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「ばあちゃんは?」雪女が叫ぶ。
俺はぶるぶる震えたまま、尻餅をついてしまう。これが、腰が抜ける、ということなのか……
「いやだ……ばあちゃんを、連れてかないで……」
「はぁ? 何言ってんが? 病院連んてかねえでどうすんだてー!
そう言って、雪女は履いていた白いスノーシューズを脱ぎ飛ばし、ずかずかと家の中に入っていく。
……え?
頭の中に「?」マークが無数に重なり合い、ボース凝縮を起こすほどだったが、それでも俺はすぐに我に返ると駐車場に向かった。
車を階段下まで持ってくると、玄関から雪女がばあちゃんをお姫様抱っこして階段を下りてきた。意外に力持ちのようだ。というか……
彼女は、既に全く雪女ではなくなっていた。
上はヒートテックのセーター、下は同じくレギンスパンツに身を包んでいる。どうやら和服の下に着こんでいたらしい。そして、顔も普通の肌色になっていた。スッピンだと印象が大きく変わるが、それでもかなり整った顔立ちだ。
そして。
俺はようやく、それが誰かを思い出した。
助手席をスライドさせて、彼女は後席にばあちゃんを乗せる。そして、
「ちょっと待ってて。さすがにこの格好じゃなんだから、ばあちゃんのコートを借りてくるわ」
そう言って、また階段を上っていく。俺の目は、レギンスパンツが張り付いた彼女の豊かな下半身に、思わず釘付けになってしまう。
「松代病院に向かって! 場所分かるね?」
コートを羽織って後席に乗り込んだ彼女が言う。
「う、うん。松代駅の近くだよね?」
松代病院には、子供の頃に何度も連れて行かれた覚えがある。
「それじゃ、さっそく出発して。安全運転でね」
「分かった」
俺は左足でゆっくりとクラッチをつなぐ。
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253号の急坂を、4速全開で駆け上がる。その間、彼女はスマホで病院に電話しているようだった。オキシメーターでサチュレーションがどうとか、随分と専門的な会話をしている。
電話を終えて、彼女が言う。
「たぶん、脳内出血とか脳梗塞とかではないと思う。不整脈もないし……だから、貧血か低血糖じゃねえかな、と思うんだけどね。それでも一応病院で診てもらうに越したことはねえっけね」
「うん……なら、いいんだけど」
俺は彼女の正体を確かめようとしたが、彼女は今度は家族に電話を掛けて話し始めたようで、それは果たせなかった。そうこうしているうちに、車は松代病院に到着する。
既にストレッチャーが用意されていて、ばあちゃんはあっという間に運ばれていった。俺と彼女は二人、待合室に取り残された。診療待ちの人が結構な数そこにいたが、ほとんどが高齢者だった。やはりこの辺りはかなり高齢化が進んでいるようだ。
「……」
長椅子の俺の隣に座り、彼女は重苦しい表情で押し黙っていた。とても話しかけられる雰囲気じゃない。
やがて。
「梶原さーん」
呼び出しがかかった。
「!」
俺と彼女は、同時に立ち上がる。
---
結局、ばあちゃんは過労だった。
一人暮らしはばあちゃんにとって、結構負担だったようだ。さらに、俺が雪掘りに来るので、もてなそうとかなり張り切ったらしい。ちょっと責任を感じてしまう。
とりあえず様子を見るために一旦入院するが、明日には退院できるとのことだった。俺は心の底から安堵した。そして俺と彼女は、病院を後にした。
「ばあちゃん、大したことなくて、ほんとよかったね」助手席に乗り、彼女が屈託のない笑顔で言う。
「うん……あのさ」
「ん?」
「もしかして……
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