第2/5話 僕たちと土人の城の中
僕と土人は部屋を出てから、彼の持つランプの明かりを頼りに、石造りの廊下を歩いていった。歩いていくと、目の前に、下りのらせん階段が現れた。
城の中は今、こういう作りになっているのか。
僕は自分の部屋の中だけで生活しているため、城内へ入るのは久しぶりだった。
僕の部屋には、扉が二つある。一つは任務へ向かうとき、外界へ出る扉。もう一つはこの孤城の中へとつながる扉だ。食事や娯楽は凜に頼めば届けてくれるし、シャワーやトイレは部屋の中にある。自室での生活は、父に与えられた快適な環境だった。
僕は土人の背後をついていった。彼の背中を見てみると、中心が盛り上がり、コートが浮き出ていた。
「君、背中を見せてごらん。」
僕は自分より一回り大きい土人の背中に、そう言った。
土人は立ち止まり、振りむいたが、何事もなかったかのように再び歩き出した。
僕は驚いた。土人が僕の声に反応した。
彼らは父が設定したこと以外は行動しない。彼に振り向いてもらうつもりは、あったのかもしれないけれど、全く信じてはいなかった。
父がミスをした、いや、そんなはずはない。
でも振り向いたよな、今。
わからない。
僕の混乱をよそに、しかし土人は進んでいく。
僕は土人に追いつき、彼に注意を向けながらも、片手で彼のコートを横にすべらせ、でっぱりの原因を確認した。
そこには即死するように、心臓めがけてナイフが刺さっていた。
僕は職業柄、不意に見惚れてしまった。一瞬で、的確に作業したのだろう。僕は父の仕業だと直感した。この美しさは、父の他には考えらえない。
その感動に遅れて、僕を痛みが苦しめた。
僕はこの痛みが嫌いだった。痛覚の刺激ではなく、罪悪感だった。
僕はこの痛みも理由で、城の中に入りたくなかった。痛みの原因、拷問室、労働室、処理室、洗脳室…。
僕は土人の背中から刃物を抜き、自分の背中の隠れ蓑にしまった。
すると、土人は立ち止まった。
彼は振り返り、錆ついた機械のように体を、ゆっくりと、僕の方へ、傾けた。僕は仮面のほほえみと目が合う。
僕は驚いた。恐怖だった。
なぜ彼が。感謝なのか、さっき僕や凜を見て学習したのか。
おかしい。
僕は戸惑いながらも、頭を下げた。
僕の脳内は、疑惑や恐れ、あたたかさに占拠された。
土人は身体を戻すと、再び歩き始めた。僕も、再び、ついていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます