第11話 永遠の、
つい4、5年前まで、私は28才でした。
「永遠の」という枕詞付きの。
なんでかって?
そりゃ決まってるじゃないですか。
本当のことを言ったら誰彼構わずぺらぺらと喋って回りそうなひとがいるからです。
「ねーえー?今、何才?」
「えー?だから28って言ってるでしょう?」
「そんなことあるわけないじゃん!」
「どうしてよ?」
「だって、✕✕んちの美人なママが41で、あの若~い〇〇んちのママでも32なのに」
「美人とか若く見えるとか、ほんとの年とは関係ないよ」
模範解答でかわしながらも内心どっきり!
だって、やっぱりこの子たち、母親の年齢を仲間内で言い合ってる!
絶対にやりそうだと思ってたけど、ホントにやってるんだー!!
おしゃべりな彼は、お菓子を食べながら貴重な情報をそれとは知らずに惜しみなく提供してくれます。
「□□んちはさあ、若くみえるけど、40過ぎてるんだって」
ほぅほぅ。たしかにその年よりかなり若くみえる。でも、きみらのママの年齢としてはそれでふつうくらいだよ。
「◇◇んちはママの方がパパより年上だって言ってたよ」
知ってる~。パッと見、パパのほうが年上に見えるけど。
「△△んちのママ、年取って見えると思ってたら、やっぱりもう50なんだってー。すっごく優しくて、いいママだけど、メチャ年寄りだよねえ。かわいそう△△」
この発言には、ドッキーン!
△△ママ、きみの父親とひとつしか変わらないから。
で、多分、△△ママの次に”年寄り”なのがきみのママだから。
ってコトは、きみも、実はきみ言うところの”かわいそう”だから。
顔で笑って、心の中でため息をつきました。
それにしても、なんという記憶力!
よくもまあ友達の親の年まで覚えていられるものだと感心します。
(そんなこと覚えてるヒマがあったら漢字テストもっといい点取ってきてよ、と言いたくなるのをグッと飲み込みました)
同時に、よそのお子さんたちも次男と同じように
「〇〇んちのママは~」とやっているかと思うと、
”永遠の28”にしておいて良かった、と心から思ったものです。
彼らにしてみれば、親の年齢や容姿というのは、ゲームで使うキャラクターの強さのレベルとかアイテム数とかと同じなんでしょうか?
母親が若い、もしくは美人だと、強い。
母親が年を取ってる、もしくは地味だと、弱い。
強いと自慢できる。弱いと肩身が狭い。
優しいとか怖いとかは、いつも口にする割に点数化してカウントはしないみたい。
そんな感じです。
そんな彼らも気付けばあっという間に大きくなり。
いつの間にか親の年齢なんて口にしなくなりました。
でも、油断は禁物。
アレで年齢以外にもちゃんとチェックしてるのを知っています。
学校や部活で見かける各々の母親たちの姿を覚えているらしく、時にうっかり口を滑らせるのです。
「〇〇んちの母親って太ってるだけじゃなく服の趣味も悪い」とか。
「✕✕んちの母ちゃんはすっごく優しいらしいけど、見た目もそんな感じ」とか。
「△△んちは役員やってて、そのついでにしょっちゅう隠れて覗きに来てるけどバレてる」とか。
そんな話、いつまでするのかな。
高校と一緒にそろそろ卒業、かな。
当然、今では”永遠の28”ではなくなり、実年齢を生きています。
本当の年を言ったのは、たしか50になった時だったか。
聞いて、ひどくショックを受けていました。「マジ? そんな年なの?」って。
へへへ。ごめんよ若くなくて。
……とは言わず、適当にお茶を濁したような。
だけど、いつまでも隠してても仕方ないもんね。
ショックを受けたということは、実年齢より若く見えてたのかなあ。
なんて思った私は、ただのノーテンキ?
本当の年を教えたからと言って、別にこちらの肩の荷が下りるわけでなし、
急に優しくなって荷物を持ってくれたりするようになった訳でもないし、
これといって何も変わりません。
「あー、若くないから寝不足がこたえるなあ」
なんて嫌味をわざとらしく使えるようになったことくらいでしょうか。
こちとらずいぶん前から自分の年すら
「えーっと。アレ?3になるんだっけ?いや、もう、なってたんだっけ?」
なんて怪しい記憶なんですが。
今はまだ学生だから子供たちの年齢を把握していられてるけど、彼らが卒業して社会人になったら、そっちだって怪しくなるかもしれない。
だから”永遠の28”って、実はこれからこそ便利なんだけどなあ。
もし使うんならさすがに28はアレだから、38くらいにしてみようかなあ。
……なーんて思っているところに、免許の更新のハガキが。
ああ、年齢を思い出させられるの、こんなのもあったっけ。
ハガキが届いたので、久しぶりに免許証を取り出して見てみました。
うーん。なんか顔つきがシャープだ。キリッとしてる。
あ、ソレってただ単に太ったってコト?
そうだよなあ。5年前だもんなあ。今より○kgは細いもんなあ……。
やっぱり38はやめといた方がいいかもなあ。
って、そもそも、もう、サバ読む必要ないし。
記憶力低下のゴマカシなら、”永遠の28”の方がいっそ清々しいか。
で、もーっと年取ってボケてきちゃった時、
「おばあちゃん、年はおいくつですか?」
「あら、ヤダ。私、おばあちゃんなんかじゃありませんよ?なんてったって、”永遠の28”ですからね♪」
って自然と答えられるくらい、刷り込んでおくとするか。
うん。そうしよう。
というワケで、このエッセイ、タイトル変更するかな?
「50過ぎ。」→「永遠の28」
……なんか、一昔前に売れた小説のタイトルみたいだなあ。
やっぱりダメだ。やめとこう。
サブタイトルにも、アオリにも、うーん。使わない方が、いい、よね?
とにもかくにも。
これからもゴールド免許だけはキープし続けよう、と心の中で固く誓いました。
ほら、マックス5才若い顔写真、正々堂々と出せますから。
”永遠の28”と比べたら可愛いもんでしょう?
※ちなみに長男は、他所のママの年齢話なんて一度もしたことはありません。
こちらの実年齢にも興味無し。
何でしょうね?この差。
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