第9話 アカツキVS大隊選抜人員模擬戦 前編

・・9・・

「ちょ、ちょっと待ってくださいアレゼル中将閣下! 模擬戦ってどういうことですか!?」


 突然のアレゼル中将の宣告に僕は驚くしかなくて、当然声も大きくなる。けれどアレゼル中将閣下はあっけからんとした様子で。


「うん、だってこれサプライズだし?」


「でしょうね! 私もリイナ中佐も報告受けてませんから!」


「そうねえ、模擬戦は事前通告があれば報告必須だからあれば必ず旦那様に報告するわ。アレゼル中将閣下、ご説明願えますか? 相応の理由がお有りなのですよね?」


「もちろんあるよー。まず、アカツキくんはSSランクのエイジスちゃんを召喚してから対人訓練はした? たぶんしてないよね?」


「して、いませんね。スケジュール管理は私の仕事の一つですが、土曜日曜にも取材が入っていたくらいなので」


「リイナ中佐の言う通りです」


「否定。マスターはワタクシとの慣熟訓練は現在途上であり、対人訓練に関してはゼロ。原因は先週からの過密スケジュールにより時間を確保するのが困難であるからです」


「でしょー? いくら直接戦闘になる可能性が低い参謀長だからって、来月に奪還作戦があるのに最高位召喚武器持ちが訓練不足は不味いと思うんだ。キミ、あの双子の魔人に狙われているんでしょう?」


「ええ……。自分が狙われているのは間違いありません」


「だったら無理にでも時間作ってやっとかないとダメじゃない?」


「否定はしませんが……」


「もちろんアカツキくんだけじゃなくて、部隊の子達の為でもあるんだよ? SSランク召喚武器所有者との模擬戦なんて滅多にない機会。勝敗はともかくとして、経験を積んでおくことに越したことはないの。ましてや今回は防衛作戦ではなくて、侵攻する側。何が起こるか分からないから」


「些かやり口が強引なのは否めませんけれど、理由にはとりあえず納得しました。リイナ」


「私は反対しないわ。次からは事前に連絡を頂けると助かりますが」


「ごめんごめん。先輩からの洗礼みたいなものだと思って? 自分で言うのもなんだけど、私とシングルスで戦うよりはマシでしょ?」


 経験差が隔絶する程にあるアレゼル中将との模擬戦よりずっとマシではあるけれど、随分な洗礼だなあ……。

 しかし模擬戦をやるにあたって機材が必要だけどそのあたりは……。


「あの、アレゼル中将閣下」


「ん? 模擬戦用機材なら揃えてあるよ? 審判も私が務めるし」


「用意周到ってわけですね」


 まあ、そうだよなあ……。

 さて。突拍子もない模擬戦になった訳だけど、ここまで舞台を揃えられたら首を横になんて振れないよね。仮にもSSランク持ちになった以上はそんなことはできない。拒否権はないみたいだし。

 だったら。


「分かりました。模擬戦をしましょう」


「そうこなくっちゃ! じゃあルールを先に説明しておくね」


「よろしくお願いします」


「まず、本模擬戦はアカツキくん一人対私が選抜した十名によって行われるよ。選抜員、前に出てー!」


 アレゼル中将の呼びかけに、十人のエルフの男女が僕の前に一列に整列する。その中には大隊長のマンノール少佐もいた。


「選抜メンバーは全員がA-ランクの魔法能力者。内、マンノール少佐を含めて五人がBランクだけど召喚武器持ち。全員が魔力生成型の矢を放つ弓型だね。他の五人も去年の装備新調でキミもご存知のM1834を持ってるよ。射撃の得意なわたし達エルフにぴったりだし。ちなみに弾薬が切れても残存魔力は余裕で残ってるから今度は杖で魔法飛ばすから気を付けてね?」


「流石は魔力に優れるエルフ族ですね。魔法火力戦になりそうです」


 相手は遠距離戦主体か。なら戦い方はいくらでもあるね。


「アカツキくんには勿論ハンデを加えるよ。キミは上級魔法の行使は禁止ね。エイジスちゃんの能力と君の魔力を加味すると上級魔法で一撃の未来が見えちゃうから。よって使えるのは初級及び中級魔法だけ」


「了解しました。むしろ制限が思ったより緩くて助かります」


「え、そうなの? でもねえアカツキくん、油断は禁物だよ。そもそもこの部隊はわたしの直轄部隊で、特に選抜した子達はわたしの弟子みたいな存在。一筋縄ではいかないよお?」


「問題ありません。当然ではありますが、こちらも慣熟訓練をあまりしておりませんので、不慣れながらも全力でやらさせて頂きますからどうかご覚悟を」


「ひゅー、可愛い見た目からは想像もつかない、模擬戦で奥さんを容赦なく殴った子は気合が違うねー。十人共気をつけなよー? 少しでも気を抜くと同じ目に遭うと思うから」


「経験者は語るけれど、旦那様は魔法能力者だけど近接格闘戦も長けてるわ。呼吸困難になっても知らないわよ?」


 アレゼル中将とリイナの忠告に選抜された全員が息を呑んだり、ひぇ、という顔で僕をみる。そんな風に見なくても……。


「アレゼル中将閣下、ルールは他にありますか?」


「んーん、後は普通の模擬戦と同じだよ。ウチの方は団体だから致命傷判定が入れば退場くらいかな?」


「分かりました。ありがとうございます」


「どーいたしましてー。んじゃ、位置につこっか」


『はっ!』


「了解です」


「旦那様、アナタなら勝つと確信しているわ。実力を見せつけてやりなさい」


「うん、勿論だ」


 模擬戦形式の説明も終わりリイナからの応援を受けた僕と、選抜されたメンバー十人が指定の位置につく。それ以外の人達は模擬戦になる場所から移動し始めた。

 ふむ、あっちはマンノール少佐を守るように三人、左右に三人ずつか。少人数ながらも僕から見ると扇形に広がって射線を取ってきたわけだね。一列に並ぶより厄介だね。接近すれば火線が集中しそうだ。


「仮想空間展開術式起動するよー!」


 アレゼル中将の大きな声に、僕と十人が頷く。あちらの召喚武器所有者は全員が顕現させる。一般的な長弓タイプにアーチェリータイプか。初撃から遠射ちしてきそうだ。魔法銃にも気をつけないと。土属性なら地形変化もしてきそうだし、風属性なら魔法障壁を効率的に破壊する鋭い一撃もくるだろう。

 僕が十人の様子を観察しているうちに、術式は起動。外に魔法が漏れないように可視化の後に不可視化される壁が展開された。

 こちらも戦闘準備を始めよう。


「エイジス、戦闘支援モードを起動」


「サー。戦闘支援モードを起動します」


 僕の命令にエイジスはすぐさま応答し初めて展開した時には驚いて気付かなかったけれど、キィィィン、と小さく甲高い音と同時に拡張現実画面が僕の前に広がる。


「続けて、目の前の十人をフレンドからエネミーに変更」


「了解。対象を敵性へ変更します」


「さらに名称を付与。マンノール少佐をエルフ1《エルフワン》とし、以下エルフ10《エルフテン》までとするよ」


「イエスサー、マイマスター」


 エイジスが淡々と言うと、レーダースクリーンの青い点は敵を示す赤色に変化し、視線の先にいる十人を囲んでいる青い四角形も赤い四角形に変化した。さらにエイジスが予め登録していた各名前からそれぞれエルフ1からエルフ10までに変更した。これでエイジスに命令する時に呼びやすくなる。

 えーっと、あとはっと。


「エイジス、モードオフェンスへ変更。僕が個別で狙う以外は君の判断に任せて自律戦闘を行う事。ここで対集団戦闘についても学んでおいて」


「了解しました。モードオフェンスへ移行。学習蓄積は全自動で常に行っておりますのでご安心を」


「流石だね」


「わたしからは何をしてるか全然分かんないけど、アカツキくんも準備は終わったかなー?」


「はーい! 大丈夫でーす!」


「よーし! ならばいざ尋常に、模擬戦を! 互いによーい! カウントダウンを開始! 十、九、八、七!」


 アレゼル中将のカウントダウンが始まると、エイジスは自己判断で魔法障壁を前に六枚、左右と後ろに三枚ずつの計十五枚をフル展開。あちらも魔法障壁を展開させる。


「ごー、よん、さん、にー、いち、始めっ!」


 エイジスを召喚して初めての本格的な実践訓練は幕を開けた。

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