第8話 いいバッターの条件
球場全体が騒然となった。
死球による押し出しの1点が六甲タイタンズのサヨナラ勝ちとなった。
「ちょっと待て! バットのどこかに当たったんじゃないのか?
ファウルだッ!!」
渋川がゲームセットを告げた主審に対して猛然と抗議する。こんな結末で連続無失点のタイ記録を邪魔されてはたまらない。
「バットには当たってない。デッドボールだ!」
主審が毅然とした態度でいった。
「どこに当たったんだ?!」
渋川がなおも問いただした。
主審はひっくり返った真浦の股間を指さした。
「なにィ!!」
なんと、真浦の股間のイチモツが見事なテントを張っていた。ユニフォームの上からもその形状がくっきりとわかるほどに。
つまり、渋川の渾身の決め球は真浦の張りでたイチモツに当たったのである。
「そんなバカな! ありえない!!」
渋川は認めない。いや、認めたくなかった。プロ野球史上、こんなバカバカしいサヨナラ負けがあってたまるか!
だが、いくら抗議しても判定は覆らない。すでに三塁ランナーはホームベースを踏んでいるし、スコアボードには押し出しの1点が刻まれている。
「ようやったで真浦、股間のバットで決めよった!」
「それでこそ、わしらのマラドーダじゃ!!」
一塁側観客席から失笑とも苦笑ともつかぬ笑い声と歓声が沸き起こって球場全体がお祭り騒ぎのような状態となっている。押し出しサヨナラでここまで球場を沸かせる選手は日本、いや世界を見渡しても真浦道太ひとりだけだろう。
真浦は立ちあがり、キャップをとって大勢のファンに笑顔を振りまいている。片手で股間を押さえながら。
「あいつ、持ってるな」
坂崎監督が感心したと言わんばかりに腕組みをしていった。
「ええ。股間にもう一本持ってますわ」
田村コーチも認めざるを得ない。打つ打たないは問題ではない。どんなテを使っても点を入れてくれるバッターがいいバッターなのだ。
第9話につづく
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