それからのこと〜何十回目の運命の出会い〜


 1人,冷たい風に打たれながら数々の思い出を思い返していた。

 たくさんのところに行って,たくさんの景色を見た。決して長くはない交際期間ではないが,多くの観光名所に言った。目の前の繁華街のネオンを見ていると,不意に去年の冬に行った神戸のルミナリエを思い出した。

 寒い寒いと言いながらホットコーヒーを飲んでいる私に,大丈夫だよと自分のコートをかけてくれた。あの時,優しいなとは思ったけれど,寒くない? とは聞いてあげられなかった。思いもしなかった。自分勝手な女だった。北陸に海鮮を食べに行ったり,温泉旅行に行った時も,すべて素敵な思い出とともに,自分の幼さをが浮かび上がっている。

 まだまだたくさんの思い出がある。どれだけ私にとって大切なことを残してくれたのだろう。

 ふと,携帯にたくさんのデータが残っていることを思い当たり,写真の保存画面を開いた。旅行もだが,家で二人で作った料理,かわいい寝顔,車を運転している姿・・・・・・

 なんでもない毎日が特別だった。

 さよならをするように,写真のフォルダからアルバムを削除した。電源を落とすと,画面には死神のような顔をした自分がいた。



 出会いはどこに転がっているか分からない。

 夏妃との出会いはお見合いBBQだったが,まさかここで気の合う女友達を捕まえることが出来るとは予想だにしなかったから人生はおもしろい。

 失恋と言っていいのか分からない恋の終わりに,自分で決めたにもかかわらず私はいつまでもくよくよしていた。

 そんな私を見かねて,


いつまで悩んでいるの。悩みは尽きないだろうけれど,悩みなんてくよくよ考えているから大きくなるのよ。怒ってしまったことはしょうがないんだから,あほみたいにどーんと構えていたらいいの。だからあんたにいい男が寄ってこないのよ。ほんともったいない女


 失恋したり悩んでいたときに優しい言葉をかけてくれる人はたくさんいた。綺麗でモデル体型である夏妃は,黙っていればとても美人で男の人が寄り添ってきそうなものなのに,男勝りの強気でからっとした性格をしていてよく敬遠される。ほんわかしてふわふわしたいかにも女の子っていうタイプが苦手な私には歯に衣着せぬ物言いや深い洞察を持ったアドバイスはありがたいし,人って生き方が出るよなってつくづく思わされる。

 そのもやもやが小さくなるまでうちにいなよ,という夏妃に甘えて少しの間だけ居候をさせてもらうことにした。

 



 新しい部屋を決めるのには時間がかかった 

 予算内に気に入った物件を見つけるのは容易ではないこともあるが,家具や引っ越し費用を払って住まいを見つけることに漠然とした不安があったからだ。二人暮らしをしていた分いつもよりは貯金が出来ていたが,それでも引っ越しを何度も出来るほど裕福ではない。もともと身の回りのことを自分ですることをおっくうだと思っていた私は,あろうことか夏妃の家に一ヶ月以上転がり込む生活を続けていた。


「いいかげん,私にも男が出来るからね。そうなったら速攻出て行ってもらうから」


嫌みの無い表情で夏妃は言う。面倒見のいい夏妃は私に対して今の状況をよしという言い方はしないが,落ち着くまではいてくれていいと言う。一応家賃の半分は負担させてもらっているが,それでもいつまでもお世話になるわけにはいかない。元来怠惰な正確を持っている私は,反省をしないという特性を遺憾なく発揮して悪いことを考えていた。


めんどくさくなくて,私に惚れた養ってくれる人のところでひものような生活をしよう


 これが新たな後悔へのスタートとなる。




 次に出会った男はなかなかの男だった。見た瞬間に,「ちょうどいい」と思わされた。丁度いいことほど難しいことはない。よくみんな「普通で」とか「なんとなくでいいよ」とか言っているが,きっとそういう曖昧な言葉は自分たちにとって真ん中を表しているのではなくて割と理想型に近いとk呂に位置しているのではないだろうか。

 この男は,ある意味私の理想に近づいた「ちょうどいい」男だったのかも知れない。完璧主義ではなく,仕事も普通にこなしている。おかしな性癖があるわけでもなく,デートなんかでは「あまり経験が無くて」と言ってしどろもどろだったり不安そうにいしてディナーをすることもあったが,特に不満も無かった。

 この人と生活すると特に気負いも無くそれなりに過ごしていけそうだ。そう感じた。長い付き合いになりそうだった。



 同棲とまでは行かないけれど,新しい彼の家で生活の大半を過ごすようになった。仕事に行くのを見送ったり,私が仕事から帰る場所も週の半分以上は夏妃の家ではなくなった。特に困ったこともなく不平や不満もない。信号のない平坦な道路を事故も工事もなくただ進み続けるようなものだ。

 そんな日々を繰り返していたある日,また私の頭の中でややこしい考えがふと浮かんできた。


私は人並みに平凡いくらしたかったのだろうか。

幸せって何。

お庭にプールがある家が良かったんじゃないの?

お金持ちになりたかったのでは?

でもそれって何のために?


たくさんの思いが交錯して,何もないように見えていた景色が渋滞を起こして混雑していた。悶々とした毎日を過ごしていると,彼に「話がある」と呼び出された。明日時間が作れるかな,と言うその表情は緊張で青ざめていた。大体のことは想像できた。これからのことを明日で決めるきるわけではない。しっかりと話をして,これからのことについて話し合う時間は重要だろう。私達もいい年だ。明日,個室の料亭に6時に会うこととなった。彼はしっかりとした店を予約していた。彼の本気度がうかがえた。



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