第3話  僕たちのメイドの赤い花

僕は土人たちを破壊しない程度に闇の斬撃を飛ばし、彼らを制していった。


凜は僕の背後で弾幕を張っている。


しかし彼らとの距離は縮まってきている。


「湊!弾が切れてしまったわ!」

「了解!」


僕は土人の群れに走っていった。

彼らの中心にジャンプし、上空から斬撃を飛ばす。

そうして開いた空間に着地した。

さらに僕は円を描くように回転し、四方に斬撃の波を起こす。

土人はみな、弾き飛んだ。

僕は土人の仮面を壊していく。

斬撃の衝撃で壊れている土人も何体かいたが、動ける土人も残っていた。


あと二体。


「湊!」


杏が僕を呼んだ。


振り向くと土人が彼女に迫っていた。


「クソッ」


一体、見逃していた。


僕は滑空するように接近し、峰で土人の脇腹を弾き飛ばす。土人は壁にたたきつけられた。


「杏、すまない」


杏は無事だった。

僕は、手を差し伸べる。


「うしろ!」


背中に衝撃が走る。そこに激痛と痺れが生まれた。

背中が神経を握りつぶされているかのようだ。

傷口から血が腰元まで溢れている。


嫌な出血量だ。


「凜…!」


「あなたには消えてもらいます。」


僕の背中を切った凜が背後で刀を構えていた。

彼女の目はうつろだった。


僕は立ち上がり刀を構える。


しかし凜は遠くへ跳躍した。代わりに残りの土人が接近してきた。


僕は頭がぼやけてきている。


「湊…」


「大丈夫だ、杏。すぐに片付ける。」


僕は深呼吸し、意識を整えた。


土人はあと二体。


接近してきた一体目は刀でたたき、遠くで発砲してきた二体目は、刀を投げて拳銃を破壊させてから接近し、打撃で倒す。


凜は奥で、刀を構えていた。

僕は土人へ近づいていき、足元の刀を拾う。


こめかみが委縮する。


僕は凜へと向かって走る。

足元の感覚がなくなってきている。


「凜!」


凜も僕の方へ走ってきた。


これで最後だ。

決める。


二人は近づく。




キィィィンッ





二人は交差した。

互いに背中合わせになる。






静寂。






凜の仮面は壊れ、破片が崩れた。


「ハァ…ハァ…。」


呼吸がつらい。傷が痛い。意識が薄い。

あともうひと踏ん張り。


凜は立ち尽くしていた。


僕は彼女の正面に回る。


彼女はぼんやりとしている。


「凜…がんばれ、もう少しだ。」


彼女の体はふらふらと揺れ、糸がプツリと切れたように前に倒れた。

僕はその凜の体を支えた。


「待ってて」

僕は彼女を横たわらせ、隣に座った。

刀を膝に乗せ、呼吸に集中する。

意識がぼんやりと鮮明になっていく。瞑想世界へと移り変わってゆく。


「ミナト!」


杏の声がかすれて聞こえた。

僕は目を覚まし、振りむく。


杏が駆け寄ってきていた。驚いた表情をしている。


僕は眺める。

どうしたんだ、杏。


僕は何かを察知した。


一体何が



バァンッ



大きな音とともに、杏の背後に赤い花が咲いた。

杏はそのまま僕に倒れこむ。


「杏」


なにが?


彼女を見ると、鎖骨のあたりから血が流れ出ていた。肩の中身がむき出しになっている。


「杏!」


彼女は一瞬、気を失っていたが、目を覚ました。


「湊…あそこ…。」

杏は、動くほうの腕を使って、天井を指さす。


天井には穴が開いていた。

………父だ


僕は直感した。

しかし、彼の姿はもうない。


「くそっ…彼は、何ぜ、ここまで…」


刀の闇が強くなる。

その闇は僕を苦しめ始めた。


「湊・・・落ち着いて、それじゃ何も変わらないわ。」


杏は、動かない方の腕を使って、僕の頬を撫でようとしてくれた。

僕はその手を握り、自分の頬に持っていく。

僕は涙がでていた。


「苦しまないで。いえ、苦しむのは当然の事。ただ、それと同化してはならないわ。苦しみに乗っ取られたら苦しいだけ。苦しみと向き合ったらそれは…うっ…!」

杏は顔をゆがめた。


「はぁ、はぁ…。苦しみと向き合う事が出来れば、それは苦しみの無い苦しみになるわ。」

杏は再び気を失った。


「杏…」


僕は彼女の手を握りしめた。


今、僕がすべきことは。


闇の力が弱まり、苦しみも消えていく。

僕は杏を横にさせ、凜の方へ向き直った。

僕は目を閉じ、呼吸をする。


部屋が青白く光り始めた。





















































































僕は自分と二人に、止血を施した。

僕は立ち上がり、天井の穴を眺める。

あの先に、父がいる。

僕は中央の階段を登り、穴に近づいた。

その穴の内側に、足掛けを見つけた。

中を見上げると、遠く、遠くの方に、光がさしている。

僕は跳んで足をかけるところにつかまり、体を引きよせ、足を引っかけた。


この足掛けは上へ続いている。









行こう。

僕は最後の相手のもとへ、登っていく。

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