第7話  僕たちの勝利への出会い

足音が近づいていたが、僕には力がない。僕はうなだれていた。

足音は止まることなく、僕にタックルしてきた。


「ふせて!」


銃声が鳴り響いく。


僕は倒され、柔らかいものに包まれた。

その柔らかい何かに覆われ、僕に銃弾は当たらなかった。

血の匂いが混ざった、甘い匂いがする。


僕はその正体を確認する。


「どうして君が?」


杏だった。


彼女から返事はない。


銃声がやむと、彼女は僕に崩れ落ちた。


青い光が、彼女をまとった。

首を折った時と同じだった。

彼女が再び起き上がる。


「いいったあぁ。」


「大丈夫?」


「…大丈夫なわけ、無いでしょ…」


「どうしてここに。」


「あなたが死にそうだったからに決まっているでしょ!」


彼女は、やはり泣いていた。


「君には…関係がない。それに君は僕を見捨てるべきだ。僕は君がおぼれかけているのを無視した。」

僕は冷静に驚いている。


「関係なくない。あたしの目の前で、人が苦しんでいるなら、助けなきゃ。」


「…意味が分からない。僕は他人で、君を不幸にした人間だ。そんな相手を守ろうとするなんて・・・」


「あたしがあんたを守る事が出来る。そう分かっただけで、それ以外に理由なんていらないのよ。」


「でも君が犠牲になってしまう。」


銃弾が流れてきた。


再び杏は僕の全身を覆うように被さった。

彼女は再び僕に倒れ込む。


なぜこの子は僕をかばうのだろう。


僕はもう死んでいるのに。


銃声が止む。


僕の体に銃弾は当たらなかったが、痛みを感じた。


なぜ彼女は。


青い光が杏を包む。

彼女は意識を取り戻す。


「私にはあなたを助ける力がある。私はあなたを助けたいと思った。それで十分。あなたはなぜ諦めるの?あなたにできることは、もう本当にないの?」


僕にできること


僕は今、倒れる事が出来ている。

彼女に守られる事が出来ている。


いや違う。


倒される、守られる、だ。


僕が自ら働きかける事。


身体は…まだ動く。

手には刀。


土人たちを倒す、なぜ。


僕は父に逆らえない。…なぜ?


老婆は心の問題だといった。


僕の今の心は、土人に殺されたいのか、いや違う。

いや、…それもある。ほかには?


抵抗。


抑圧することもなく、復讐することもなく、抗う。


僕はわからない。

ただ、もう少しだけ、考える時間を。


そのためには。


今、目の前のこと。


土人たちを倒す。問題を解決するために、今、目の前のことを。


僕は土人を。


かばってくれた杏を。




鞘の中のからは青い炎が溢れ、僕を包んだ。


「ありがとう」


僕は杏を抱きしめる。


僕は立ち上がり、刀を抜いた。


「いいえ…。………あなたって意外とかわいい顔してるわよ。」


杏はほほ笑み、そして地面に倒れた。


僕は刀を構え、上空へ跳んだ。


「僕は君たちの心を切る。」


土人たちに向かって、刀を振りかざした。

刀から青い斬撃が飛ぶ。


刀の斬撃に当てられた土人たちは、硬直し、仮面は割れた。


空から土人たちに斬撃を放つ。

被弾した土人たちは、動かなくなった。






空中から降りても着地できず、片足から崩れ、僕は地面に倒れてしまった。


杏が這い寄ってくる。


「大丈夫!?」


「杏、せっかく助けてもらったけど、もう無理みたいだ。血が…。

 人生の最後に、君に出会えてよかった。ごめん。君は幻覚なんかじゃなかった。君は存在する」


「当り前じゃない。」


彼女はほほ笑んでいた。


どうやら僕をあきらめてくれたらしい。僕が助からないと分かったようだ。


頭上に老婆が現れた。


「お疲れさまじゃ。待っていたよ。」


なんだ?


「おぬしは成した。」


成した?


「しっかりと謝らせてほしいのじゃが、あと三十秒もない。奴らはまだまだ襲ってくる。

 おぬしに最後…、質問じゃ」


「なんだ。」


老人は二つの選択肢を僕に伝えた。


「真実を知るために自然界に来るか。それとも人界に残り、父を恐れたまま生きるか。」


よくわからない世界に行くのか。苦しみながら生きるのか。


僕はどうする。


いや決まっている。


「僕は前へ進む。いや、進んでみたい。もしあなた方の世界へ行き、それが見つかるなら。僕は行く。」


「よろしい。」


老婆は僕と杏に触れた、すると僕たちの体が少し浮いた。


老婆はクジラの体を杖で、三回たたいた。クジラは頭を上げ、おしりから泉の下へ潜っていった。


僕たちは宙に浮いたままだ。


クジラは僕たちの真下で、大きく口を開いた。


口の中は夜空のように見えた。


「さぁ、世界へ。」


僕たちはゆっくりと降下していく。



クジラの口の中へ入っていった。





人型の影が、僕たちの上に現れたが、次の瞬間、クジラは口をパクっと閉じた。

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