第4/5話 僕たちの背後に父の殺意
「久しぶりだな。湊。」
父の一言で、僕は固まった。
「お久しぶりです、父上。」
僕は声を詰まらせた。
「十七歳、おめでとう。これで成人だ。」
僕は父を見上げたが、彼の背後から赤白い光が射し、父の顔は視認できなかった。しかしそれは僕に都合が良かった。
父の影を確認した後、僕は片膝を立てて座り、頭を下げた。
部屋の中には数十体の土人が、中心の階段を囲むように配置されていた。
中には人型ではない、四足歩行の土人や、腕が六本だったり、足がムカデのような土人もいた。他にも、動物や虫に似た土人形があったが、全てにカイラクの仮面がついている。
僕の前に立っているホホエミの土人が、親しかった。
え。
目の前でホホエミの土人が爆発した。
宙に粉塵が舞い、地面に土屑が降る。僕と同じ外套、ブーツ、仮面。
何が起こった。
爆散を合図に、カイラクの土人たちが死骸に群がり、ゴミを回収していく。
そして掃除し終えたカイラクたちは、元の位置に戻った。
僕の思考は止まった。
一瞬の出来事だった。
静寂。
僕は我に返り、父の方を確認した。しかし彼はいなかった。
僕の前に、地面が衝突してきた。
僕の腕は後方にねじり上げられ、頭は何かに押し付けられている。背中にも圧がかかり、身動きが取れない。
遅れて、僕の腕に激痛が走る。
「な、んだっ…⁈。」
喉元にナイフが突きつけられていた。
「小僧。これはなんだ」
僕の背後で声が響いた。父が殺しに来ていた。
父にこれと言われ、僕は一瞬わからなかったが、首元に押し込まれたため、ナイフの事だと気付いた。
僕は答えなければならない。
「これは僕のではありません、背中についていたもので、さっき取ったんです、土人の背中から、ここに来る前に、拾ったんです!」
「なぜ持ってきた」
緊張で忘れていた。
「あの、すみません、ないんです、理由は!ただそのまま持っていただけで。」
僕は肺をつぶされながら声を出した。僕は正直に答えられなかった。
ナイフはあと一歩のところまで来ている。
「なぜ忘れた」
父の声は深い。
あなたを恐れていたから。とは言えなかった。しかしそれは正直な理由だった。しかし父に敵意を持っていると思われてしまう。
僕はどうする。
「恐れていたんです、僕はきっと、その、死ぬことを、無意識に、だから無意識にナイフを持っていたのだと、恐怖するあまりに、無意識に、自らを守るためにナイフを!」
わけがわからない。
大丈夫か、今の答えは。父を満足させないと。何か答えないと。
僕が弁明にもがいていると、体が、軽くなった。僕を押さえつけていたものが拘束を解いたようだった。
「立て」
と背後から父の声が聞こえた。
僕は直立し、命令を待った。
「こちらを向け」
振り向くと、離れたところで、父が椅子に座っていた。
僕は父の姿を見たのは久しぶりだった。彼は髪を白髪に染め上げ、後ろに流していた。顔立ちは非常に整っている。
その面影は僕と似ていた、いや、僕が似ているのだが。
父は杖を持ち、足を組んで、僕のことを見ている。というより、僕の目の奥を眺めているようだった。
僕は恐怖した。
「こちらにきなさい。」
父の声が、柔らかくなった。
僕は彼の目の前で、ひざまずいた。
命令されたわけでもないが、ひざまずくことが当たり前だった。
父は足を組むのをやめ、僕の頭に手を伸ばし、自分の膝へ寄せた。
僕は手を伸ばされた時、体を震わせてしまったが、その後は身を預けた。
「命令だ。お前は今から仕事に向かうことになる。指定されたところにいる女を、あの刀で殺せ。」
父は顔を正面にむけたまま、僕の頭を撫でた。
僕は涙がでた。
僕は父の膝の上で、泣いた。
泣きながら僕は、自分の首から滴下した血の広がりを、眺めていた。
僕は脱力感に襲われていた。なんというか、どうしようもない。
悔しいのか、嬉しいのか、諦めか、よくわからなくなった。
もともとよくわかっていないのだけど、今の自分は、僕の理解を超えている。
しかし一つ理解できた。僕は逃れられないだろう。
僕はこの人に逆らえないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます