第6/7話 僕たちの破壊の秘密

その発砲を合図に、僕たちを囲うように、崖の上で土人たちが銃を構えた。


土人たちはカイラクの仮面をつけている。


彼らは父の土人だ。なぜここに。


土人たちは僕と老婆を狙っている。


僕は標準を合わされないように、泉の崖下へ飛び降りた。


老婆は杖を離し、両腕をあげているのが見えた。


僕は崖を垂直に上り、土人たちの頭上に飛び出た。


するとカイラクたちは僕を撃ってきた。


僕は迫る弾丸を、たたき切っていく。


着地すると、鞘のまま刀で土人達を殴り倒す。


一体、二体、三体…


スナイパーやアサルトは近距離では扱いにくいため、僕の方が有利に事を進められた。

しかし十体目を飛ばした後、サブマシンガンを持った土人が現れた。


僕は崖下に跳んだ。


土人達も崖を降りてきた。


崖下に土人、崖上にも土人がいる。


奴らは何体いるんだ。


僕は崖を降りては下の土人を、崖を登っては上の土人を狩っていく。


二十体、三十体、四十体・・・


まるできりがなかった。


くそ、刀を抜くべきか。


銃弾をかわし、クジラの上に戻る。


老婆はバリアを張って耐えていた。


「おいあんた、攻撃はできないのか。」

「わしにその気はない。」

「くそ、やられるぞ。」


僕はクジラの上を跳び回る。


なぜカイラクたちがいるんだ、なぜ僕を襲う。


「お前さん、リュウダイの命令でここに来たな?」

「…そうだ。」

「はめられたのじゃよ。」

「なんだって。」

「リュウダイの性質は、臆病や不安や不信じゃ。誰にでも持っているその性質のなかで、それらが一番秀でてしまっている。お前さんが怖いのじゃよ。」

「父が…僕を…?」


考えられなかった。僕を、父が恐怖しているなんて。


「リュウダイが自分の父を殺したように、息子が自分を殺すかもしれないという恐怖が、奴を動かしているんじゃ。」

「でも、僕は今日、父に殺されかけている。それなのになぜ僕を恐怖する。」

「お前さんの力はきっとリュウダイの全盛期以上じゃろう。しかし心が弱い。臆病なのは遺伝かね。」


老婆の腕が下がる。銃弾をはじいていた空間が、小さくなった。


「いやしかし、僕には…」


僕にも疲れが出てきていた。


何分間も僕は動き続けている。

一度も止まっていない。


土人たちは倒しても倒しても減ることはなかった。


仕方ない。




僕は刀を抜いた。


闇が僕を襲う。




しかし土人を一撃で倒せるようになり、速く動けるようになった。土人たちは減っていく。


僕は土人を切っていく。しかし土人は次々にやってくる。


土人を切るたびに、僕の内臓は膨らんだ。

苦しみが、膨れ上がっていく。怒りが膨れ上がっていく。


僕の呼吸が荒くなる。


しかし土人たちは減るたびに増えていく。


一体何体いるんだ…。


父は僕を殺しに来ている。その数が証拠だった。


格闘タイプの土人も現れた。これでは分が悪い。


百三十体、百四十体、百五十体…。


息が苦しい。


肉体的にも、精神的にも、辛い。

しかし土人は止まない。


十分以上は倒し続けていた。


腕を休ませるため、回避に専念しようと、クジラの上に戻る。


老婆を見ると、銃弾をはじいていた空間は、彼女の目の前まで収縮していた。


老婆を見た瞬間、僕に隙が出来てしまった。


スナイパーのライトが僕のこめかみに当たった。


まずい。


僕は後ろに頭を移動した。


バンッ


次の瞬間、僕の視界が明るくなった。


仮面が砕散した。


そして刀から出る深い闇が、僕に侵入してくる。




僕はすべて殺そうと思った。





刀が心地よかった。

僕の心臓が内側から飛び出そうとしている。


やる


土人たちの群れを狙って、刀を掻き払うと、黒い斬撃が飛んだ。

その斬撃は土人たちを薙ぎ払った。


楽しい


僕は刀を振る事に夢中になった。

土人のいる方へ、光のある方へ、僕は刀を振るう。


気持ちいい


育んだ憎悪が、刀から出ていくようだった。

仮面による抑圧が解放された。


銃弾が一発、僕の足をかすめた。

僕は自分を守ることを忘れている。

痛みに一瞬、我に返るが、もう、どうでもいい。


僕は土人の群れに突っ込んだ。

土人を箒で払うように切っていく。


しかし土人は絶えない。

切っても切ってもいなくならない。


きりがない土人に、僕は飽きてきた。


そうだ、老婆をやろう。


僕はクジラの上に戻り、老婆を確認した。


彼女は姿勢を低くし、空間は彼女にまとわりついていた。


ちょうどいい。

今のこの刀なら、なんでも切れる気がした。

切りたいものを、切れなかったものを、老婆の空間をれる。


僕は刀を上段に構えた。


老婆が縦に割れる事えを想像すると、わくわくした。


しかし土人の銃弾が僕の脇を射止めた。


わき腹がしびれる。


僕は腹が立った。

せっかくのところを邪魔された。


「うぅおおおらぁぁぁ!」


僕は叫びながら、銃弾が飛んできた先へ、斬撃を飛ばした。


被弾した土人がはじけ飛んだ。

しかし崖には傷一つない。


再び老婆の方を向いたが、彼女はいなかった。


「くそ、どこへ行った。」


僕は周囲を見回したが、土人しかいなかった。


土人は増えていた。

気が付くと、全方向、土人で埋め尽くされていた。


僕はクジラの上で、一人、立っていた。


「これは…無理か。」


僕は、あきらめた。


刀の闇は弱まっている。


多種類の拳銃を構えた土人たちは、銃口を僕に向けている。


僕は観念する。

刀を納め、空を見上げた。


僕はどうしたら幸せになっていたのだろうか。


父を殺せば、逃げていれば。


いやもっと前、母を殺さず、うまく逃げきれていたら。


そもそもあの時、僕が死んでいれば。


だけど、もうどうなってもいい。………いや、最後くらい僕は…。




後ろから足音が聞こえてきた。

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