第238話



「……弱体型?」


 水江の天職の性質を聞いて、テンジは驚いていた。


 天職の性質を大分類すると、六種類の型に振り分けられる。

 攻撃型、防御型、魔法型、支援型、強化型、そして弱体型だ。前者三つは天職の中でも最も人気な部類に入り、後者三つは不人気と言われている。


「よく意外だと言われる」


「そりゃあね。だって、どっからどう見ても水江くんの装備は……攻撃役の仕様だもん」


「天職は弱体型だが、チームでの役割は攻撃役だからな」


「そういうことね」


 二人が何気なく会話をしていると、灰がようやく立ち上がった。

 そうしてこの状況を作り出した水江に対し、強烈な殺気を向ける。


「体が重ぇぇなぁぁぁ。この水に触れてからずっと体が重いんだよなぁ。おかしいなぁ、俺ぇは弱体型の影響を受けないはずなんだがなぁぁぁ!」


 その言葉を残して、また灰の姿が闇に消えた。


 ほんの数秒間――戦場はしんと静まり返る。


「邪魔なんだよなぁ……お前ぇ」


 気を見計らったように、水江の背後には影が揺らぐ。

 闇の衣を身にまとい化け物のごとく仮面をかぶった灰が、闇の剣で水江の背中を切り裂こうと振りかぶっていた。


「単調だな」


 水江は冷静だった。

 まるで先読みしていたかのように、すでに背後へと右手に持つ武器を振るっていたのだ。


 ガキンッと甲高い衝突音が響きわたる。


「んなッ!?」


 先読みされていたことが驚きだったのか、奇襲したはずの灰が逆に押し込まれていく。腕っぷしの強さは圧倒的に水江に軍配が上がり、そのまま水江の剣が押し勝った。

 その腕っぷしに力を籠め、水江は敵を地面に撃ち落とす。


 間髪入れずに左の剣が、灰の右足を貫く。


「んがぁつ!? 痛ってぇなぁ!」


 あっさりとその攻撃は灰の闇衣を貫通していた。

 さらにテンジが追い打ちをかけるように業火の纏った鬼卒刀を、上段で振るう。


「それはダメだってぇ」


 やはりというべきか。

 テンジのこの攻撃だけは絶対に受けてはいけないと分かっているのか、刀が灰の本体に届く前に再び地面にあった闇の中へと灰は吸い込まれ消えていく。そしてここから十数メートル離れた位置に平然と立ち上がった灰の姿が現れた。


「……まるで瞬間移動だな」


 目を瞠って驚く水江が、同意を求めるようにテンジに尋ねた。


「ここぞって時には必ずあれを使うんだ。でも、連発はできないみたいで押し込めるときは押し込めるよ」


「理解した」


「ていうか、その剣なに?」


「何ってなんだ」


「あんなあっさり黒い外装を貫通するなんてびっくり」


「あぁ、ただの剣の特性だ」


「ただのって……」


 絶対にただの剣ではないことは明白だった。

 それでも水江には隠したいことがあるのか、それとも本当にただの剣だと思っているのか。


 分からないが、それは正直どうでも良かった。


 テンジには水江に聞きたいことがあった。


「捕縛はできる? 水江くん」


「もちろんだ。ただし、直接本体にこの手で触れる必要がある」


「なるほどね、でも助かったよ。僕の天職には捕縛系統の能力はなかったから、正直ぼこぼこにして戦闘不能にするしか方法がなかったんだ」


「相変わらず言葉選びが物騒だな」


「ども。じゃああの外装は僕に任せて」


「いいだろう」


 水江とテンジは再び戦闘態勢を取る。

 本格的に鵜飼灰の捕縛に向けて、本気で挑もうとした。


 その時だった。


「――【聴覚強化】」


 この場にいないはずの立花の声が、急に二人の耳に届いたのだ。

 すでに糖伽によって遠くへ避難したはずなのに、彼女の微かな声が聞こえたことに二人は目を瞠って驚く。


「……立花か?」


「はい。聞こえていますか? 私の声」


「あぁ」


「良かった。時間がないので詳しい説明は省きますが、私の固有アビリティを二人へ共有しました。戦闘に役立ててください、少しだけ先の未来がわかるはずです」


 唐突ではあったが、その説明にはすぐに納得できた。


 少しだけ先の音――それが二人には聞こえてきたのだ。


 灰の衣服が擦れる音、足音、息遣い。

 すべてが目で見ている情報よりも少しだけ先の音を聞かせてくれた。


 詳しいことはわからない。


 だけど、彼女の能力が開花して一つ先の力を得たのだろうとテンジは考えた。


「最高だね。また第26グループの結成だ」


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