のソレは長年の訓練の賜物なのでしょうか洗練されています。エイジスの支援だけでも圧倒されているのに、接近されたらおしまいだなんてシャレになりません……。そうなると……」
「降参? 戦わずに?」
「…………いえ、まさか。上官が一矢も報いず降参なんて部下の前で出来ましょうか。……一騎打ちとしましょう」
「うん、そうこなくっちゃ模擬戦の意味がない。それにこれが実戦なら降参は許されないも同然。相手が双子の魔人だったら今頃彼女らの言う拷問の対象だよ」
「拷問だなんて洒落になりませんね……」
「でしょ?」
僕がニッコリ笑うと、マンノール少佐は引き攣りながらも笑みを見せる。
「マスター」
「エイジス、支援攻撃用のロックオンを解除」
「いいのですか」
「うん。けど、僕の魔法支援だけは承認するよ。防御も含めてね」
「了解、マイマスター」
「マンノール少佐。先手はそちらから。僕はエイジスの支援攻撃無しの自分の魔法か近接戦のみで戦う。どうかな?」
「ず、随分と手加減されるのですね。しかし、いいでしょう! なら自分は最大火力をぶつけるのみですっ!」
マンノール少佐は威勢よく声を出すと、長弓型の召喚武器から発光が起き、眩い矢が一本現れる。そして。
「貫けぇぇぇぇぇぇぇ!!」
長弓から放たれた緑色に光る矢は僕を穿かんと、これまでの選抜員とは比較にならない早さと鋭さを伴って放たれる。
魔法障壁と矢が衝突する激しい響音。でも。
「…………届かない、か」
確かにマンノール少佐の一撃は魔法障壁を破壊した。けれど前方展開した前方に展開した六枚中の一枚だ。エイジスの展開する魔法障壁は一枚一枚が厚く、僕が構築するそれよりずっと耐久性が高い。それを知っているからこそ、僕は平然と立っていることが出来たんだ。たったこれだけの模擬戦でもSSランク召喚武器エイジスの凄まじさを感じる。
「だが、最後まで諦めないッッ!」
「白兵戦だね! 面白い!」
勝利は万に一つもありえないと誰もが思っているだろう。でもマンノール少佐は折れずにサーベルを抜刀し吶喊を敢行する。僕もその心意気に応え、身一つで彼に最接近していく。
彼はは魔法だけでなく剣術もよく訓練しているのが構え方から分かる。でも、こっちだって前世も今世も訓練を重ねてきたんだ。まして接近戦なら負けるつもりは無い。
「でゃああぁぁぁぁ!!」
マンノール少佐の正確無比な、けれども正統派の練習だからこそ読みやすい軌道を僕は半歩横に動いて難無く避ける。
「避けっ!?」
「もらったぁ!」
回避の後、背後を取ったらもうこちらのものだ。彼の背後と側面に展開されていた魔法障壁を再び足に風短刀を纏わせ、回旋蹴りにて破壊常時発動の瞬脚三重展開も相まってマンノール少佐は横方向に勢いよく飛んでいき、そして体を地面に打ち付けた。
大怪我にはならないはずだけど、大きな衝撃を受けたのには変わりないからマンノール少佐は再起不能。
……これは勝った、よね。
「そ、そこまで! 勝負あり! この模擬戦、勝者はアカツキくんっっ!」
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