第158話



 テンジは黒繭討伐の作戦を聞き、それを了承した。

 冬喜と千郷も同じようにそれを了承することになった。冬喜は「自分に役割があるならもちろん戦う」と言い、千郷は「弟子がやるなら私も」と言った。


 そうして三人は、チャリオットが任されている北西から北東エリアに配置されることになり、彼らと一緒に黒繭討伐の役割その一端を担うことになった。


 今回の基本の作戦はこうだ。


 誰よりも、どのギルドよりも最前線で戦うのは、最高等級の天職を保持するリィメイ学長ただ一人となる。その学長を全員で支え、フォローしていくのが他の探索師全員の役割だ。

 それぞれ『南転移ゲート前』『南西から南東』『東南から東北』『西南から西北』『北西から北東』『中央陥没地帯中心部』の六エリアに大規模なギルドが配置され、詳細な役割を担うことになっている。


 この中でもテンジたち擁するチャリオットが配属されたが、北西から北東のエリアであった。


 これは七年前に起こったプーラの悲劇を元に作戦が組み立てられており、メイン級モンスターと対峙するのは相手に匹敵する戦力を持つ人のみに限定されることとなった。

 そもそもこれから生まれるであろうモンスターは間違いなく、最低でも『零等級モンスター』であると推測されている。それに対抗できる等級を持つのは、リィメイ学長しかいない。


 サポート中心の彼らにはいくつかの重要な役割が任されている。


 一つは、開幕の総攻撃。

 黒繭から誕生したばかりの瞬間を狙って、全方位から可能な限りの強攻撃を仕掛ける作戦になっている。誰がどんな攻撃を仕掛けるのかは、すでにギルド団長以上による会議で決定している。テンジたち三人は連携不足などを考慮し、傍観することに決まった。


 二つ目の役割は、可能な限りのリィメイのサポートに徹することである。

 最強の戦力が戦いやすい環境を作るための、黒子に徹するのだ。それも世界的に名のある探索師たちが同じ目的で行動することによって、連携をより高いものへとする。


 そして最後の役割――。

 モンスターがモンスターを生み出した時、その『子飼い』たちを全力を以って殲滅することだ。


 七年前のクロアチアでも数え切れないほどの子飼い――眷属モンスター――が零等級モンスターによって生み出され、それがさらに厄災を混乱へと導いた。

 その最悪の事態ってのを阻止するために、他の探索師たちは戦うことになる。

 ただし、今回もその子飼いが生まれるとも限らないので、これはあくまで保険的な作戦内容であった。

 なので、テンジたち学生が最前線でメイン級モンスターと戦うことはまずないだろう、とリィメイと九条は言っていた。


 この作戦がいつ開始するかはわからない。

 明日かもしれないし、明後日かもしれない。もっと先に始まるかもしれないし、もっとずっと早く始まるかもしれない。数時間後かもしれないし、数分後かもしれない。


 それは神のみぞ知ることであり、招聘された探索師たちはずっとここで見張り兼待機をして過ごすしかやることはなかった。

 作戦参加を了承したテンジたちも、他の探索師たちと同じように野営用のテントを分け与えられ、この階層で一晩を明かすことになった。


 そうは言っても、何も準備のできていないテンジたちだ。

 テンジたちは一度家に帰宅し、ここで何日も待機できるように荷造りをして、再びここへと戻ってきたのであった。




 そうして夜は次第に更けていった。


 第75階層のダンジョンは闇が深くなり、空を見上げれば美しい天の川が唯一の灯りとなって輝いていた。きらきらとした星々が連なり、一つの星流を成す。

 それは息を飲むほどに美しく、自然の究極美なんだと思った。


「こんな階層初めてだ……本物の星空みたい。いや、本物よりもずっと綺麗なんだろうな」


 テンジはふらりと夜の散歩へと向かった。

 気持ちを整えるためにも、一人の時間が欲しかった。


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