第157話
チャリオットは世界の上位ギルドと比べると、新興ギルドという枠組みに入る。
創設はつい八年前のことで、九条が大学在学中に作り上げたギルドであった。
九条が欲しい人材に一人一人声を掛けていき、地道に大きくしていったのがチャリオットの始まりだった。ギルドがトップに食い込むきっかけになった転機は、稲垣炎がチャリオットに入団したことであった。
当時から稲垣炎は世界的に有名な探索師であった。
しかし、どこのギルドにも所属しない一匹狼として有名だったのだ。そんな稲垣炎がある理由をきっかけにチャリオットに入団したことで、入団希望者が殺到、一気に日本のトップ10ギルドまでチャリオットはのし上がった。
チャリオットには稲垣炎と九条霧英しかいない、なんてよく揶揄される。
だから大きな仕事の多くは炎や九条に回り、他の探索師たちには平凡な仕事ばかりが来てしまう。例え大きな仕事が来たとしても、ロシアの最恐ギルド【プラービリナ】と肩を並べる待遇なんて今まではありえなかった。プラービリナには九条団長や稲垣炎レベルのプロ探索師がゴロゴロいるレベルの巨大ギルドなのだ。
それらと比べると、チャリオットの戦力は数段低く見えてしまう。
チャリオットには九条や炎と肩を並べて語れるほどの探索師の母数が、新興ゆえに少なかったのだ。いや、プロ探索師個人単位での実績が足りなかったのだ。
実力がないとは言わない、ただ実績が圧倒的に足りていない。
しかし――。
今回の仕事ではその大きな仕事ってのが舞い込んできた。
待遇も破格で、報酬もこれまでと比べ物にならない、十分すぎる実績としてもカウントできる、それほどの大きな仕事であった。
だが、死ぬ可能性ってのも少なからず存在する危険な仕事ではある。
九条はずっとそう考えていた、これはチャンスだと。
だが、リィメイの真意は別の場所にあった。
マジョルカエスクエーラの所属する日本人、黒鵜冬喜と天城典二、この二人の受け皿としてチャリオットに好待遇な仕事が回ってきていたのだ。
黒鵜冬喜は日本でも有名で、トップ10ギルドのどこもが関りを持っていると言っていいだろう。中でもリオンが属する【暇人】に深いかかわりがあると一部界隈では噂になっていた。
しかし、天城典二だけは違った。
日本でも関りを持つのは、ギルド【暇人】と【Chariot】だけなのだ。
ただ、リィメイ個人はリオンにただならぬ私怨を抱いている。
そうなると、彼ら二人の受け皿に成り得るのはチャリオットだけだったのだ。実績は物足りなく感じるが、その実力は確かにあった。
だからこうして、チャリオットがこの場に立つことが許されていたのだ。
それでも九条団長はその思惑すらも柔軟に飲み込み、ギルドにとってポジティブなことだと捉えることに決めた。
「さて、異議もなしということでこの場は一旦解散とするわね。イロニカとチャリオット、あと三人もここに残ってね。詳しい作戦について共有するわ」
リィメイ学長の指示を聞き、他の探索師たちはぞろぞろとこのテントを後にした。
その中には面白そうにテンジや冬喜の顔を見定める探索師が数人いた。
この第75階層に来た学生というだけで、その者は現状で素晴らしい強さを持っていると言える。いや、もはや即戦力になると言ってもいいだろう。ギルドのトップ層に放り込んでもすぐに活躍できるポテンシャルを秘めていた。
それほどの逸材を二人も目の前にして、彼らのスカウト眼が光ったのだ。
それでも今は分をわきまえて、スカウトなどこの戦いが終わればいくらでも時間はあると判断し、メインテントを後にしていくのであった。
ここには数人の探索師だけが残った。
本作戦の指揮を執る予定のイロニカ=モンモン、メイン級戦力として行動する予定のウルスラ=リィメイ、チャリオットから九条団長と稲垣炎。
そして天城典二、黒鵜冬喜、白縫千郷である。
最初に口を開いたのは、この構図を予てから描いていたリィメイであった。
「さて、色々と説明を省いてごめんなさいね。今から詳しい話をするわ。それからテンジと冬喜、千郷はこの戦いに参加するかどうかを決めてほしいのよ。さっきはまるで参加するのが当然的な話し方をしていたけど、これは強制ではないわ、選択の余地がある戦いよ――」
リィメイは力強い瞳でそう語り掛けてくると、ゆっくりとこの状況に出会った流れと、こうして世界中から実力のある探索師に仕事を依頼した経緯を話し始めた。
テンジはそれをじっくりと聞き、そして考えた。
話の中でテンジの心が動いたのは『石化の魔女よりも強力なモンスターが生まれる可能性が非常に高い』という予測であった。
石化の魔女は零等級モンスターとして教科書にも載っており、それ以上のモンスターというと『特級』という可能性が出てくるのだ。
それはもしかしたら【白い瞳】を持つモンスターかもしれない。
昔、海童がポロリと溢した話を思い出した。リオンが出会ってまるで歯が立たなかったと言われる白い瞳を持つモンスター。
親近感さえ覚えるそれに、テンジは会いたいと思った。
直接この目と肌で確かめたいと感じた。
「――僕は戦います」
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