第2/3話 僕たちの凛の洗脳
「凜!」
天井から差す赤白い光で、彼女の表情は見えなかった。
彼女の影が僕の足元まで伸びてる。
部屋の隅には、依然と変わりなく土人たちがいた。カイラクの土人たちが。
凜は階段を一歩ずつ、降りてきた。
彼女の影が忍び寄る。
僕は刀を構えた。
彼女が床に降りる瞬間、右側から土人が接近してきた。
土人は銃を構えて突進してくる。
格闘だろうか。
土人は目の先で、飛び上がった。
僕はカウンターに意識を向ける。
違う。
ドンッ
土人が爆発した。
僕は爆煙に包み込まれ、思い出す、誕生日の事を。
後ろだ。
僕は振り向き、刀を構える。
キィン!
金属同士がぶつかり合う音が聞こえると同時に、僕の腕に力が籠った。
凜が刀で僕を切りつけに来ていた。彼女の力は強い。
お互い譲らず、拮抗している。
煙が収まってくると、彼女の顔が見えた。彼女は仮面をつけていた。
カイラクの仮面だった。
「凜…。」
僕はこらえながら、次の一手を考える。
彼女はもう洗脳されてしまったのだろうか。
僕は刀を押し返し距離をとる。
僕たちは間合いを計りあった。
一瞬の後、再び衝突し合った。
何度も何度も刃を重ね合う。
僕は自分の実力を計っていた。
僕は強くなっている。
瞑想世界での成果だった。
これなら凜を制することができる。
そう信じたとき、凜は切先を僕の喉元めがけて突撃してきた。
僕は構える。
間合いに入った時、予測以上に刀が伸びてきた。凜は刀を手放し、槍のように投げたのだった。
僕は刀をひねり上げ、はじく。
そのすきに凜は僕の懐に潜り込み、拳を構えた。
僕は切り上げた勢いを生かして宙に跳んだ。
彼女の拳は僕の喉元の紙一重のところで、当たらない。
僕はつま先を彼女の仮面を蹴り上げる。
彼女は蹴りを喰らう。
彼女は吹き飛び、僕は着地した。
仮面の感触は狙い通りだった。仮面が攻撃を吸収した。
僕は壁にぶつかって煙立った彼女の方を見る。
仮面は半分割れていた。
凜の素顔が、遠くから確認できた。彼女は美しい顔をゆがませ、苦痛に耐えているようだった。
僕は刀を構える。
凜は起き上がる。
彼女は飛び込むような攻撃をやめ、僕のもとへ走ってきた。
彼女は僕の間合いの寸前で止まり、刀を振りかざしてきた。
僕はその攻撃に応える。
刀が拮抗するが、僕はに余力がある。
「凜、思い出してくれ、僕を」
凜が僕の目を睨む。
「ぼ…坊ちゃま…。」
凜は声をかすらせながら、思い出すように言った。
「凜!」
きっとまだ完全に洗脳されていない。
「凜、聞いてくれ、君が言っていた様に、僕は父と戦うよ!だから君にも、力を貸してほしいんだ!」
僕は彼女に伝える。自分の感情が伝わるように。
「ぼ、ぼっちゃ…ま。………うあぁぁぁぁ」
僕は押し返された。
二人の間に、距離が開く。
「凜!」
彼女は刀を地面に捨て、頭を抱えていた。
「私は、私って…」
凜は苦しんだ。
「凜、大丈夫だ、落ち着いて、呼吸をして。」
僕は刀を納め、近づいた。
「来ないで、…くるな!」
凜は僕に向かって拳を振る。
それでも僕は近づいていく。
そして僕は凜を抱きしめた。
杏が僕にしてくれたように。
「大丈夫だ、凜。大丈夫なんだ。」
凜は止まる。
「坊ちゃま…。」
彼女の体から力が抜けた。
「凜、君は・・・」
バンッ
扉の方から音がした。
杏が倒れ込んできた。
「湊!土人が!」
杏は僕に手を伸ばしてきている。
彼女を助けなければ
「凜、ちょっと待っててくれ!」
僕は杏の方へ飛び出した。
杏の背後では土人が斧を振り下ろそうとしている。
僕は飛び込み、土人を蹴飛ばした。
そして杏を抱え、反対側へと飛び移る。
「杏、無事か?」
「えぇ、急に土人が現れて…彼女は?」
「凜も無事だ。たぶん洗脳は完全じゃない。」
僕たちは着地した。
土人と僕たちの間に、凜が頭を抱えて立っている。
「うぅ、あぁ!」
凜は苦しんでいる。
「いやだ!いなくならないで!いなくならないで、いや、あなたはいなくなって、私が」
凜はもだえた。
しかし少しすると彼女は頭を抱えるのをやめ、落ち着いた。
そしてまた、もだえ始めた。
その背後で、土人がこの部屋になだれ込んできている。
凜は両手で顔を覆っている。
「………消えて。」
彼女の手に、涙が伝っているのが見えた。
凜の言葉を口火に、土人の群が襲い掛かってきた。
凜はその土人の大群に飲み込まれた。
土人がそのまま僕らに向かって波のように押し寄せてくる。
このままじゃまずい、杏をどうにかしないと。
僕の足元には拳銃が落ちていた。
さっき爆発した土人のものだった。
「杏、これで自分の身を。牽制だけでもいい。」
僕はそれを拾い上げ、杏に手渡した。
「えぇ。わかったわ!」
「来るぞ!」
僕は刀を引き抜き、闇をまとわせた。
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