過去の記憶 2/3
僕と母
〈僕と母〉
これは二番目に古い過去の記憶だ。
僕は、思い出すのは、久しぶりだった。
忘れることはなかったけど、思い出せなかった。
僕は父といた。
母とは離れて暮らしていた。
僕は城の中で、教育を受けていた。人体や、地理、計算などを学んでいた。
母と会えなかったけど、僕は意外と楽しかった。
新しい興味が僕を幸せにした。
しかし、途中から、疑惑があった。
大体の知識を身に着けると、僕は土人を相手に、殺しをさせられた。
僕の武器は拳銃だった。
この頃はまだ、拳銃を握れていた。
僕は仮面をつけた土人を倒していく。
この時はまだ、人を殺すとは思っていなかった。いや、気づいていたのかもしれない。
母と面会するのは最初、週に一度だった。
母は会うたびに僕と距離を置いたが、それでも優しく暖かかった。
しかし母はやつれていった。
面会が一か月に一回になった時、僕は暗殺を身に着けていた。
相手は土人形だったが、十分だった。
父は僕の成長を確認する程度に、僕と会っていた。
僕が暗殺すると、父は頭をなでて褒めてくれた。
僕はうれしかった。
僕の中の疑惑は 暗殺のためのトレーニングや、勉強や、娯楽で埋められた。
その時から、仮面を与えられ、つけ始めていた。
さらに僕の部屋も、与えられた。
母との生活も楽しかったが、この生活の方が楽しい。
ある日、母が包丁を手に持って僕の目の前に現れた。
母はの部屋に向かう途中、廊下で出会った。
母は仮面をつけていた。
僕も仮面をつけていた。
「かぁさん?」
母の雰囲気に、僕は緊張した。
母の髪はぼさぼさで、体に力が入っていなかった。
その姿はマリオネットのようだった。
彼女は僕に近づいてくる。
まさか
僕は直感し、否定した。
まさか、刺すつもりじゃ、いや、さすがにないだろう。
母が近づいてくる。
母が近づいてくる。
母が近づいてくる。
目の前。
母は包丁を振り上げ、僕の眉間めがけて、突き落としてきた。
僕は両手を頭の前で交差させ、彼女の腕を受け止める。
「かぁさん!」
母には聞こえていなかった。
力が強い。
僕には耐えきれない。
僕はなんとか腕を押し返し、母と距離をとる。
「かぁさん、どうしたの?!」
母は再び包丁を構えた。
僕の心臓に狙いを定めるように。
くそっ!
僕に、母を攻撃することはできなかった。
したくなかった。
優しくしてくれた母を、会うたびに弱っていく母に暴力は振るえなかった。
僕は走った。
しかし母は追いかけてくる。異常な速さで。
「まって!こないで!」
僕はすぐに追いつかれた。
肩を掴まれ、後ろに引っ張られる。
僕は後ろに倒れた。
母は馬乗りになり、包丁を上に構える。
僕は切先をとらえる。
母が包丁に体重を乗せて突き下ろす。
僕の視界の横を銀の線が走る。
僕は首を横に振り切り、かわした。
しかし、状況は変わらない。次がやってくる。
僕は母を突き倒した。
そうして、マウントから抜け出した。
僕は…母を倒した。
押し倒してしまった。
母は軽く、それは僕を苦しめた。
僕は立ち上がり、走りだす。
このままじゃやられる。逃げなきゃ。
僕は道の先に武器庫ができた事を思い出した。その倉庫は、鍵が取り付けられている。
あそこまで逃げ込めば、何とか…
僕は扉めがけて走る。
しかし母も早い。
後ろを振り向くと、彼女は立ち上がろうとしていた。
僕は全力で走る。
走る。
走る。
走る。
後ろから地面を蹴る音が聞こえる。
ダッダッダッ
母が迫ってきている。
母が来る。
僕の目の前には扉が。
もう少し。
僕は部屋の前に着き、ドアノブを回した。
扉は前に開く。
部屋の中に身体をねじ込ませ、扉を閉めようとした。
目の前には、母がいた。
バタンッガチャッ
ドンッッッ…ガンッガンッガンッ
間に合った…
母は部屋の外で扉をたたいている。
僕は扉を背にして、座り込んだ。
これでとりあえずは…大丈夫だろう…
僕は呼吸を整える。心臓が速い。
次はどうするべきか…。
部屋の中は暗くて見えない。
僕は立ち上がり、壁に手を添えると、扉の横にスイッチを見つけた。
僕はその明かりのスイッチを押した。
目の前に母がいた。
僕は震えあがった。心臓が飛び跳ねる。
彼女は包丁と一緒に突進してきた。
僕は驚きと油断で反応が遅れた。
母の包丁が僕の腕に突き刺さる。
「ぐぁっ」
しびれるような痛みが僕の腕に走る。
僕が転がり込むと同時に、包丁は抜けた。
包丁は、母の手元にある。
「なんでだよ、かぁさん…」
母は落ち着いている。
僕が土人を殺すときと似ていた。
彼女はゆっくり近づいてくる。
母の仮面はほほ笑んでいる。
僕は彼女を眺めたまま、後ろに這い下がった。
どうしよう、死んでしまう。
母は近づいてくる。
まだ死にたくない。
僕は後ろに這い下がる。
母は近づいてくる。
死にたくない。
母は近づいてくる。
生きたい。
僕が後ろに下がっていると、肩が右の棚にぶつかった。
カチャンッ
という音を立てて、黒い塊が僕の手元に落ちてきた。
僕は最初、それがなんだかわからなかった。
母はそれに気づいたようで、走りこんで来た。
僕は手元にあるよくわからないものを、掴もうとした。それは僕を救ってくれる気がした。
しかし、僕はそれを壁の方へはじいてしまった。
まずい!
僕は水中に飛び込むように、黒い塊めがけて体を突っ込ませた。
僕はそれを掴む。
母は目の前だった。
僕は構えた。
僕はその時初めて、それが拳銃だと認識した。
それは、よく手になじんだ。
僕は引き金を引いた。
とても滑らかだった。
ドンッ
母の仮面の眉間に、穴が開いた。
そこから赤い血液が噴出し、僕を紅に染める。
母は膝で立つ。
母の仮面が剥がれ落ちた。
母は、ほほ笑みを、浮かべていた。
そして母は僕になだれ込む。
僕の鼻腔に、血と混ざった母の匂いが届いた。
僕はわからなかった。
何がわからないのか、分からなかった。
僕は仮面の下では無表情だった。
仮面は青白く光りながらうなっている。
そして僕は意識を失った。
その後、僕は拳銃を握る事が出来なくなっていた。
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