第8話 球夏
”夏”といえば色々ありますが、代名詞的存在のひとつが、甲子園。
今日、交流試合が終わったとニュースで知りました。
夏の甲子園、私にとっての一番最初の記憶。
それは東洋大姫路。その年の優勝校です。
縁もゆかりもない学校ですが、その言葉の響きが妙に気に入って、ただそれだけで覚えている学校名です。
当時、小学生だった私からすると、黒々とした土のグラウンドで汗まみれになって野球をしている高校生たちは、ほとんど大人にしか見えませんでした。
帽子を脱げば、丸刈りの頭。そんな人たちは身近で見たこともありませんでしたし、
そもそも高校生自体、知り合いにもご近所にもいなかったのです。
テレビの中で見る球児たちは、それからしばらくの間、私にとって遠い世界の人たちでした。
時は流れ。
気がつけばいつの間にか自分自身が高校生になっていました。
その頃の私にとっての高校野球は、妙にイライラとさせられる存在でした。
熱血、汗、ひたむき、努力、涙、友情……。
”高校野球”という単語とセットで使われがちなそんな言葉の数々が苦手で
クソ喰らえ!としか思えなかったのです。
オトナは勝手に高校生に何か夢を重ねてみてるみたいだけど、
実際の高校生がそんなキレイなワケないじゃないか、ってなもんです。
もちろんそういう人たちも(どこかに)いるかもしれないけれど、
少なくとも私はそうじゃない。高校生が皆、そんな風だと思われたら迷惑だ。
今なら”非リア充のやっかみ”と言われそうですが、はい、その通りです。
ところが、これが高校を卒業してみると、あっという間に気にならなくなりました。
年子の弟がいたからかもしれませんが、皆、可愛い弟分、後輩に見えてくるのです。
我ながら現金なものです。
下の弟が高校在学中までは、すっかり寛大な姉目線で見守っていました。
その彼も卒業して身近に高校生がいなくなると、高校野球はまたテレビの中の遠い世界に戻っていきました。
サイレンの音と共に、ああ、そういう季節なんだなあ、と目をつむり頭を垂れる。
長らくそんな時間が流れ。
今度は息子たちがその年になったのです。
息子たちは幸か不幸か部活に野球を選びませんでしたが、
彼らの身近に球児たちがいるわけです。応援団も吹奏楽部の子たちもいる。
関わる子供たちが何人もいると思うと、それこそ新聞に予選のトーナメント表が載れば、つい真剣に見てしまう。
完全に母の目です。
男の子の母親をやっていれば、本当のところ、よーく知ってるんですが。
花形運動部がキレイゴトだけでは(今でも)済まないこと、
そして実際にやっている子供たちもテレビや新聞で語られるような健気な努力家の面しかないはずがないことも。
自分が高校生だった時の感想は、あながち間違ってはいないわけです。
それでも、分かってはいても、応援してしまう。
やっぱり、母の目、なのでした。
かように高校野球とは、
雲の上のお兄さん達、腹ただしいリア充同級生、可愛い弟分、
そして我が子たち、が汗を流す競技なのです。
自分の年齢に応じて何かを投影してしまう、それが高校野球。
同じ野球でもプロのそれとはまるで違う、不思議な競技、なのです。
さて。
母の目を過ぎたら、その先は”孫”を応援する”おばあちゃん”の目、なのでしょうか。
ちょっと想像がつきません。
あの泥だらけ汗まみれの球児たちを見て
「あー。かわいいねえ」
なーんて言いながら、テレビ桟敷で応援するんでしょうか。うーん。
(母目線の今は、あの泥だらけのユニフォームを洗濯する大変さがすぐに頭に浮かんでしまいます汗)
そもそも、夏がこんなに暑くなるようじゃ、
夏の甲子園がこのままずっと開催できるかどうか、怪しい気もしますが…。
コロナのせいで開催が危ぶまれた、今年の夏の甲子園。
形を変えてでもなんとか開催できて、本当に良かったと思います。
この猛暑の中、最後まで戦った高校球児の皆さん、お疲れ様でした。
リア充がいまだに苦手な私ではありますが、
この夏の暑さに負けじと流した汗は、素直に讃えたいです。
そして、戦って汗を流したかったのに流せなかった他の部活の皆さん、
君たちの心の中を流れた涙にも拍手を贈ります。
今までの努力はきっとムダにはなりませんから!
…なーんて私が言うようになっちゃ、世も末なんだけどなあ…。
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