異世界生活奇譚

紫陽花

第1話 目が覚めるとそこは

…目を閉じたまま眠りから覚めると、暖かな陽の光と共に様々な音が聞こえてきた。

小鳥達のさえずり、降りしきる雨の音。そして、移動する馬車の音。

…馬車の音?

一つの音に疑問を抱き、薄く目を開ける。薄暗く曇った空から降る雨粒と、複数の木、という光景が目に入った。

…起き上がってみよう。そう思い、そのまま体を起こした。

起き上がった後に目に飛び込んできた景色は、お世辞にも現代、というか…


「…」

「…はい?」


もしも地球にあったのならば『秘境』と呼ばれただろう、と思えるくらいに自然そのものな森の中だった。


~遡ること、眠る前まで~


「ヤバい、課題が全く終わんない…!」


僕の名前は北倉 彰。都内の高校に通っているただの学生だ。

今はテスト前の課題を全く終わらせていないことに気付いて絶望しているところ…ッ!

机の上に置いてあるデジタル時計には02:14と表示されており、タイムリミットが少ないという事を容赦無く知らせてくる。

「くそぉ…ゲームする前に課題がある事に気付いていれば…!」

と、愚痴を吐いていたが、そんなことをしている暇は全くない。どうにかして終わらせないと―――――


~今~


…と言った所までを覚えている。

その先の記憶が無い当たり、そのまま寝落ちしたと考えた方がいいのだろう。

…なら、この光景は夢だろうか?そうだ、寝落ちしたなら夢に違いないはず。


「…もうあの課題諦めよっと…」


半分諦めの気持ちで、そのまま僕は暫定夢の中の探索を開始したのだった。

探索を開始した、とは言っても、さっきまで聞こえていた馬車の音は既に聞こえなくなっており、その上で今居る森は木が大量に生えている為、鬱蒼としている。…まずは、適当に歩き回って道を探さないと…。

大丈夫だ、僕はわりと運には恵まれている方。適当に歩いていれば多分すぐ見つかる…はずだ。


「…それにしても随分リアルな夢だなー。これが明晰夢って奴なのかも。」


今まで見たことのある夢は大体ちゃんと何かを感じたりする事が無くて、やっぱり夢なんだなーって思えるような物ばかりだったから、ここまでリアルに思える夢は初めて見るような気がする。

…あ、でも夢の中で刀に斬られた時は夢の中で叫ぶくらい痛かったっけ。あと手にナイフが刺さる夢も。

……この話はやめよう、なんだかこの夢も痛みに関連する物になりそうだし。

そんなことを考えながら森の中を進んでいると、遠くの方に土が耕されて出来たような道が見えてきた。あと黒いフードを被った人…人?人影も。

よし、第一村人(?)発見。只今より接触を試みる。

そんな事を子供みたいな事を考えながら、全力でその人影に向かっておーいと叫びながら走ってみる。

走り出すと同時にどうやら人影も僕という存在に気付いたようで、こちらを向く…と同時に、走っている僕の方に異変が起きる。

丁度踏んでいた場所に巨大が何かが居たようで、勢い良く上体を起こし…

僕の体が宙を舞った。しかもかなり高く飛んでいる。

あぁ、なんてことだ…かなりリアルな夢で見つけた人物と話せないどころか、受験シーズンに落下する夢を見るだなんて。



…現実で落ちたら助からない高さだなあ。

なんて考えていたら、地面がすぐそばまで近づいて来ていた。

この夢はここまで。…明日の学校、どうしよう?

地面にぶつかる時の強い衝撃を受けると同時に、そんな間抜けな事を考えていた。



***


次に目を開けるとベッドの上で、見慣れない木の天井が見えた。…あはは、寝ぼけて物置にでも移動したのかなあ、僕。

と、体を起こそうとすれば、


「…!?」


突如全身に強い痛みが走り、起き上がれない。

なぜ…そんな酷い寝違え方でもした…?…いや、そもそも物置に居たらベッドになんて寝ていないような…。

寝起きで纏まらない頭であれやこれやと考えていると、近くから足音が聞こえて来た。母さんかな…にしては足音がちっちゃい様な…

その足音は僕の真横で止まり、目を開けた僕の顔を覗き込んできた。


「…お前、やっと起きたのか。背中から地面に叩きつけられたみてーだから死んだのかと思ってたぞ。」


僕の目の前に現れた声の主は、耳の尖った、青い髪の小さな子供だった。

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異世界生活奇譚 紫陽花 @ajisai96n0

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