第11話 アカツキVS大隊選抜人員模擬戦・後編
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おおおおおおっ!
と、どよめきと歓声が同時に発生する。リイナは僕が勝って当然という様子ではあるものの嬉しそうに拍手をしてから手を振っていた。
いくら僕がSSランク持ちだとはいえ、向こう側だって全員がA-ランクの高位能力者だ。多少は戦いになるだろうと周りは思っていただろう。エイジスを召喚して余り時間が経っていないから使いこなすのは難しいのではというのもあっただろう。
けれど蓋を開けてみればまさに瞬殺。これが実戦なら足止めにもならないという結果になる。
近接格闘戦による軽傷者――かすり傷レベルにはしたけれど――がいるので回復魔法持ちの魔法能力者がマンノール少佐を含めた該当人物の治療に向かう中、僕はアレゼル中将閣下の方へ向きながら歩いていく。
「どうでしたか、アレゼル中将閣下」
「え、あ、うん。そうだね、見事と言うか驚いたよー。まだ日も浅いのに召喚武器を上手いこと使っているのもさることながら、リイナちゃんとの模擬戦の話は人伝いに耳にしていたけれど、まさかここまでとは思わなかったなー」
部下があっという間に倒されていた光景に、勝負結果を伝えた後も暫くほうけていたアレゼル中将は感想を述べる。
「勝負の御覧の通り、魔法能力者は一般兵に比べて接近されると崩れやすい弱みがあります。エイジスの特性と能力を十全に活かしきれていない現状を鑑みつつも、近接格闘戦と彼女の支援の組み合わせがどう実戦で有効かも考えた結果、あのような戦法にしました」
僕はアレゼル中将の近くまで着くと、今回の戦い方について話していく。彼女は、ふうん、なるほどね。と言い続けて。
「アカツキくんはそう言うけれど、既にエイジスちゃんの能力を上手に使えていると見てて思ったよ? とても召喚してすぐとは思えないくらいにね。けど、やっぱり気になるのは魔法能力者としては特異な格闘戦をあんなにやりこなせているの、お姉さんは気になるねえ?」
「実戦を想定したまでです。敵に接近されて何も出来ないではひとたまりもありませんから」
「その為の魔法障壁じゃないの?」
「では魔法障壁が破られたら、もしくは考えたくないですが魔力が極度に低下した場合はどうしますか? 今回は短刀類が無いので風魔法で代用しましたが、魔法能力者は魔力が尽きれば一般的な兵士と同じです。いや、白兵戦慣れしてないのならばそれ以下に成り下がってしまいます。その時に、身を守る術があるなしでは全く変わってきます。だから私は空いた時間があれば魔法訓練以外にも体術の練習をしています。リイナも興味を持ったからなのか、たまに付き合ってもらっていますけど」
傍から見ればエイジスを僅かな期間で有効に使えているように見えたのは前世の機械のお陰で、体術は前世で軍の訓練と上官に散々やられていた仕込みとは言えないので誤魔化すのも兼ねて正論を並べていく。
「なんだかはぐらかされている気がするけどまあいいやー。でも、確かにアカツキくんの言うのにも一理――」
そういえば、あの上官は元気だろうか。
今の僕が言えたことではないけれど、だとしても女性にしては小さい体躯。出自は今世の僕に近いのに何故か軍になんかにいて、どこで学んだんだと思いたくなる針に糸を通すかのような二丁拳銃を使った射撃と自身の体の小ささを補う為のツインダガーを用いた格闘術。そして、絶望に染まった鉛のように重く真っ黒い瞳。
未だにあの人の言葉を僕は覚えている。
力が無ければ大切な人は守れない。
あんまり笑わない人だった、けれど部下をとても大事にしていたあの人。転生してからも軍人だったから、僕はあの人の考え方をこっちでも実践しているけれど……。
でもあの人はテロリストに捕まってしまい、人として女性として屈辱的な目に遭い救出されてから、消息が不明だ。
今思えば、それからの僕を含めた仲間達の処遇もきな臭くなったなと今更思い出す。
今、あの上官はどうしているのだろう。この世界にいる以上、そして戻る手段も無ければ一度は死んだのだから戻っても仕方ない故に既に遠い記憶になってしまっているけれど……。
「――ツキくーん。アカツキくーん?」
「は、はい。すみません、少し考え事をしてました」
「考え事? 参謀長の君ならしょっちゅうしてることじゃない。大丈夫?」
「すみません。大丈夫ですから、ご安心を」
「旦那様、本当に? アナタ、たまに物思いに耽ることがあるもの」
「うん、なんにもないから安心してリイナ」
「そう……。アナタがそう言うのならばいいけれど」
しまった。久しぶりに前世の思い出なんかに浸かっていたからすっかり話を聞いてなかった。アレゼル中将もだけど、リイナも心配そうに僕を見つめて声を掛けられてしまった。いけないいけない、今はこっちに集中しないと。
「それで、なんでしたっけ……」
「相当思考の海に沈んでたみたいだねー。要するにね、私の部隊でも近接格闘術を導入した方がいいかもねってことー。軍全体での導入は厳しいけれど、わたし直轄でやる分には支障もないし。ね、マンノールくん?」
「はい。アカツキ准将閣下と模擬戦を行ってみて痛感しました。相手が悪すぎるのもありすぎますが、それを除いても自分達は超近距離まで近付かれたら抵抗する術が無いに等しいです。奪還作戦にあたり我々のような部隊は交戦回数は増えるでしょうから不測の事態に備えて身を守る手を増やしておくに越したことはないかと」
あれだけ吹き飛ばされた割には幸いにほとんど打撲や傷などが無かったマンノール少佐は、治療を終えてこちらに来ると冷静に分析を述べていく。流石連隊の中でも最精鋭の大隊を率いているだけあって、偏見の無い意見を語っていた。
「マンノール少佐。やった本人が言うのもだけど、怪我はない?」
「ええ。ご配慮してくださったお陰で部下含めてほぼ無傷みたいなものです」
「そっか。なら良かった」
「いえ、とんでもない。こちらこそ身をもって知り得た事で収穫もありましたから。他の大隊とも意見交換出来ますし、反映させられるできょう。突然の模擬戦にお付き合い頂き、ありがとうございました」
「僕からもありがとう。引き続き訓練に励んでね」
「はっ! 精進します!」
僕とマンノール少佐は互いの健闘をたたえ合い、笑顔で握手を交わす。
「良きかな良きかなー。いい光景だねー」
「視察がいきなりの模擬戦でしたけど、実のあるものになりました。ん? 視察……? ああ、そうだすっかり忘れていました!」
「んん? 急にどうしたの?」
突然僕が声を大きくするものだから、アレゼル中将は少し驚いて聞いてくる。
そうだよ。これ視察じゃん。本来の仕事の案件を忘れていたよ。
「リイナ、例の書類を。持ってきた鞄に入ってるの出してもらってもいいかな?」
「ああ、あれの事ね。分かったわ」
リイナは頷くと、軍務用の丈夫な鞄に入っていた一束の書類をアレゼル中将に渡す。
「これは?」
「『鉄の暴風作戦』にあたり、私からアレゼル中将と連隊、その他エルフの方々に対しての提言書です。実戦についてではないですが、どうかなと思いまして」
「ふむふむ、タイトルからして興味深いね。…………なるほど、面白い発想だね。既存の手法だけど、大規模化したってやつかなー?」
「はい、どうでしょうか? きっと奪還後にエルフの皆さんが定住したとしても後々役に立つ話ですよ」
「うんうん気に入ったよ! これなら戦いが苦手なエルフでも出来そうだもの! 連隊はともかく他が調整の必要が出てくるけど、問題ないと思う!」
「お気に召したようで何よりです。エルフ族以外に関しては私達が調整をしておきます」
「ありがと! よろしくお願いするね!」
僕が提言したものについて、どうやらアレゼル中将は実行してくれそうだ。これなら戦争にかかるいくつかの負担を軽減させられるし、その分のリソースを他に回すことができるからね。
それからは本来の視察に戻り、この日は充実した一日になったのだった。
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