廃校編 第6話

なんと校舎の玄関の鍵が開きっぱなしだった。

 逃げるように下駄箱前の床に転がり込む。肩で息をしてグダりながらも鼓動を落ち着かせる。深呼吸………、埃っぽい。

 肩やリュックに付いた水滴を振り払って立ち上がる。あ〜あ、びしょびしょだよまったく。こんな事なら家で大人しくしておけば良かったと今更後悔する。で、だ。


「うわぁ、来ちゃったよ来ちゃったよ」

 既に夜目は効いているのでこの暗闇の中でもボンヤリと全体のシルエットを捉えることができる。名札の外された空っぽ下駄箱が並び、正面には保健室、すぐ横に職員室のある玄関。久しぶりにやってきた小学校は、連中の頭髪とは違って記憶通りの眺めだった。違うところといえば下駄箱がやけに小さく感じることぐらいか、昔は俺の背丈よりも高かった筈なのに今は上に溜まった埃を見ることができる。

 

 懐かしい、目を閉じればあの人生で一番楽しかった頃の光景が鮮明に思い出せる。ついでに人生最悪の思い出の数々も………。

 さて、今度は俺の入ってきた玄関の方を見やる。アルミ製の縁がついた一面ガラス張りの扉にスチールの取手が低い位置に設置してある。外は大雨。土砂降りだ。

 校舎の方に避難して良かったと改めて思う。もしあのまま長い坂道を降って家まで歩いていたら確実に風邪をひいていただろう。最悪の場合、この雨でグチャグチャになった畦道に足を滑らせて泥塗れだ。まぁその泥もこの雨で直ぐに洗い流されるだろうが。

 何にしてもこの雨では家に帰るのは難しい。どう見ても通り雨ではないだろうし、暫くはこの中で雨宿りをする必要があるだろうな。

 

 それにしてもだ、何故この扉は開いていたのだろうか?

 やはりさっき見た鎖の奴が開けていたのか? いやいや、ピッキングもできないような不審者だ、鎖でやったようにこの扉のガラスも粉々にして侵入するだろうに、では何故この扉は開いていたのだろうか?

 別の誰かが、ここの管理人が鍵を閉め忘れただけでは? 多分そうかもしれないし、そうではないのかもしれない。

 

「……鍵を閉め忘れたのかな? ラッキー」

 こんな事が言えるぐらいには今、俺は余裕があった。外から見る分にはこの校舎は立地も相まって幽霊屋敷じみているのだが、屋内に入ってからはさして不気味だとか霊的なサムシングは感じない。

 これとゆう理由はない。廃校と聞いていたが思ったより綺麗だった事や、真夜中で外は土砂降りなのに結構明るく感じることだろうか、とにかく今はそこまで悲観するほどビビってはいない。

 寧ろ鍵をかけ忘れたどっかの誰かさんに感謝したいぐらいだ。おかげ様でこうして雨宿りもできたし、久しぶりに懐かしい学び舎に来ることができたのだから。

 

 はてさて、これからどうしようか。雨宿りと言っても止むまでの間だ。しかしこの調子ではあと数時間は止まないだろう。

 取り敢えず朝までには帰れればいい、それまでの辛抱なのだが、時間を潰すにしても今は漫画やラノベのような嗜好品は持ち合わせてはいない。そんな時のための文明の利器(スマホ)も、この山の中で……それもこんな廃校で電波が通るわけがない。

 念のために一応画面を確認する。やっぱりだ、Wi-Fiはおろか3G回線の接続すらままならない始末。アンテナは一本しか立っていない。つまりだ、俺は今、真夜中の廃校で一人だけ、しかも外部との通信手段も無いままで放り込まれたことになる。

 ……実際には自分から駆け込んだのだが。

 本当にどうしようか、一応スナックとジュースは持ってきているのだが今は特に何かを食べたいとは思っていない。

 ここはせっかくだし、久しぶりにやってきたこの学校を探検するのはどうだろうか?

 

 まぁ、いいんじゃないだろうか。どうせこの感じだと誰もいないのだろう。

 ちょっと何か出そうな雰囲気はしているがどうって事はない。

「そうだそうだ。お化けなんてないさ♪

 お化けなんて嘘さ♪

 寝ぼけた人が見間違えたのさ♪」

 

 生まれたての小鹿の様に足をガタガタさせながら歌ってみる。誰がバンビボーイだと?

 

 少し玄関から廊下の方へ首を出してみる。

 何の変哲もないただの学校の廊下だ。外は雨だが窓からうっすらと光が差しており、遠くにある突き当たりの壁までなんとか視認することができる。当然誰もいない、誰もいないもんだから、余計にこの不気味な現状に拍車をかける。

 前言撤回、やはり余裕なんてなかった。めちゃくちゃ怖い。こんな場所を散歩気分でほっつき回るなんていくら元在校生だとしてもハードルが高い。高すぎる。

 だけどこのままケータイも漫画もないまま数時間もここに居るのも耐えられそうにない。

 どうする俺、どうしよう俺、いっその事このままダッシュで家に帰るのもアリなんじゃないのか⁉︎いや無理ださっきよりもなんか雨粒が強くなってる。

 頭を抱える。最近は本当にこんな事ばかりだ。ツいてないって訳ではないのだろうけれど。

 地味だが、二次元みたいな出来事が身の回りで確かに起こっている。これだけでも自分的には結構ラッキーな部類なのではないのだろうか、なんて思ってしまう

 ひょっとして今のこの状況も、そのラッキーのツケを払わされているのではないのかとも思っている。

 

「………………、くそっ」

 えぇい上妻有正、なにをそんなに迷っているのだ⁉︎

 初心を忘れるな、何故自分がここに来たのかを思い出せ。この素っ頓狂な怪事件を解決する為だろう?

 もしかしたらこの学校に何か手掛かりがあるかもしれないんだ、この陰気臭い廊下の先にも何かあるかもしれないんだぞ。

 ハードルが高いだって? ハードルは高ければ高いほど潜りやすいって言うじゃないか、逆に考えろ。

 ちょっとした肝試しさ、誰も居ないんならビビり散らかしても恥なんてかかないってもんだ。大丈夫だ、ヤバいと思ったら何時でもその辺の窓をブチ破って逃げ帰ればいいんだ。幽霊相手なんか逃げるが勝ちってもんだよ。

 

 自分で自分を励ましてみる。 

 上手くいったみたいだ、さっきまでの慄きは何処へやら、俺はリュックサックを背負い直して廊下の方へ直る。

 いざ出撃。目的地はまだ判らないが取り敢えず薄暗く、やけに長く感じる廊下へ足を踏み入れた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ジョシュは再び廊下を走っていた。今度は確実に追われている。振り返らなくても気配で奴、いや奴等が追ってきているのがわかる。そして同時にある事も悟っていた。

(……自分はもう助からないだろう)

 逃げ切れない、絶対に。奴は自分を捕食する気満々だ。

 

 息も切れてきた。

 足に感覚がない。

 視界が眩みかける。

 

 意識だけはなんとか手放さまいと、気つけのために頬の肉を少し齧り、殆ど無心で手足を前へ前へと動かし続ける。

 唾液と血の混じった液体で甲冑越しの顔面がドロドロになるがもはや気にしない。

 今はただ、この何周目になるのかもわからない角を曲がり延々と続く廊下走り抜ける。

 

 ついさっき見たレーダーの画面を思い出す。間違いない、今自分を追ってきているのは五匹。どう言ったカラクリかは解らないが確実に五体、背後に居る。姿は見えないが確かに居る。そいつらが音も無く追ってくるのだ。

 隊長チームにいた二人も恐らくコイツらに殺られたのだろう。

 先程とは打って変わってコイツらは先回りをしようとしたり通せんぼをする様な挙動をしている。明らかに組織的な行動だ。ある程度の知能も持っているらしい。

 追ってくるスピードは小走り程度なのだが、突然死角からレーダーに写ったり角の向こうで待ち伏せをするかの様に現れる。まるでこのダンジョンの構造を知っているかの様だ。

 もうダメだ……限界だ。いや、限界なんてとっくに過ぎているのだ。さっき見たらレーダーの赤点が一つ減っていた。

 どうやら生存者は俺を含めて二人だけらしい。まぁそれも直ぐに一人になるのだろうが。

 

 キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……

 

 まただ、またあの鐘の音が聴こえる。きっとあの鐘は自分の死の合図なんだ。さっきはあいつらが殺られたんだ。次は自分の番。

 

 そんな風に諦めかけていたジョシュに好機が訪れた。

 

 何度目かの角を曲がった時、それは廊下の向こうにいた。

 リュックサックを背負った人影。顔はよく見えないが、服装から見てこの国の人間の様だ。

(一般人? 何故ここに?)

 おかしな話だ。この学校一帯に設置した人払いの結界を担当したのは他ならぬジョシュだったのだ。

 あれが正常に作動している限り、部外者は本能的にこの学校の敷地内に入りたく無くなってしまう。それが何故? 失敗したのだろうか? あの術は自分でも結構自信があった方なのだが………。

 一応レーダーの反応を確認する。前方にいる反応の識別色は赤。本当に一般人らしい。

 

 ジョシュは閃いた、これは好機だと。

 あの現地人を囮にすれば自分は助かるのではないのかと、自分はもう少しだけ生き延びる事ができるのではないのかと。

 余裕は無かった。気の毒だが、背に腹は変えられない。ジョシュは突然降りかかった幸運に背を押され棒の様な足に再び力が篭めた。

 

「ウオオオォォォオアアアア!‼︎」

 

 最後の力を振り絞り、彼は目前の少年を目指した。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 いざ歩き出してみると意外と足が進むものだ。

 今はまだ一階の廊下。

 確かに怖い。一寸先も見えない暗闇……ってほどでもないのだが、やはりこの目の前に続く廊下の奥の方はモヤがかかっているかの様に見る事が難しい。時々教室の中をスマホのライトで照らしてみると机や椅子の様なものは無く、嫌に広く感じた。

 廊下の壁には幾つもの画鋲の刺さった後だけが残っている。昔はここに色々なチラシが貼ってあったものだ。特に給食の日程表は俺のお気に入りだった。眺めているだけで唾液腺が弾けそうだったっけな。

 何度か教室や廊下のスイッチの摘みを弄ってみはしたが電源はつかない。当然だ、天井の本来蛍光灯の付いている位置にはあのガラス製のチューブが無いのだから。できればついていて欲しかった。

 心細い、とゆうか寂しい。こんな真夜中に学校を徘徊するなら…どうせなら可愛い女の子としたかった。こんなホラーチックな雰囲気の中で「キャッ、有正くんコワイよー」とか言われながら、お化けが怨念とは別のベクトルで殺しにかかって来るぐらいイチャつきながらスマホのライトを頼りに歩き続けるんだ。ウキャキャ。

 

 でも俺にはそんな可愛い子との、とゆうか女子との接点が無い。一応、身内には自称可愛い女の子がいるが、あんなナウなヤングにバカ受け世代は俺の対象外だ。ちなみにそれを言ったら一週間ほど朝食がパンの耳になった事がある。柔らかい方は家族三人がサンドウィッチにして食べていた。


 あぁ〜あ、そう言えば俺のモテ期のピークって小学生の頃だったな、あの頃は割と女子で話し相手とかもいたしな。それもあの一件以来誰も口を聞いてはくれなかったが。ってゆうかここがその小学校じゃんトラウマの現場じゃん。そう思うと腹が立ってきた。


 ここで気が付いたのだが、窓の外が妙だ。相変わらず土砂降りなのは変わらないのだが、どうもこうも霧がかかってきている。嫌に濃い霧だ。本来、この窓の位置からは裏山の雑木林が見える筈なのだがそれが見えない。まるで校舎から三メートル先の風景が消えてしまっているかの様だ。

 この校舎に入る前までは、とゆうかその直後まではこんなにはなっていなかった筈だ、玄関からここまでは十分も経ってはいないってのにこの早さは異常に感じる。

 気味が悪い。何時の間にこんな事になっていたのだろうか? 山の天気は変わりやすいとは言うが、この学校は山の中と言ってもそこまで深くはない。

 確かに幻想的と言えばそうなるかもしれないが嫌な不気味さがある。

 そしてある事がこの不気味な状況に拍車をかけた。


 キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……


「!!!っっ」

 なんだなんだ⁉︎

 いきなり何の音だ⁉︎ 

 頭上から殴りつけるかの様に、しかし大き過ぎない音量で鐘の音が俺を襲った。突然の出来事に頭が真っ白になり変なポーズで固まる。心臓が口から飛び出るかと思った。

 いやこの音は、

「……チャイム?」

 ホームルームや下校の時間に流れるチャイムの音だ。何故急に、こんな時に流れるんだ?

 見上げると丁度自身の頭の真上にスピーカーがあった、どうやら今のチャイムはここから流れてきたものらしい。

 元々バンビみたいに震えていた足が今はもっと悲惨な事になりながらも網状の金属カバーに隠されたコーン紙を睨みつけてやる。


 死ぬかと思った、どうしてくれるんだこの野郎!

 一体どうしたんだ?何故音が鳴った?

 機械の誤作動だろうか、いやそれとも、

「誰かが鳴らした、のか?」


 この校舎に避難してから人影は見ていない。だがこの校舎は既に廃校の筈だ。自動で、それもこの時間帯にチャイムが流れるわけがない。

 誰かが居る、この校舎の中には俺の他に誰かが居る。だが何故チャイムなんだ? 何故チャイムを鳴らした?

 嫌な予感がする、もしかしたらこの校舎に住み着いている浮浪者か何かが俺を驚かせようとしているのではないのだろうか?

 何の為に? 俺をこの場所から追い出すためか、それとも警告の合図か?

 では何故、直接俺に声をかけない?

 恥ずかしがり屋なのかな?ハハッ

 何にしてもこの場所は安全ではなさそうだ。もし誰かが居るのだとしたらソイツはきっとイカれた野郎さ、こんな真夜中に校舎に入り込んでチャイムで悪戯しているんだぜ、見つかったら何をされるのかもわからない。とゆうかもう見つかっているのかもしれない。

 …いや、俺はいいんだよ。ちゃんと目的があって来たんだし、ついでに雨宿りをするつもりだったし。

 だがこうなったら仕方がない、この雨の中だがダッシュで家まで逃げ帰ろう。その後、警察やら何やらに匿名で通報してやればいいんだ。ザマァ見ろ不審者め、俺をビビらせた報いを受けるがいいウキャキャ。

 

 さぁてじゃあ一丁、超必殺『逃げる』を発動しますかね……と言ったところで動きを止めた。

 雨の音に混じって変な音が聞こえる。

 ガシャガシャガシャガシャ……と、機械の様な、金属の擦れる様な音が一定のテンポで、だんだん大きくなってきている。

 これは足音だとすぐに気がついた、人間の足音だ。そんな風に聞こえる。それも屋内からだ。

 だんだん近づいて来ている。音源は確実にこっちへ向かっている。暗い廊下の向こう、角を曲がったその先から足音が大きくなってきている。

 例の不審者だろうか? どうしよう、逃げるか、いやいや、ここは応戦して……ってそんなことできるか、隠れなきゃ。隠れるって何処に?

 

 あまりの急展開に頭が混乱してアタフタする。足がその場から一歩も動かない。パニックのせいかもしれないし、恐怖のせいかもしれない。はたまたその両方か。


 そしてソイツは角の向こうから現れた。

 ソイツは騎士……に見えた。ダークソウルに出てくる様な甲冑を身に纏ったフルプレートのやつ。

 そんな変態が「ウオオオォォォオアアアア!!」なんて雄叫びを上げながらこちらに向かって全力疾走してきたらどうする?

 俺の場合はこうだ。

 

「ギイャァァアアアアアアアアア!!?」

 同じく全力疾走で反対方向に逃げながら悲鳴を上げた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 少年は男子トイレに逃げ込んだ、自分もそれを追いトイレの中に駆け込む。

 薄暗く、狭いタイル張りの室内には、更に狭い個室のドアが並び、もう片側の壁には低めの位置に小便器が並んでいる。

 湿った空気が漂っていた。

 この個室のどれかに潜んでいる。そのどれかから引きずり出して奴に放り出さなければ自分が殺されてしまう。

「どれだ、どこにいる!?」

 

 ジョシュはそう怒鳴りつけたが出てくる気配はない。あくまで沈黙を押し通す気の様だ。こうなっては仕方が無い、許せよ少年。

 

 ジョシュは手当たり次第に扉を開ける事にした。まずは手前から、そしてその隣。

 何方もハズレ。手応えが無いまますんなりと開いた扉の中は空だ。焦るな。

 残りの扉は三つ。このどれかに確実に潜んでいる。

 そして三つめの扉は……ダメだ居ない。

 残り二つ。

 

 ビンゴだ‼︎ 四つ目、この扉には手応えがある、この扉の向こうに少年がいるぞ!

 試しに強く押してみる。だが中々開かない鍵が閉まっているようだ。

 けど問題はない、自分にはこのマスターキー(直剣)がある。この校舎に侵入する際も、正門に巻きついていた鎖をこれで一刀両断したのだ。

 直剣を鞘から引き抜き力を込める。刀身が鈍い光を放つとドアの鍵があるであろう場所に叩き込んだ。

 するとベニヤ板を何枚か重ねた扉と壁は温められたナイフを突き立てられたバターの様にスルリとくり抜かれ、腕一本ほど通るぐらいの穴が空いた。

 ジョシュはその穴に腕を突っ込みカチャリと鍵を開ける。

 おや、開かないぞ? どうしたもんか、扉の向こうから必死に押さえつけているらしい。構わないと、今度はの蝶番を切りつけ根元からドアを破壊し蹴破った。

 だがしかし………、

「居ないだと⁉︎」

 そこには居るはずの少年の姿はなく、代わりに彼が背負っていたリュックサックが置いてある。どうやらこれがつっかえ棒のような役割を果たしていたらしい。

「クソったれ‼︎」

 リュックを乱暴に蹴飛ばして悪態をつく。

 焦るな、イラつくんじゃない。もう奴に逃げ場は無いのだ。こうなったら見つけ次第こいつでアキレス腱を切断してやる。

 そうすれば悲鳴であの化け物を惹きつけるだろうし自分の逃げる時間もより確保できるとゆう物だ。

 さて、最後のドアだ。

 

 五つ目の、一番奥にある扉も鍵がかかっていたが、この扉も直剣でバラバラにした。

 鍵を両断し、蝶番を破壊する。ついでに縦と横に切れ目をつけてやった。

 

 さあ開け、開いて俺に見せてくれ。幸運って奴を‼︎ 生き残るための希望を!

 

 だが最後の扉の向こうにも少年はいなかった。影も形も見当たらない。

 ジョシュは目を皿のようにして個室内を探す。

 壁に穴があるのか?

 この便器の中に逃れたのか?

 それとも本当に消えてしまった?

 そんな訳がない、確かに自分はこの扉の前に終始いた、それにこの扉から誰かが出入りした様子もない。

 ではあの少年は何処に消えた?

 この扉以外に個室内から出入りする方法なんて…………⁉︎ 


あるぞ!あったぞ‼︎見つけた。少年が何処に潜んでいるのかを、今少年が自分のすぐ側に居ることをジョシュは理解した。簡単な事だ。

 

 そしてジョシュは一番奥の個室から飛び出して………もう一つの事実を知った。知ってしまった。

 

 最期に彼が目撃したものは、綺麗に並んだ歯と、この暗闇に怪しく浮かび上がった目蓋のない目玉だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る