過去の記憶 3/3
僕と凛
〈僕と凜〉
…これは凜と出会った時の記憶だ。
僕は戦い続けていた。
母を撃ってからは、それが癒しになっていた。
戦っている間は、僕は何も考えなくていい。
僕は父からオーダーされた任務をこなしていた。
任務を達成すればするほど、父は褒めてくれる。
そんな日々が続いていた頃、僕はグループの壊滅を命じられた。
今回は複数の相手を殺さなければならなかった。
しかし僕に、拒否する理由はない。
僕は目的地へ向かう。
雪が降っていた。
目的地は町から離れたところにある集落のようだった。
集落とはいえ原始的ではなく、街と変わらない。レンガ造りの家が、点々と並んでいた。
今夜、ここが襲われる。
敵は八人。
知らされた情報はそれだけだった。
地形を把握し、その周辺を探った。
周りは森に囲まれていて、僕はその中を探索した。
足跡をつけないように木から木へ、飛び移りながら進むと、崖に面した大きな洞窟を見つけた。
僕は洞窟の中へ潜っていった。
奥へ進んでいくと、話し声が聞こえてきた。
「作戦の確認だ。ツーマンセル、ターゲットは少女、他は殺してよし。」
男の声がした。
「最低でも六人、ちょうど俺たちと同じ数だ。」
話を聞いていると、人さらいだと推測できた。
「今日の八時に決行だ。」
男は言った。
「ボス、犯っちゃってもいいんですかい?」
別の男がしゃがれた声で言った。
「ありだ。今回のクライアントはむしろ、その方が興奮するらしい。私とは正反対…」
ボスは静かになった。
「どうしたんですかい?」
しゃがれた声の男が訊ねた。
僕はすぐに、洞窟から退いた。
おそらく、相手のボスは僕の存在を感じ取った。
相手は強い。
彼は音の反響を聞いていたのだろう。
僕は洞窟を出た後、一度目的地から離れ、街の宿へ向かった。
そして宿のベッドで仮眠をとった後、再び洞窟へ向かった。
現在は七時三十分。
僕は彼らを後ろから追うことにした。
木を移動し、僕は洞窟の崖の上に着いた。
現在は七時五十分
洞窟の入り口を観察して待っていると、ターゲット達が出てきた。
彼らは三組に分かれて、森の中へ入っていった。
三組とも僕と同じように木の上をつたって、別々の方向へ移動していった。
僕は一組の後を追う。
その組は集落を反対側から襲うようだった。
僕は追う。
五分後、集落についた。
彼らは目の前の家を襲うようだった。
一人が家に近づいていった。彼は窓から中を覗く。
もう一人は様子を見ている彼が、外にいる人にバレないか見張っていた。
しかし吹雪の中、外に歩いている人はいない。
僕はそのもう一人の後ろから、二人を観察している。
家にいる方は、様子の確認が終わると、相方に『OK』の合図を出し、自分のところに来るよう促した。
それを確認した相方は、家に近づいていく。
いよいよだ。
一人が玄関につき、相方は家の屋根に上った。彼は煙突から侵入するようだった。
僕も家に近づき、ターゲットを殺すタイミングをうかがう。
屋根に登った方は、煙突から出る煙と、落下した後の火から身を守るため、靴を履き替え、体に布のようなものを巻き付けていた。
僕は着替えている間に、一瞬で屋根に登り、背後をとった。
そしてナイフで、背中から心臓を一突きした。
ナイフを伝った鼓動は、弱まっていった。
僕は死体を支えて腕を持ち、玄関の方に『OK』の合図をした。
相手は相方が死んでいることには気づかず、『了解』と合図を送り返してきた。
そして視線を家の方へ向け、片手をあげてカウントをとる。
『3』
僕は死体を捨て、屋根から飛び降りる。
『2』
僕は彼の背後をとる、相手は気づかない。
『1』
僕は彼の喉元を掻っ捌いた。
静寂
僕は次の組を探しに行く。
次の組を見つけた。
先ほどの二人組同様、一人は玄関につき、もう一人は屋根に登っていた。
準備を終えたらしく、カウントが始まっている。
そして玄関の方がカウントを終え、二人は同時に突入していった。
僕は家へ走る。
玄関に着き、開いた扉から中を覗く。
中では拳銃を構えた男を手前に、両手をあげた女性と血だまりの上にたわっている男性を確認できた。
両手をあげた女性は腰を抜かし、失禁していた。
僕のこころが、揺らいだ。
それが初めて、目的地に着いてからの感情だった。感情のようなものだった。
キィィン
仮面が光る。
僕の揺らぎは収まった。
拳銃を持った男と僕の間には距離がある。
僕は隙をうかがう。
男は引き金を引いた。
拳銃から音はでなかった。
女は頭から血を吹かせながら、隣の男の胸に崩れ落ちた。
僕のこころは再び揺らいだ。
「きゃぁ!」
突然、二階から女の子の声が聞こえた。
「まぁ、ボスったら」
拳銃を構えた男はつぶやいた。
そして拳銃を手にしながら、ズボンを脱ぎ始める。
男は死んだ女性に近づいて、彼女の服を破き、足を広げた。
彼は女性の恥部に狙いをさだめる。
僕は彼を待った。
そして、彼の動きが止まる。
その瞬間、僕は彼の背後に回り、後ろから首を貫いた。
そしてすぐにナイフを抜き、性器を切り落とす。
男は血を吹かしながら倒れた。
僕は二階に注意を向けた。
どうやら、バレてはいない。
僕は視線を上に向けながら、足裏に意識を集中させ、階段を登っていく。
途中で声が聞こえてきた。
「お願いだよ。大丈夫だから。」
聞き覚えのある声だった。
「大丈夫だよ。ほら、何も持っていないじゃいか。こっちを見てごらん。」
ボスと呼ばれていた男の声だった。
僕は止まり、様子を見守った。
二階の部屋を見てみると、膨らんだベッドと、そこに手を差し伸べている男がいた。
ドクンッ
僕の鼓動は跳ねた。
ドクンドクン
同じだ。僕が父と出会ったあの日だ。
ドクンドクンドクン
その手を取ってはいけない!
僕は階段から飛び出し、男に突っ込んだ。
僕に気づいた男は、こちらを振り向き、拳銃を構える。
しかしすでに僕は懐に入っており、相手よりも先に男の腕をナイフで関節を切りはじいた。
さらに僕は相手の反対の腕をたたき落とし、最後に男の内ももを切り裂く。
男は倒れた。
彼は笑っていた。
僕は血をぬぐって、ナイフをしまう。
そして布団の中に、声をかけた。
「………鬼は、僕が退治したよ。」
僕は優しい声を努めた。
「…君の、お母さんやお父さんは死んでしまったけれど」
僕は何をしているのだろう。
「安心して、僕がついている。」
………
返事はない。
………
布団が動いた。
中の子は布を浮かせ、隙間から僕を確認した。
「…大丈夫?」
女の子は言った。
「大丈夫だよ」
僕は微笑んだ。
僕は布団に近づき、布をとる。
中で、銀髪の女の子が泣いていた。
僕はその女の子に、仮面をつけてあげた。
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