第156話
リィメイ学長はデスクを囲う団長たちの輪に加わるように手を招く。
テンジたちはその指示に黙って従い、九条団長とアドフォカートの間にあった小さなスペースに収まった。
その間にも他の探索師たちは彼らの一挙手一投足をじっくりと観察し、使える奴なのかどうかを試しているような雰囲気さえあった。
テンジたちがデスクの前に立つと、リィメイ学長がギラリと全員の目を見つめた。
有無を言わせない、そんな意図がひしひしと伝わってくる。
それと同時に隣に控えていたイロニカへと意味ありげな視線を送った。
その無言の指示だけでイロニカはタブレットを操作し始め、僅かな時間で他の探索師たちのタブレットへと資料を転送し始めた。
その様子を確認したリィメイ学長は言う。
「その資料を確認してちょうだい。彼らがマジョルカに来てからの主な行動記録よ。それを見て三人が実力不足なんて言う人はいないわよね? この三人は戦力として数えるわ」
まるでテンジたちがここに来るのを予想していたかのような手際であった。
すでに資料を作り上げ、それを一瞬で探索師全員に配布する。その手際はあきらかにテンジたちをずっと待っていたかのような、そんな意図さえ感じた。
探索師たちは配られた資料をスワイプしながら確認していく。
その瞳は鋭く輝きを放ち、本当に彼らが主力と成り得るのか、彼らは精査していく。
一、二分ほどで全員が顔を上げると、リィメイ学長に対し「異議なし」と淡々と意見を述べていく。
最後に九条団長が面白いものでも見たように顔を上げると、テンジのたくましくなった顔をちらりと見て不敵な笑みを浮かべた。
その後すぐに曇った悔しそうな表情をリィメイへと向けた。
「あ~、そういうことか。だから、新興ギルドの私たちがこれほどのポジションを与えられていたって訳……相変わらず腹黒いねぇ、リィメイ? それともイロニカか? ふむ、私が気が付かないとでも思ったのか?」
「あら、別にあなたを評価してないわけではないのよ? でも、さすがは新興ギルドをたったの八年で日本トップ10ギルドに押し上げただけのことはあるわね。話が早くて助かるわ。もちろん……お願いを聞いてくれるわよね?」
「任せてくれ。むしろこちらからお願いしたいくらいだな。ということで、これからよろしく頼むよ、天城典二、黒鵜冬喜、白縫千郷」
テンジたちには何の話をしているのかさっぱりわかっていなかった。
それでも今のやり取りだけで九条はリィメイの意図を悟り、テンジへ歩み寄っていく。そして徐に片手を差し出してきた。
訳も分からず手を取るテンジは、その疑問を投げかけた。
「えっと、よく分からないのですが」
「天城典二、黒鵜冬喜、そして白縫千郷はこれよりチャリオットで仮のギルド隊員として扱う。つまりだな……私のもとで戦えってことだよ」
まるで話に置いてけぼりな三人は、まだその要領を飲み込めてはいなかった。
そのきょとんとした顔を見て、九条はまだ理解できていないのだと悟った。少し面倒くさそうにハァとため息を吐くと、もう一度口を開く。
「噛み砕くとだな。本来、新興ギルドのチャリオットが好待遇で大きな仕事を任されることは少ないんだよ。さらに付け加えると、そこのアドフォカートやギリードたちと同じ待遇ってのがそもそもおかしな話だったんだ――」
一本取られたでも言いたげな表情をしつつも、九条は言葉を続ける。
「最初はようやくリィメイが私たちを認めたのかって思ったが……どうやら私たちはお前たちのバーター、つまり抱き合わせで好待遇になったというわけだ。そうだろ? リィメイ」
「その通り……と言うと少し語弊があるのだけど、まぁ大方その通りよ。ただ一つ付け加えるならば、私はあなたたちを認めていないわけではないわ。大きな仕事を任せるには、炎と肩を並べられるほどの質の高い探索師が寂しくは感じるけどね」
「だろうな。私も常々そう思っている。だから、これはいいチャンスになる。そこは礼を言っておくよ、リィメイ」
「あら、どうも」
リィメイは相変わらず感情の分かりづらいむすっとした表情で答える。
それでも九条団長はこれがいい機会だと考え、この考えを受け入れることにした。
それに――、
天城典二、黒鵜冬喜という二人の才能を一時的に預かれるだけでも、十分にいい機会だと考えていた。
探索師としての格を見せつけるには、うってつけの状況だと九条はポジティブに捉えることにした。
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