第3/7話 僕たちのターゲットの不死身

女は僕の鼻を人差し指でつんつんしながら罵倒してきた。


「大体なんで泉に落とすのよ!服を破くことになったじゃない!しかもびしょ濡れ!気づいたら死んでなくて、仕方なく上がろうとしたら重くて、だから上るために破って、今日のために一番お気に入りの着てきたのに!あぁもう最っっっっっっ低!」


彼女は頭を抱えている。


僕は目の前の光景が信じられなかった。

まぼろし? 刀の効果か、それとも仮面か、幻覚が見える。


「ちょっと無視!?謝罪もないわけ?いい度胸じゃない!ねぇ、聞いてん…、の!」

の! のタイミングで彼女は殴り掛かってきた。


僕は後ろに飛び、刀に手を添える。


幻覚だよな、僕の殺意が残っていたのか。ということは刀のせいか、僕に殺させようと。


僕は推測した後、近くの木の上に跳んだ。

下にいるターゲットを見ながら、凜に連絡した。


「凜、この刀に副作用はあるか。どうやら幻覚が見えているらしい。」

僕の口調は速い。


「…? いえ、そのような事はないと思いますが」


「僕は父からこの刀を授けられた時、切りたいものが切れる刀と言われ、渡された。そのこと以外には何も、凜は?」


「私には何も…。坊ちゃま、幻覚が見えてらっしゃるのですか?そちらの状況は…

「おーい!おりてこーい!この卑怯者!臆病者!早く降りてこないともっと酷い目にあわすわよ!」


凜が答えている途中に、幻が脅してきた。

さらに小石を投げつけてきた。

僕はこんな幻覚を見るのかと、自分が嫌になった。


「さっき殺したターゲットが泉から這い上がってきた…という幻覚が今見えている。刀で刺した時、確実にやった感触はあったんだけど、それでも刀が殺したりないのか、ターゲットが生きているように見えるんだ。」


「なるほど、ターゲットが…、すみません…。刀のほうは情報をもっていません。」


「わかった。もう少し様子を見てみる。」


僕は見下ろす。


女が石を投げつけてきた。


「坊ちゃま…」凜がつぶやく


「いい加減おりてなさーい!」


僕は木から降り、彼女の背後をとった。


刀は抜きたくない。


僕は羽交い絞めをした。


すると、彼女の柔らかな肉感が僕を誘ってきた。


濡れた髪からは甘い匂いがし、破れた襟元から見える胸元の白い丘の膨らみに、僕の視線は移動してしまう。華奢な彼女の肌身は吸いつき、やさしくしないと崩れてしまうくらいに柔らかだった。


キィィン...

僕に、抱きしめてみたいという思いが膨れてきたが、仮面がそれを抑える。


「ちょ、触らないでよ!」


「黙れ幻覚」


そして彼女の首を、ひねった。鈍い音がした。

彼女は倒れこみ、動かなくなった。


……彼女は再び動き出した。曲がらない方向に曲がった首が淡い青色の光に包まれ、戻っていく。

やはり幻覚か。


女は立ち上がり、激怒した。


「ちょっとあんた! あんた本当に最低ね!!!普通女の子の首を折る?!」


僕はもう一度ひねった。鈍い音がした。

彼女は倒れこみ、動かなくなった。


…動いた。曲がらない方向に曲がった首が淡い青色の光に包まれ、戻っていく。

やはり幻覚だな。


彼女は立ち上がり、激怒した。


「話聞いてたの!?くず男! こっちは覚えてるんだからね⁈曲げられた瞬間のこと!?ちょっと怖いんだからね!?」


僕はもう一度ひねった。鈍い音がした。

彼女は倒れこみ、動かなくなった。


…動いた。曲がらない方向に曲がった首が淡い青色の光に包まれ、戻っていく。

幻覚だ。


彼女は立ち上がり、激怒する。


僕はもう一度

「もういいわよ!」


彼女は僕と距離をとり、にらみつけてきた。


数秒間、目が合った。


その後、僕の視線は身体の方に流れてしまう。


正面から見た姿は、魅力を増していた。


僕は目線を逸らし、再び木の上に跳んだ。


「凜、何度か殺害を試みたが、どれも失敗した。もう死んだものとみるか、それともまだ生きているものとしてみるか。」


「ターゲットの姿が認識できる以上、まだ判断は早いかと思います。今は幻覚かどうか見極めることが目標かと。」


「了解した。」


再び木から降り、ターゲットの背後をとった。


背中合わせになり、彼女を見ないように努めた。

羽交い絞めのときの立ち振る舞いや、筋肉の付き方、殴りかかってきたときの動きから、彼女が危険ではないと判断した。


それよりも、もう一度彼女の肢体に触れることの方が危険だった。


僕の中で眠らされていた何かが、揺らいだ。


「いい加減に…」


「もう一度殺されたくなければ質問に答えろ」

僕は鞘を彼女の脇腹に当てる。


「………殺せてないじゃない。…わかったわよ、何を答えればいいの。」


この女が幻覚か証明したい。


しかし何を聞けばいい。


幻覚だとしたら。


もし僕が作り出した幻ならば、答えはすべて僕に関連するだろう。


「名前は」


「杏。」

彼女は答えた


杏、どういう意味なのだろう。


「どこに住んでいる」


「お城」


これは当たりだ。


「年齢は」


「十七」


これも同じだ。


「趣味は」


「読書………と抵抗。」


読書は同じだが…、テイコウはわからない。


「…テイコウとは」


「…お勉強の本を破ったり、親にムカついたときにお城の壁を壊したり、部屋に引きこもったり…、………あら、私ってしょうもないことをしていたのね…。」


彼女はため息をついた。


「…テイコウは一つじゃないのか?」


僕はその言葉に興味をそそられた。


「?…そうじゃないの?いろいろあるでしょう。まぁ私がやったことは何の意味もないだろうけど…。」


どういう意味なのだろう。



「…何かを抱きしめたいと思う気持ちを抑える事とか?」


「………うん? たぶん。でもそれは抑圧に近いんじゃないかな?」


彼女は説明した。

テイコウは抑圧とは違うのか。


「例えば、憎い相手がいて、そいつを殺すこととかは?」

僕は尋ねた。

それは本の内容だった。


「うーん、そうかも?よくわからないけど。あぁでも、それはどちらかというと復讐かも?」

彼女は首をかしげる。


復讐とも違う。


「杏、お前の親は…」


僕は、親という言葉に意識が向いた。


「…父と母が…。でも母はいないようなものね…。」


杏の声は詰まった。


その境遇は僕と似ていた。やはり幻なのか…。


僕は父のことをどう思っているのだろう。


心臓が動き始める。


この幻覚は何と答えるのだろうか。


聞いてはいけない、と頭の中で声が聞こえた気がした。


こめかみが委縮する。

鼓動は早い、しかし僕は聞かなくてはならない、聞いてはいけない。

しかし聞きたい。

僕の幻は僕の本心を教えてくれるのではないか。

僕は父から、この状況から何か変化を起こせるのではないか。

もしかしたら…。


仮面が音を立てた。


同時に僕の鼓動は収まっていく。


その直後、僕は抵抗を感じ、次の質問をした。


「杏、お前の…」

しかし僕の言葉はさえぎられた。


僕たちの向かいの水辺が、激しく光った。




一面を照らした光は、僕が最初に着いた場所にあった。


突風が起こる。


僕は身をかがめ、光を手で遮る。

風が轟く中、僕は凜に伝えた。


「凜!僕が最初に着いたところが、ターゲットの場所が光った。もしかしたら!」

「…! 坊ちゃまそれは」


「きゃぁ!」


風に飛ばされそうになった杏が凜の言葉を遮る。


「凜、もしかしたら僕たちは勘違いしていたのかもしれない!」


僕は叫びながら杏の前に移動し、包むようにコートを広げ、彼女を風から防いだ。


「あ、ありがとう?」

杏は言った。


「もしそれが本当のターゲットだとしたらその女は…」

凜が言った。



「わからない、どうなっているのか。」

僕は腕の中にいる杏に目を向けた。


「…?誰かと話してるの?」杏は上目遣いだった。

僕はその質問に答えなかった。


30秒ほど経つと、光と風が弱くなってきた。

光は直視できるくらいに収まり、僕は泉の反対側を見た。


そこには巨大なクジラがいて、背中の上に人を乗せていた。


目を凝らすと、その上に立っている人は、老婆だった。




女だ…

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