第4/7話 僕たちのターゲットのターゲット
「凜…、僕がさっきいた場所に、クジラと、その上に女がいる。」
「…女…鯨、坊ちゃま、確認ですが、それは幻覚ではないですか?」
言われてみれば、僕の幻覚の可能性もあった。
「ねぇ、やっぱり誰かと話してるんでしょ、何を話しているの?」
杏は尋ねてきた。
「静かにしてくれ、幻覚。光のところに何かいるんだ。」僕は自分に言い聞かせた。
あれも僕の幻覚なのだろうか、そうとは考えにくい。
「幻覚?あなた頭のおかしい人?私を幻覚だと思ってるの?」
僕は一度、腕の中にいる杏を見た。
やはり幻覚とは思えない。
杏とは密着する近さで、彼女は温かった。
そして僕はもう一度クジラを見た。
クジラの大きさは泉の四分の一ほどで、泉に中心にある巨木よりは小さい。
光はクジラから放たれていた。
老婆は和服のような衣を着て、杖を持っている。
「凜、幻覚の可能性は低そうだ。僕はクジラを直接見たことがないけど、あれは何というか、リアルすぎる。」
「また無視した…。……ん?クジラ?」
杏はつぶやいた。
「なるほど…。泉の端に坊ちゃまと幻覚の女、巨木を挟んだその反対側に老婆とクジラがいるのですね?」
凜は考えをまとめるように言った。
「あぁ、完全に反対ではないけど。」
杏は、僕の腕から頭を出し、顔をクジラの方に覗き込ませた。
「あ、あれだ!クジラだ!」
杏は無くしものを見つけたかのように叫んだ。
彼女は僕のコートから飛び出し、泉のふちに沿って、クジラの方へ走っていった。
「おい、ちょっと待て!」
僕は迷った。
追いかけるか、しかし彼女は幻かもしれない。
もし老婆もターゲットだとしたら、僕が見つかるのはまずい、どうする。
「坊ちゃま、察するに、女が逃げ出したのかと思われます。もしかしたらターゲットは二人の可能性もあるかと。ですので、どちらもターゲットとみて行動しましょう。」
「わかった。ドレスの女はクジラへ向かっている、彼女がクジラと接触すると同時に、僕が老婆と接触して、殺した後、次にドレスを殺る。」
「…招致しました。」
僕は杏がクジラに到着するタイミングを合わせた。
僕は目の前の泉を飛び越えるため、水際から5歩離れる。
その間、杏の姿は草木で見えなくなった。
彼女がクジラへ着くまでの時間を計るため、僕は耳を澄ませた。
草々のこすれる音が少しずつ離れていく。
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今だ!
僕は走り、泉の手前で地面を蹴る。そして、宙を舞った。
水面が離れていく。
老婆とクジラはまだ遠い。
僕は放物線を描くように泉の上を流れていった。
頂上に達したところで、僕は刀を抜いた。そして落ちるように老婆へ迫っていく。
………3、クジラの背中に乗っている老婆まで、残り5メートル。
……2、視界の右端に、杏の白いドレスが現れた。
…1、今、老婆が目の前に
僕は老婆に刀を叩き込んだ。
しかし、刀は弾かれた。
そのとき老婆の頭上の空間は、水紋のように歪んだ。
弾かれた直後、僕が老婆の顔を確認すると、彼女はほほえんでいた。
そして僕の方を振り向いて言った。
「お前さんがリュウダイの息子かい?」
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