第2/7話 僕たちの刀と仮面の暗殺の失敗

「任務………完了」

僕は荒い呼吸で、刀を鞘に押し込む。


刀が鞘から抜けだそうともがく。

その間、黒い霧のような塊があふれ、僕を取り込むように体に纏わりついてくる。

さらに刀は、僕の思考に憎悪を注ぎ込んでくる。


父からもらった仮面が、それを抑える。

シュウゥゥゥと大きな音を立て、光っている。


暴走するわけにはいかないという意識はあったが、僕の中の悪が膨張して、早く発散したいという衝動が、その意識を凌駕していた。


すべてをぶちまけてしまいたい。


破壊してしまいたい。


そうすれば報われるという期待がある。


しかし仮面も抵抗する。

ここで暴れてはいけない、破壊してはいけない。

彼女の死体を追ってはいけない。

任務は終わった。


「うっぐぅ、苦しい…!、気持ち悪い…。」


僕の内臓はせりあがりながらも、僕の頭は痺れているような、浮かんでいるような感覚だった。


「坊ちゃま!」


痛覚ではない痛みにも襲われていた。僕の内側が、僕に攻撃する。


人を殺した後の刀は、狂暴だった。

刀も、仮面も、僕を乗っ取ろうと、対立している。

器である僕を超えて膨張する。僕は抑えるのに必死だった。


僕は泉の近くで転がりながら、体の内側から噴出しようとするマグマを抑え込む作業を繰り返していた。

その間、凜は声をかけ続けてくれた。

そのおかげで、意識を保ち、暴走せずにいられた。


数分間、その状態だった。


僕は落ち着き、仮面の浮遊感を感じてきた後、仮面を外し、地面に置いた。

そしてあおむけになった。

見上げた空は美しかった。


「坊ちゃま…お疲れ様です…。」

僕の横にある仮面からの声は、涙ぐんでいた。


「………お疲れさま。ありがとう。」


「坊ちゃま…その、こんな時ですが…、いえ、今だからこそ。 この仕事を、終わりにしませんか。」


「凜、何回も言ってるけど、僕には無理だ。今日わかったよ、僕は父にはかなわない。逃げることもできない。もし、そんなことはあり得ないけど、そうするとしても、どうやって父と戦うか、どうやって逃げて、どう生活していけばいいかわからないんだ。わからない。そんな僕と、君を一緒にはいさせられない。」


「坊ちゃまにはできます。戦闘の実力は…互角だと思います。BOSSは最近、年を取られました。能力は下がっているものと思われます。証拠に…土人たちの動きに変化があります。BOSSの魔法の効果が薄れているのかと…。」


土人の変化には僕も気づいていたが、凜も気づいていたのは驚きだった。

しかし彼女は、僕より組織と近かった。

凜はこの組織の情報を僕よりも持っている。


「だけど…それでも、いや、僕は…」


「それならやはり逃げましょう!私は自分で自分の身を守れます。この組織内で坊ちゃまに勝てる相手などいません。BOSSが自ら出向くことは…」


「いや、父が自ら出向くことはある。一度、僕を、そして母を追っている。」


「っ………。」

僕の過去を知っているため、凜は黙ってしまった。


ぱしゃっ


泉から音が聞こえた。

僕は跳ね起き、水辺から距離をとる。


僕は音の方を注視した。


「坊ちゃま…?」


と凜の声。


水辺には、這い上がろうとするガラスのような手が見えた。


僕は刀を鞘に納めたまま、構えた。

仮面をしていないことに気づき、地面からもぎ取って装着した。

腕が泉から、這い上がってきた後、縦半分のティアラが見えた。


ターゲットで間違いなかった。


濡れて艶を増した金色の髪、純白の破れたドレス、その片膝からでた細い脚。

這い出てくる度に美しいものが現れた。


全身が出たことを確認し、僕は距離を詰めた。

そして刀を振り下ろしす。


ターゲットは、刀を肩の肉で受け止めた。

僕は硬直した。



「いたい! ちょっとあんた!素人!?ちゃんと人殺したことある!?」

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