第5話  僕たちの暗殺の始まり

父に命令を言い渡された後、僕は部屋を出た。


父は僕に何も言わず、なでるのをやめた。


行け、という事だと僕は解釈し、膝立ちに戻り、頭を下げた。

そして部屋を出た。


そこから記憶はなく、気が付いたら目の前に、凜が立っていた。


「おかえりなさいませ、坊ちゃま。」


凜はお辞儀をし、何も言わず、僕にほほえんだ。


「ただいま」


僕はそうつぶやくと、任務に向かうために部屋を見渡した。しかし、凜が準備を終わらせていた。


「坊ちゃま、これから任務に向かっていただきます。………私が言うまでもないと思いますが、この刀はぎりぎりまで抜かないでおいてください。回を増すごとに強力になっていると思われますので。」


凜は刀を片手に持って僕に近づき、もう片方の手で僕の首筋そして頬に、布を当ててくれた。

僕は自分の首から血が流れていることを忘れていた。


「わかった。ありがとう。」

そう言って僕は、凜から刀を受け取り、腰に装着した。


僕が外界の扉の正面に歩いていくと、凜は扉を開けた。


扉の外は夜で、冷たい風が吹き荒れていた。風が僕の部屋に入り込んでくる。

空を見上げると、星々が無数に煌めいていた。


この城は、山脈の頂上にあり、この部屋は城の頂上にあった。街からは、およそ3400メートル、地上からは800メートルの高さがある。


見下ろすと、樹林が一面に輝く。僕は普段この景色を眺めると、心が癒された。

しかし今は癒しではなく、高揚している。


もし………コートを広げなければ…。

僕は想像する。


僕の口角は上がっていった。

見上げると、星々が煌めいている。なぜだろう、僕は彼らに、呼ばれているのではないか。


「坊ちゃま、私がサポートしますので、仮面をお付けになってください。」


凜の言葉に、僕ははっとする。

強風が部屋にねじり込んでくるため、彼女の声は大きく、白銀の髪が乱れていた。

僕は殺しに行かなくては。


僕は仮面をつけ、コートを身にまとった。

僕が仮面をあてがうと、それは淡い青色に光り、シュウゥと音を立てた。


仮面には、父によって魔法がかけられている。興奮した時や、何か不快になったときに着けると、落ち着ついた。頭が冴え、浮遊感を感じる。

そのとき仮面は、薄く光り、音を立てる。その反応は魔法が働いた証拠だった。


刀による浸食も、これで抑えていた。


普段、目的地へ飛ぶとき、まずコートを体に密着させて扉を降り、落ちながら風の流れをつかむ。

そして腕に纏ったコートをを水かきのように広げてから、風に乗って飛行する。

僕たちはこの外套を重宝していた。この装備の色は暗く、闇に紛れることが可能で、音はなく、高速で移動できる。


「ケーキを用意して待っております。…ご武運をお祈りしております。」


凜は頭を下げた。


僕は反応に困ってしまう。何を言ったらいいのか。


「ありがとう。」


僕はつぶやいた。


「じゃあ行ってくるよ」

僕は外と扉の境界部に足をかけ、凜の方を見た。


「行ってらっしゃいませ。」


凜は僕を見つめていた。


僕は仮面越しに、目だけで笑って返した。

そして空へと飛びこんだ。

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