第7話 サヨナラデッドボール

 渋川大河のニックネームはタイガーである。

 プレートの端から対角線上に投げ下ろす渋川のクロスファイアは、まさしく虎のごとく唸りをあげて真浦の懐深く噛みついてきた。


 一方、真浦はこのクロスファイアを待っていた。

 追い込めば、渋川は必ずクロスファイアで仕留めにくる。それが渋川の投球パターンだ。

 相手の決め球を打って投手のこころも撃ち砕く。それが真浦の流儀であった。

 だが——


 左足をステップしたときには、すでに差し込まれていた。

 コンマ01秒の遅れだがもう間に合わない。グリップに当たってせいぜい凡フライだ。

 振り出したバットは遠心力がついているのでいまさら止めることはできない。急ブレーキはかけられないのだ。

 渋川が真浦の凡退を確信した、そのとき——


 コーンという音がした。

 ボールがファウルグラウンドに跳ねた。

 真浦はバットを投げ出して仰向けにひっくり返っている。

 ボールがバットに当たったわけではなさそうだ。


「デッドボール!」


 主審がなんとサヨナラデッドボールを告げた。



 第8話につづく










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る