第3話 僕たちの僕の成長
「なんだか久しぶりに感じるわね」
駆け寄ってきた彼女はそう言った。
「そうだね。あれから何していたの?」
彼女との会話は心地いい。
「あれからおじいちゃんと話をしてね。あの人はいい人ね。瞑想と勉強をすることを勧められたわ。あなたは?」
おじいちゃん?
「僕は瞑想と…仕事かな。あ、あともう一個って何なんだろう。」
「あなたも三つめがあるのね。私も今それを悩んでいたとこなの。」
彼女は考えるように、顎に手を添えた。
「まぁそのうち見つかるでしょう。」
しばらく二人で歩いた。
「そういえば君は…、あ、その前に。」
僕は彼女の前で、頭を下げた。
「すまなかった。君の首を何度も折ってしまって。」
「あぁ~...........、いいわよ。もう。」
そう言って彼女は僕のほほに手を添えた。彼女はほほ笑んでいる。
ぱんっ
平手打ちされた。
驚いた僕は彼女を見た。
「これでちゃらね!」
彼女は、はにかんだ。
二人で三つ目の何かを決めるために、街を歩いた。
「そういえば君は…どうしてあの場所にいたんだ?あんな森の奥に…」
「あぁあれね。私あのおじいちゃんにあっているのよ、一回。」
おじいちゃん…さっきから気になっていたが、あの老婆の事だろうか。だとしたらおばあちゃんでは。
確かに中性的に見えるけど…。
「おじいちゃん?おばあちゃんじゃなくて?」
「おじいちゃんよ?あなたも見たでしょう?」
どうやらおじいちゃんに見えているだ。だとしたら僕の勘違いか。
「そうか…。」
まぁどちらでもいいことだった。
そんな事をしゃべっていると、広場に子供たちが見えた。
皆それぞれ剣を持ち、向かい合っている。子供たちは剣術を習っているようだった。
僕は遠くから眺める。
僕は子供たちの構え方が、気になった。
あの構えは甘いな…まずは型を習うよりも、足腰を鍛える方がいい。あぁでも筋力のつけすぎもいけないから…
そんなことを考えていたら、杏は言った。
「なに考えてるの?」
杏は僕の目を覗き込んだ。
「あぁ、あの子たちがうまくなるにはどうしたらいいのかなぁと…。」
「ふぅーん。教えないの?」
「いや、僕にはできないよ…子供とどう接していいかわからないし。僕が正しいことを考えれているのかもわからないしね。」
「なるほど。…じゃあさ、私に教えてみてよ。」
「杏に。…それならいいけど。」
僕は杏に伝えた。
・
・
・
「なるほど…なかなか説得力があるわね。あなたはどこで習ったの?」
「父から…。あとは自己流で。」
「そっか。」
杏は顎に手を当てた。
そしてポーンっと手をたたいた。
「みんな聞いて聞いて!このお兄さんがもっと強くなれる方法を教えていくれるって!」
杏は子供たちの方へかけていった。
「いやっ、ちょっとま
「このお兄さん、すごく強くて、私なんか何回も殺されちゃったんだけど、とにかく、あなた達のためになることを教えてくれるんだよ!」
杏は活発だった。
「本当かよ、じゃぁ証明して見せてよ!」
子供たちの中の一人が言った。
周りの子もその意見に賛同した。
いや、僕には…
僕にはできない。と僕は考えている。
なぜできない?
僕は瞑想を思い出した。
僕はできないと考えている。僕はできないと考えている。
胸のあたりが締め付けられるようだ。僕の胸のあたりが締め付けられるようだ。
逃げたいと考えた。逃げたいと考えた。逃げたいと考えた。
逃げてはいけないと考えた。逃げてはいけないと考えた。
僕は不幸を知ったのか…な。
よくわからないな。
そうだとしておこう。
原因は、なぜ不幸か。
僕は自分では説明上手だとは思わない…。
でも杏は上手だと言ってくれた。
僕は子供とのコミュニケーションを取ったことがない。
これか、原因は。
どうすれば…。
杏が近づいてきた。
「あんた迷ってるのね。大丈夫よ、子供たちとの間には私が入るから。」
「え、あぁ。」
僕の心が読まれていた。
しかしどうしよう。
「だれでも最初が難しいのよ。わたしもそう。たぶんみんなそう。でも安心して、何かあっても私が何とかするわ。」
杏は胸を張って答えた。
僕は悩んでいる。僕は悩んでいる。僕は悩んでいる。
僕は自分が悩んでいると思っている。僕は自分が悩んでいると思っている。僕は自分が悩んでいると思っている。
自分を観察していると、意識が薄れていった。
失敗しそうでも、杏がいてくれる。誰でもみな、最初が難しい。僕の悩みは、みんなが持っている。
「…わかった。教えてみる。」
そう言って僕は杏と一緒に、子供たちへ向かった。
三か月まであと89日
瞑想を始めてから、三日がたった。
正確には瞑想を始めたとは言えない。僕は三日の間、この部屋に入ってから座って、ぼーっとするだけだった。
こんなのでいいのかな、余裕すぎる。
僕は、今日から一呼吸してみることにした。
三か月まであと85日
瞑想を始めてからおよそ一週間がたった。
僕は一呼吸だけすることに慣れ、今度は一分間呼吸に集中してみた。
楽だった。
呼吸に意識を向けていると、気が付かないうちに別の事を考えていた。
子供たちにどうやって学んでもらえるか。今度は杏を…。
いかんいかん。それはあまりにも…。あ、今僕は考えていたな。
考えていたな。考えていたな。
思考が薄れていく。
そして再び呼吸を眺める。
三か月まであと78日
瞑想を始めてからおよそ二週間がたった。
僕は今、瞑想を五分間やっている。
この前は三分間だったが飽きがやってきて、時間を増やした。早く二十分間やってみたいものだ。
なんというか、以前とは違う感覚が芽生えてきた。
なんというか、自分を後ろか眺めているような感覚だ。
この感覚は心地いい。
三か月まであと64日
瞑想を始めてからおよそ一か月がたった。
僕は今、十五分間瞑想をしている、ただ呼吸を眺めている。
しかし途中で意識は入れ替わるし、何度だってある。
しかし、それは悪いことではない。
この感覚。
意識が逸れる事に気づく感覚。
そして戻す習慣。
それが不幸に気づくということにつながっている。
僕は再び瞑想に励む。
そういえば子供たちとコミュニケーションを取れるようになってきたな。
杏の仲介はあるけど、僕自身が、子供たちとやり取りをできるようになってきたな。
思考がよぎる。
父は僕に対して、怯えている。
理解できる気がした。
教える側は、相手を自分のと同じ土俵に引き上げるという事。
教えられる側は、教える側に近づいていくという事。
最近子供たちの中で、僕が同じ年のときより、強い子供がいた。
僕は子供たちに越えられることは問題でなく、楽しみだった。
しかし父は、僕が復讐すると考えているならば、恐れる理由としては十分だ。
越えられる前に、摘み取ってしまおう。
支配できないに領域に成長する前に、弱めてしまおう。
僕が摘み取られたのは、何だろう。
父は僕から何かを奪った。
そうしないと、都合が悪いから。
力を残したまま、心だけを抜き取る。
母にもそうしたのだろうか…。
あの本の女性は、不幸には見えなかった。
今となってはわからない。
三か月まであと57日
僕は呼吸瞑想を二十分間続けていた。
毎日を重ねていく。飽きるまでやって、エスカレートさせていく。
この繰り返しだった。
三か月まであと50日
前回から一週間がたち、自分をありのままに観察する瞑想に切り替えた。
これは難しかった。
呼吸の瞑想のおかげで、瞑想の習慣はできていたものの、難易度があがった。
気が付くと、思考してしまっている。
三か月まであと43日
変化は現れた。
僕が瞑想をしていると、目の前に、僕が現れた。
目をつぶっているのに。
僕がいる。
「お前さんに魔法をかけた。」
老婆の声が聞こえた。
「あるがままをありのままにただ観察する瞑想をし、慣れてくると、自分の一部が具体化する仕組みにしてある。」
老婆は続ける
「最後の試練じゃ。この者と関われ。そうすれば、最終的に父との関係に終止符を打つことができる力が生まれるだろう。生まれる…いや、そうではないか。」
老婆は考えた。
「この能力は厄介なものでな、人から言われてしまうと、自分のものでなくなってしまうのじゃ。自分のものでなくなると、それは強迫的な性質を帯びる。強迫的なそれは、もはや別物なのじゃ。これ以上は言えん。健闘を祈っておる。」
老婆の声は消えた。
目の前の僕は、黒い靄を帯び、刀を抜いて、構えている。
僕は構えていた。
どうしよう。
僕は悩んでいる。
僕は眺め続けた。
三か月まであと一か月。
僕と僕は切り合っていた。
最初は眺め続けていたが、変化がなかった。
彼は刀を抜いている、彼に勝てば、力を得るのではないか。
僕が刀を抜いて構えると、彼も同じ構えをとった。
僕は彼の殺気に緊張し、殺気が立つ。
僕の殺気に気づいたのか、彼の殺気が強くなった。
この繰り返しだった。しかし確実にエスカレートしていく。
その後、彼は攻撃をしてきた。
僕は反撃する。
その結果、切り合いになった。
彼は僕を攻撃してきている。僕も攻撃する。
三か月まであと三週間。
僕は彼と戦い続けていた。
僕が強くなる度、彼も強くなっていった。
こういう事なのだろうか。
一つ上の課題に取り組むことによって、成長していく。という事なのだろうか。
僕が父に、復讐するために、戦いの実力をあげるという事だったのだろうか。
ではこの瞑想の意味は。
自分を見て、知ると同時に、自分の一つ上を見る事が出来る。という意味なのだろうか。
僕は腑に落ちない。僕は腑に落ちていない。僕は腑に落ちていない。
何がだろう。
復讐。
物語の主人公は、父を殺して、復讐した。
あの物語が僕の父と母の人生ならば、物語の結末はハッピーエンドだったとしても、その後の現実は、不幸だ。
父は、僕に対して、恐怖している。僕が父に対して、復讐すると考えている。
自分がしたから、自分の息子も同じだろうと。
僕は父に復讐するのだろうか。ここに来なければ、そうしていたのかもしれない。
僕が父を殺したら、僕は自分の息子を、殺してしまうのでは。
僕は子供を殺すのだろうか。
今の僕にはわからない。
しかし今僕が教えている子供たちを殺すとは考えられない。
僕は彼らが好きだ。
杏がいない時でも、心地よく話せている。
いや、心地よくもあって、緊張もある。
それでいい。
しかし分からない。
今僕はわからないと考えている。今僕はわからないと考えている。今僕はわからないと考えている。
なら、分かることを。
僕は、僕と切り合っている。
僕は恐怖している。やらなきゃやられる。やらなきゃやられる。
やらなきゃやられる?
父のようだ。
どういう事だろう。
やらなきゃやられる。
僕はどうすれば…
僕らは切り合い続けている。
一度、進んでしまってからは、止まることは難しい。
三か月まであと2週間。
僕が現れてから、一週間がたった。
僕は悩んでいた。
切り合いを繰り返してきたが、彼はなくならない。
彼はいつも僕より強かった。
警戒心だったり、戦闘力だったり。
しかし僕観察しているときは、彼は攻撃してこなかった。
刀を構え、僕を狙ってはいたけど。
どうしたものか。
老婆は言った。僕の一部、生まれない力、強迫的でない力。
彼は僕の一部であり、僕は彼をどうにかするには、力が必要らしい。
しかしそ新たに生まれはしない。そして、誰かに言われてできるようなものでもない。
僕は分からない。
三か月まであと一週間。
僕は眺めていた。自分を。
あと一週間しかない。
あと一週間たたないうちにぼくは、父と戦いうことになるだろう。戦うかもわからないけど、今の僕は父を倒せるかもしれない。
僕との戦いで、実力は上がっている。
しかし父と同じだ。僕は父と同じにはなりたくない。
バンッ
僕が瞑想していると、扉が開いた。
瞑想が途切れると同時に、もう一人の僕も消える。
扉を開けたのは杏だった。
「湊っ!大変なの!!!
蛇が現れたそうだ。
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