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「……はああ?」彼女は大げさに声を上げる。「なぁに、今頃気づいたが? あたしは会った瞬間分かったがになあ。ほんと鈍感だねぇ、翔ちゃんはさ」
ああ、やっぱり。
まるっきり雰囲気は変わっているが、その呼び方、そして、大きく笑うとできるエクボは、まさしく俺の知っている由希姉ちゃんのそれだった。
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由希姉ちゃんこと
だが、俺は小学4年になって引越してしまい、それっきり彼女には会っていなかった。もう十年以上会ってないことになるのか。
「あのさ、由希姉ちゃん、
帰り道の車の中。俺は彼女に聞いてみた。
「ばあちゃんの着物にはセンサーが組み込まれてて、バイタルとか、転んだりしたときの衝撃とかがリアルタイムでモニターされるんよ。それで、異常時にはアラートがあたしのスマホに来るわけ。たまたま近くにいたときでよかったわ」
……。
えらくハイテクな装備をばあちゃんは身に付けていたらしい。だが、謎はまだもう一つ残っている。
「そうだよ、姉ちゃん、なして
「あたし、大学で演劇サークルやってんだよね。次回の公演で雪女役をやることになってさ。ほんで、今日の昼にほくほく線で帰ってきたら、なんていうか、周りがもう舞台のイメージそのものの雪景色でさ。いい感じで練習できそう、と思ってね。だでも他の人に見らんたら
……。
雪女 正体見たり 幼馴染(字余り)
あれ? ちょっと待てよ?
「姉ちゃんまだ大学生なの? 俺より二つ上だったよね?」
「あー。浪人したとか留年したとか思ってんな? 違うてー。あたしは医学部だっけさ、まだ学生なんだわね」
なんと。それで医学の専門知識があったのか。確かに子供の頃から、姉ちゃんはかなり勉強ができたが……
「マジで? すげえな。どこの大学?」
「
驚いた。
「えー! 俺もなんだけど」
「え、学部は?」
「理。理の物理」
「あー。じゃ、五十嵐か。あたしは旭町だすけなあ。だけど、意外に近くだったんだね」
「そうだね」
「そうかぁ。物理学科じゃ、白は存在しない、なんて釈迦に説法だったか」
「まあね。正確に言えば太陽表面は約5700
「お? そんなツッコミが来たのは初めてだわ。さすが物理プロパーだね。脚本家にそう言っとくわ」
……もしかして、あれ、芝居のセリフだったのか?
「というわけで、2月になったら『新解釈・雪女』の公演やるすけ、なじょうも見に来てくんなせ。チケット格安で譲るすけ。あたしにもノルマがあるもんでさ。ペアならさらにお得だでね」
姉ちゃんはニヤリとする。
「……一枚でいいて。周りに演劇に興味ありそうな奴、いねえもん」
「あら、彼女とか誘ったらいいねか」
「いねえて、そんげな女」
「あっきゃ。いねえがかね」
「別にいいねっかて。それより、そういう姉ちゃんは
「ふふん。あたし? あたしはさぁ、もちろん………」
姉ちゃんは再びニヤリとする、が、すぐに沈んだ顔になる。
「いねんだわ、これが」
「ええっ?
「
「それ、ドーキンスの利己的遺伝子の話?」
「お、よく知ってんじゃん! どうやらおまんとは話が合いそうだね」
……う。
姉ちゃんの顔が、また一瞬、雪女のように見えた……
だけど。
こんな雪女なら、取り憑かれるのも、悪くないかもしれない。
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